『たまには遊びも』
外へ出ると、真夜はすっかり元気になった。
「わ~い! 遊ぼ! 守くん!」
引きずってたはずの俺が逆に引きずられる羽目に。
おいおい、そっちは巡回ルートじゃないぞ。
今日は清々しいまでの快晴。空は青く澄み渡り、心地よい風が吹く。こんな素晴らしい日に外で風紀委員の仕事ができるとは、これ以上にない至福の時だ。
こんなに気分がいいのだから、今日くらい真夜の遊びに付き合ってやってもいいだろう。
「よし、何して遊ぶんだ?」
「うわ、珍しく守くんが乗る気だ! これは何かあるよ?」
怪訝そうな顔で俺を見る真夜。
む、せっかく乗る気になったのに可愛くないやつめ。やっぱやめようかな。
「じゃあねー……」
何やら考え始める真夜。
多分かくれんぼとか鬼ごっごとか古典的なのが出てくるだろうな、こいつの場合。
「隠れ鬼!」
元気よく叫ぶ真夜。
複合技と来たか。
「あのさ、二人でやってもつまんないだろ、それ」
「えー、そんなことないよ! やろうやろう!」
どうしたもんかとため息をつく俺。
すると、救世主の登場。
「あ、守先輩、真夜先輩! こんなところで何してるんですか?」
振りかえるとそこには美香が立っていた。
「あ、美香ちゃんこんちわー!」
「おう、美香。ちょうどいいところに来たな。ちょっと付き合ってくれ」
事情が把握できず頭に「?」を浮かべている美香。
俺達はこれまでの流れを軽く説明した。
「……隠れ鬼?」
「ああ、隠れ鬼だ。さすがに二人じゃできないから、お前も加わってくれないか?」
「いいですけど、私ルール知りませんよ?」
なぬっ。これだから最近の子は……。まあたかが一個違いだけど。
「隠れ鬼知らないの? じゃあ教えてあげるー」
知らない人もいるだろうから俺から説明しておこう。
隠れ鬼とは、その名の通り「かくれんぼ」と「鬼ごっこ」を掛け合わせた遊びだ。
まず、ジャンケンで鬼を決め、鬼となった人はその場で目を瞑り数を数える。まあここまではかくれんぼと同じだな。規定数数え終わった鬼は、早速隠れた人を探しにいくわけだ。かくれんぼと違うのはここからだ。鬼は隠れている人を見つけたら、その人にタッチしなければ、鬼を代わってもらえない。つまり、見つかっても鬼から逃げていいのがこの隠れ鬼。タッチされた人は、その場で規定数数え始め、そこからまた隠れ鬼が始まるのだ。それを繰り返して楽しむのが、隠れ鬼だ。
「というルールだよー」
真夜がざっと説明すると、美香は「なるほど!」とルールを把握する。
「校舎内は禁止な。危ないから。あと、一応今巡回中だから、あんまり長くはできないぞ。ゲームの途中でも、一時間後にまたここに集合だ。いいな?」
「はあい」
「了解です!」
「うん。じゃあ、早速ジャンケンだ」
「「「最初はグー、ジャンケンポン!」」」
俺、パー。
真夜、パー。
美香、グー。
「私が鬼ですね」
「おう、百秒たったら探し始めてくれ。じゃあ、俺達は逃げるぞ!」
「おーう!」
俺と真夜は正反対の方に別れ、隠れ場所を探し始めた。
しかし何だろうこのドキドキは。小学校の頃はよくやってたけど、久しぶりにやってみると、隠れる時のこの感覚がたまらなく楽しい。
どこに隠れれば鬼に見つからないか、ここは意外と盲点なんじゃないか。考え出すとワクワクが止まらない。
あっちもダメ、こっちもダメ。こうして見ると、この学校も意外と狭く見える。
もっといい隠れ場所はないか。もうすぐ鬼が動き出すんじゃないか。
そんな焦燥に駆られながら、俺は子供のように駆け回っていた。
結局、俺は体育館裏という、案外普通の場所に落ち着いた。
体育館裏に隠れる場所はあるのか?
いい質問だ。
実は体育館裏に隠れる場所なんてない。では何故ここを選んだかというと、それは、これが「かくれんぼ」ではなく「隠れ鬼」だからだ。
体育館が横に長い一つの長方形だと想像してくれ。そして俺は今、その長方形の上の辺の真ん中にいる。もし、鬼がその長方形の右上の角から顔を覗かせたとしよう。そしたら俺はすぐさま左の方へ逃げればいい。逆もまた然りだ。体育館の面積は横に広く、俺は十分に距離を置いたまま鬼から逃げる事ができる。隠れる事は考えず逃げる事だけ考える。それが俺の作戦だ。
さてと、美香はそろそろ数え終ったかな?
俺は一人にやにやしながらうずうずしてる。
傍から見ればただの変態だ。だが、今だけは見逃してくれ。俺は今猛烈に興奮しているのだ。
待ってる時のこの緊張感もまたたまらないな。忘れかけていた子供心が蘇ってくる。
「俺を見つけないで」というより、「早く俺を見つけて」という思いに駆られる。
俺って変態なのか?
でも、見つからないで終わるのはつまらない。皆だってきっとそうだろ?
だから俺のこの思いは自然なもので……って、んん?
「ふふっ、見つけましたよ? 守先輩……」
見ると、右の角から美香が不敵な笑みを浮かべながら顔を覗かせる。