“元”勇者はもう一度
短編というものに興味があったのでやってみました。
いつ投稿するかは分かりませんが、この話の長編やります。
勇者カイルの凱旋だー!!!!!!
民達のそんな声。
世界を大きく揺るがした魔王を討伐。
魔法使い・戦士・僧侶。
そして……
勇者。
莫大な報酬と名声。
魔王を倒した時、互いの好きな道に進んだ。
そうして四年。
世界は平和だと思っていたのだが……
彼らには重要な取りこぼしがあったのだった。
─────────────────────
【四年後】
「うらあぁぁぁぁ!!!!!」
クワでひたすら、地面を耕すカイル。
彼は四年前に魔王を倒した“勇者”なハズなのだが……
四年前とは圧倒的に平和な仕事を行なっているのだ。
カイルは老人の多い農村で一人暮らしをしていた。
「カイル君ありがとねぇ……」
老婆が感謝を告げる。
農業を主体に儲かっている村だった為に、老人が多いこの村では年々厳しくなっていく。
「大丈夫さ。いつでも暇しているから」
カイルはある程度の手伝いが終わった後、ルーティーンとしていつもの場所へと向かう。
その場所は……
「ヴァル、セシー、ミラ。お前らあの世で今日は何してんだ?」
勇者パーティの元パーティである彼らの墓。
三年前、別々の理由で彼らは死んだ。
魔物や悪者との戦いに関わっていないカイルだけ生き延びた。
深い悲しみに襲われたが、心優しい老人達の励ましによって、今のカイルがいる。
遺体どころか骨さえ回収できずとも、心はここにある────
そう信じて。
神なんて信じないカイルだが、今この瞬間だけ神に祈っている。
都合が良いなと神は彼を嗤うだろうか。
「…………」
そんなことがありつつ、時が経つこと昼。
老人達の手伝いが一通り終わった時、老人の一人が慌てた様子で此方に走ってきた。
「た、大変じゃ! 冒険者の人が倒れておる!!」
「え?」
「ワシらじゃ運ぶのは厳しい……カイル君の手を借りたい!!」
ここら辺りの……はっきり言ってこの田舎付近では魔物なんてほとんど出ないし、出たとしても冒険者やギルドの人間が欲しい“金になるモノ”なんてない。
(だからおじいさん達は農業でわざわざ…………なら、なんの為に……?)
ここに“元”勇者がいると知っている人間は────いないだろう。
「取り敢えず、どこにいるか教えてくれ」
そうして指指された方角へ向かうと、そこには情報通り倒れている少年がいた。
体格はしっかりとしているが、戦士レベルの筋肉と言われると違う。
(魔力が体を芯に固まってる感じ……コイツは魔法使いか)
息もしているし、何者かによって眠らされた痕跡もない。
人間にある第二のエネルギーが、ピンピンしているのだ。殆ど問題は────
「殺った!!!」
すぐ近くに待機していた男が、小さな鎌を振るう。
どうやら森に入った辺りから監視されていたらしい。
カイルは後ろを瞬時に確認。
地面に手を付いて、足を浮かせる。
「!? (まさか────)」
片手でバランスを保ち、脚を回して一気に背後の敵を蹴り飛ばした。
森の奥へと飛ばした後、倒れていた男を近くの岩に置いて、蹴り飛ばした奴を追いかける。
「ハァッ……ハァッ!! 受けた!! なんとか受けたぞ!! 勇者カイルの一撃を!!」
骨は折れてない。
血も(予想に反して)出ていない。
奴を暗殺する為に、巨体なオークの棍棒による一撃を耐えて反撃する鍛錬をしておいて良かった〜!
