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風紀の雰囲気  作者: mild@珈琲
●第一話
3/9

『体育館』

 そして俺達は体育館に到着した。


 俺達は来るのが少し早すぎたようで、まだ先生が数人いるだけで、生徒会連中の姿はまだ見えない。まあノルマは決まってるし、早く終わらせるに越したことはないな。


「それじゃあ早速……」

「守くん!」

「ああ?」

「うち、トイレ!」

「あいよ、すぐ戻って来いよ」

「うん!」


 真夜が退出した。


「仕方ない、俺達だけでやるか。な、神前」


 すると神前は何やらそわそわしている。


「五条君」

「なんだよ」

「私もトイレに……」

「……い、行ってらっしゃい」


 神前も退出した。


 なんだよあいつら、策士かよ。俺一人に全部やらせるって寸法か?


 しゃあねえ、一人で取っ掛かりますか。


 目の前に積み重ねられたパイプ椅子。ノルマは……八十。


 くっ……、これも学園の風紀の為だ。風紀委員に回される仕事はきっと全部学園の風紀に関わる大切な仕事なんだ。だから俺、負けない!


 一人黙々と作業する俺。まだ寒さの残る春の上旬だってのに、この体からほとばしる汗は何だろう。青春の汗ってのはこんな感じなんだろうか。部活動に所属したこのない俺は一人勝手な空想を広げていた。



 十五分経過したが二人は帰って来ない。さすがに長くない? 確か体育館裏にトイレあったよな。ああ、アレか。大きい方か。きっとそうだ。そうに違いない。


 気を取り直してもう一度頑張ろう。とは言えもうノルマも残り少ない。これくらいなら五分もあれば終わるだろう。あともうちょっとだ。



 でもって更に十五分経過。さすがにこれはおかしい。何かあったに違いない。

俺は居ても立ってもいられず、二人がいるであろうトイレに向かった。


 しかし――


「わわっ、守くん!」


 走っていると、体育館の入り口で真夜とぶつかりそうになった。


「真、真夜? 随分遅いじゃないか! 何かあったのか?」


 真夜は落ち着かない様子で、早口にしゃべりだす。


「あ、あのね、うちと美雪でトイレに行ったらね、茶髪の女の子が出てきて、美雪がどんってその子が……あれ??」

「神前がどうしたって?」


 混乱している真夜からは上手く情報を聞き出せない。これはどうにかして落ち着かせないといけないな。

 それで、肝心の神前はどこに……。


「私なら、ここよ……」


 見ると、そこには息を荒げ、疲れきっている神前の姿があった。


「神前! どうした、何があった!」

「あ、あなたが言ってた……茶髪の子に、財布をすられたわ……」

「あいつ……! やっぱりここへ来てたんだな。それで、そいつは?」

「一生懸命追いかけたんだけど、逃げられちゃって……ごめんなさい」

「あ、謝ることないって。でもこれで、あいつを捕まえなきゃならない理由が一つ増えたな……、腕が鳴るぜ」


 興奮している俺を横目に、「ふふっ」と微笑む神前。


 相変わらず呼吸は荒いが、やけに落ち着いている。なんだ?


「盛り上がっているとこ悪いけど、この事件、意外と楽に片付きそうよ。彼女はもう一度私の前に現れるわ」

「……? どういうことだ?」

「これよ。私が彼女とぶつかった時、彼女がこれを落としたの」


 神前が差し出したのは、小さな手帳。


「これって生徒手帳~?」


 混乱から立ち上がった真夜が手帳を覗き込む。


「そう、生徒手帳よ。顔写真から住所に電話番号まで全ての個人情報が記載されているの。それにこの学園の図書館やコンピュータールームを利用するにはこれが必要だわ。彼女は必ずこれを取り返しに来る」

「なるほど。ナイスだ神前! それで、そいつの名前は……?」



早瀬はやせ 美香みか



「早瀬……美香……か」

「知らない名前ね」

「うちも知らな~い」

「俺も知らないな。なあ、この生徒手帳、俺が預かっててもいいか?」

「次はあなたが標的になるかもしれないわよ? それでもいいの?」

「ああ、俺の事は心配するな。それよりお前、財布取られたってことは……」

「一文無しね。五条君、お金貸して」

「はいよ……、まあそうなるとは思ってたさ。じゃあ仕事に戻ろうぜ。警備の仕事、もう始まってるんだぞ」

「早瀬美香は現れるかしら?」

「さあな。だからこその警備だろ。もし現れるんだったら、必ずこの入り口を通過する」

「そうね」



 そして、俺達は緊迫感に包まれたまま、警備の仕事に移った。


 警備を始めて数分後、突如、動きを見せた。


 誰がって? 真夜が。


「守くん!」

「ああ?」

「暇!」

「暇って……警備ってのはそういうもんなの」

「遊ぼ?」

「おいおい……」

「真夜、私と遊びましょう?」

「うん!」

「おいおい、お前ら、今は大事な警備の仕事中でなあ」

「入り口一つ見張るのに三人もいらないわ。無駄な労働とはこの事よ。私は真夜と外へ遊びに行ってくるから、警備はあなたに任せるわ、よろしく」


 よろしくって……、またこのパターンですか。


 神前と真夜が同時退出した。


 はあ、なんで俺がこんな目に……。まあ、神前の言い分もごもっともだ。この件に関しては目を瞑ってあげよう。


 その後、俺は一時間近くある式中、ただぼーっと立ち尽くしていた。


 校長の話は無駄に長く、ただただ眠いだけだった。


 ところどころ去年と同じフレーズを使いまわしていたが、気にしないであげよう。


 途中何人か遅れて入ってくる生徒もいたが、結局早瀬美香は現れなかった。


 入学式サボる新入生とか、どんだけ不良だよ。親が心配するぞ?


 心中、そんな事を愚痴っていた。


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