『たまには遊びも②』
今だ! 作戦B!
説明しよう。
作戦A 鬼が来たら右に逃げる、あとは頑張る
作戦B 鬼が来たら左に逃げる、あとは頑張る
以上だ!
「あっ! 待て!」
全力疾走で追いかけてくる美香。
ふん、俺にはあらかじめ「距離」という保険がかけられているからな。
お前から逃げるなんて容易いことよ!
俺はすぐさま左側の角を曲がり、体育館の表側へと抜け出る。
目の前には大きな白い校舎。とりあえず校舎沿いにひたすら逃げる!
校舎沿いを無我夢中で走る俺だが、背後からはいつの間にか距離を詰めてきた美香の声が迫る。
「待てえ!」
ちょ、ちょっとタンマ! 速い、速いって!
そういえば忘れてた。こいつめちゃくちゃ足速いんだった。
反則だろ、その速さは……。
美香はへとへと走る俺の横に並ぶと、「はい、タッチ!」と言ってどや顔をする。
呆気なく捕まる俺。実に不甲斐ない。
「次、先輩が鬼ぃ~! 私逃げますんで、百秒数えてくださいね!」
そう言うと、美香は風のように去って行った。
「くっそぉ……しゃあない、百秒数えるか。いーち、にーい……」
しかし、これじゃあ美香を捕まえることは無理なんじゃないか?
それこそもう背後から無理やり襲うしか……。む、語弊のある言い方をしてしまった。
風紀委員であるこの俺が、そんな不埒なまねをするわけがないだろう?
そうなると標的は真夜だな。あいつならそんなに足速くなさそうだ。それに真夜が隠れている方向は
だいたい検討ついてるし、やっぱあいつが狙い目だ。
よし、絶対捕まえてやる!
少々退屈な時が過ぎたものの、ようやく俺は数を数え終った。
「きゅうじゅく、ひゃーく! よおし、行ってみよう!」
俺はぐわっと体を起こし、声を張り上げる。
周囲を見回すと、たまたまその場を通りかかった女子生徒達が、何やら俺を見ながらひそひそ話をしている。
「何あれ、キモ」「あれって風紀委員の委員長じゃない? いい年して何やってるのかしら?」「うわ、『行ってみよう』とか言っちゃって、マジ引くんだけど~」
は、は、は、恥ずかし~~~~~~~い!
やめて! そんな目で俺を見ないで! 俺を見下さないで!
ダメだ、もうここには居れん! 今すぐ逃げる!
というわけで、俺は女子生徒の冷ややかな視線を受けながらも逃走に成功した。