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風紀の雰囲気  作者: mild@珈琲
●第ニ話
7/9

『たまには遊びも』

 外へ出ると、真夜はすっかり元気になった。


「わ~い! 遊ぼ! 守くん!」


 引きずってたはずの俺が逆に引きずられる羽目に。


 おいおい、そっちは巡回ルートじゃないぞ。


 今日は清々しいまでの快晴。空は青く澄み渡り、心地よい風が吹く。こんな素晴らしい日に外で風紀委員の仕事ができるとは、これ以上にない至福の時だ。


 こんなに気分がいいのだから、今日くらい真夜の遊びに付き合ってやってもいいだろう。


「よし、何して遊ぶんだ?」

「うわ、珍しく守くんが乗る気だ! これは何かあるよ?」


 怪訝そうな顔で俺を見る真夜。


 む、せっかく乗る気になったのに可愛くないやつめ。やっぱやめようかな。


「じゃあねー……」


 何やら考え始める真夜。


 多分かくれんぼとか鬼ごっごとか古典的なのが出てくるだろうな、こいつの場合。


「隠れ鬼!」


 元気よく叫ぶ真夜。


 複合技と来たか。


「あのさ、二人でやってもつまんないだろ、それ」

「えー、そんなことないよ! やろうやろう!」


 どうしたもんかとため息をつく俺。


 すると、救世主の登場。


「あ、守先輩、真夜先輩! こんなところで何してるんですか?」


 振りかえるとそこには美香が立っていた。


「あ、美香ちゃんこんちわー!」

「おう、美香。ちょうどいいところに来たな。ちょっと付き合ってくれ」


 事情が把握できず頭に「?」を浮かべている美香。


 俺達はこれまでの流れを軽く説明した。


「……隠れ鬼?」

「ああ、隠れ鬼だ。さすがに二人じゃできないから、お前も加わってくれないか?」

「いいですけど、私ルール知りませんよ?」


 なぬっ。これだから最近の子は……。まあたかが一個違いだけど。


「隠れ鬼知らないの? じゃあ教えてあげるー」



 知らない人もいるだろうから俺から説明しておこう。


 隠れ鬼とは、その名の通り「かくれんぼ」と「鬼ごっこ」を掛け合わせた遊びだ。


 まず、ジャンケンで鬼を決め、鬼となった人はその場で目を瞑り数を数える。まあここまではかくれんぼと同じだな。規定数数え終わった鬼は、早速隠れた人を探しにいくわけだ。かくれんぼと違うのはここからだ。鬼は隠れている人を見つけたら、その人にタッチしなければ、鬼を代わってもらえない。つまり、見つかっても鬼から逃げていいのがこの隠れ鬼。タッチされた人は、その場で規定数数え始め、そこからまた隠れ鬼が始まるのだ。それを繰り返して楽しむのが、隠れ鬼だ。



「というルールだよー」


 真夜がざっと説明すると、美香は「なるほど!」とルールを把握する。


「校舎内は禁止な。危ないから。あと、一応今巡回中だから、あんまり長くはできないぞ。ゲームの途中でも、一時間後にまたここに集合だ。いいな?」

「はあい」

「了解です!」

「うん。じゃあ、早速ジャンケンだ」

「「「最初はグー、ジャンケンポン!」」」


 俺、パー。

 真夜、パー。

 美香、グー。


「私が鬼ですね」

「おう、百秒たったら探し始めてくれ。じゃあ、俺達は逃げるぞ!」

「おーう!」


 俺と真夜は正反対の方に別れ、隠れ場所を探し始めた。


 しかし何だろうこのドキドキは。小学校の頃はよくやってたけど、久しぶりにやってみると、隠れる時のこの感覚がたまらなく楽しい。


 どこに隠れれば鬼に見つからないか、ここは意外と盲点なんじゃないか。考え出すとワクワクが止まらない。


 あっちもダメ、こっちもダメ。こうして見ると、この学校も意外と狭く見える。


 もっといい隠れ場所はないか。もうすぐ鬼が動き出すんじゃないか。


 そんな焦燥に駆られながら、俺は子供のように駆け回っていた。


 結局、俺は体育館裏という、案外普通の場所に落ち着いた。


 体育館裏に隠れる場所はあるのか?


 いい質問だ。


 実は体育館裏に隠れる場所なんてない。では何故ここを選んだかというと、それは、これが「かくれんぼ」ではなく「隠れ鬼」だからだ。


 体育館が横に長い一つの長方形だと想像してくれ。そして俺は今、その長方形の上の辺の真ん中にいる。もし、鬼がその長方形の右上の角から顔を覗かせたとしよう。そしたら俺はすぐさま左の方へ逃げればいい。逆もまた然りだ。体育館の面積は横に広く、俺は十分に距離を置いたまま鬼から逃げる事ができる。隠れる事は考えず逃げる事だけ考える。それが俺の作戦だ。


 さてと、美香はそろそろ数え終ったかな?


 俺は一人にやにやしながらうずうずしてる。


 傍から見ればただの変態だ。だが、今だけは見逃してくれ。俺は今猛烈に興奮しているのだ。


 待ってる時のこの緊張感もまたたまらないな。忘れかけていた子供心が蘇ってくる。


 「俺を見つけないで」というより、「早く俺を見つけて」という思いに駆られる。


 俺って変態なのか?


 でも、見つからないで終わるのはつまらない。皆だってきっとそうだろ?


 だから俺のこの思いは自然なもので……って、んん?


「ふふっ、見つけましたよ? 守先輩……」


 見ると、右の角から美香が不敵な笑みを浮かべながら顔を覗かせる。


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