……と、安堵したのも束の間。
「“元”な」
木の枝に立つカイル。
その表情には余裕が全面に出ていた。
「お前暗殺者だな?」
大方予想がついているも、確認のため聞く。
「……俺はお前を殺す為に長い時間をかけてきたんだ!!」
(話聞けよ)
彼は本当に頑張ってきたらしく、長々とその努力を語った。
それを止めるのはあまりにも酷な話。
黙って聞くこと十分。
「……ってわけよ!!」
「…………ソッスカ」
「そして!! お前が丁度記念すべきの殺しリスト百人目!!」
この男。
本当に止まらない。
いつもとは大きく違う相手だからか、それとも勇者とやれる興奮か、男はどこか嬉しそうだ。
「お前の破壊力とパワーの対策に、俺は全てを費やしてきた!! かかってこい!!」
男の魔力からも、やる気が炎のように滾っていた。
こんなめちゃくちゃな男でも、カイルにとっては久々の戦いだ。
腕試し……どこまで衰えたかを実感するチャンスでもある。
「一つだけ教えてやる」
「あぁ!?」
「俺。パーティで一番魔力量が少ないし、破壊力だって一番じゃなかったんだ。その中でもあいつらと肩を並べたのは……」
カイルの言葉に「?」を浮かべる男。
彼の目に一瞬映ったのは、拳と足に魔力を“移した”カイルよ姿が。
グンッ。
空気を切り裂くような、そんな音が鳴った。
(速────)
「スピードだよ」
カイルの拳が男の顔にめり込み、地面に叩きつけられる。
地面を走る音も、その前の踏み込む瞬間も。
気配として全てが聞こえなかったのだ。
「まだまだ行くぞ」
両手に全ての魔力が集中し……彼に与えられた否応なしの一撃を存分に受ける。
ドドドド!!!
と連打の音が森に響く。
そんな状態でもまだ諦めない。
「……な゛め゛んじゃねぇ゛!!」
鎌を振り、カイルの首へと迫るも────
綺麗に音を立てずに掴まれた。
「おい……コレ……魔力が武器に込められてないぞ。こんなん一瞬で……ぶっ壊される」
「えっ!?」
鎌の刃先が大きく破損。
あり得ない。
というか、全てが速すぎる。
「ラストだ。耐えろよ?」
「!!」
顔にカイルの顔に命中!!
体力が尽きた男はそのまま気絶してしまった。
魔力というエネルギーについての“活かし方”を知っていたカイルの勝ちだ。
取り敢えず適当に応急処置をした後、放置。
魔物にやられる心配はないだろう。
そうして彼は恐らく暗殺者の男によって、気絶させられていた少年の下へ。
「ん……ってうおっ!!?」
少年は目を覚ました。
視界一杯に広がるのは、世界を救った勇者の姿。
「勇者カイル!!」
「元ね」
さっきまで寝ていたにも関わらず元気な様子だ。
「そう言えば俺を眠らせた奴は!?」
そういえば彼には魔法などの攻撃による外傷を感じなかったのは、あの暗殺者の手腕によるものだろう。
ああいう奴らは眠らせるのも上手い。
「そいつは倒したよ」
「流石だぜ〜!! でも、いつか必ず俺一人でもやれるくらいに強くなってやるからな!!」
少年はやる気に満ちていた。
彼は魔法使い見習いで、一人前を目指しているとのこと。
「俺の名前はロイ・アカデウム!! 天才魔法使いだ!!!!!」
「……よ、よろしく」
パーティにいた魔法使いミラは自己肯定感が地に落ちていた人間だった為に、こんなに自信満々なのは新鮮だ。
ひとまずロイを村に案内した。
宿なし金なし体力なしの冒険者に必要なものが何一つとしてない。
せめて数日くらいは助けてあげよう。
────────────────────
【夜:村にて】
食事と寝床の提供。
彼は魔王討伐の武勇伝を期待しているようだが、生憎そんなに自慢できるものがない。
「ガキの頃はカイルサンの聖剣による一撃を話が好きだったんだ」
「聖剣!?」
そんなものは知らない。
パーティ全員、特別な人間も変わった身分を持った人間もいないし、特殊武器なんて持ってない。
「え!? ないの!? 聖剣!?」
「ないよ!」
四年でかなり話が大きくなったりしていた。
その聖剣伝説はどこから来たのか一切わからないが。
「もう使えないけど、剣なら見せられるぞ」
「マジで!?」
二人は外に出て、近くの人一倍大きな大樹へと向かった。
そこには一本の“錆びた剣”が。
聖剣でもなんでもない。
勇者だから手に入れた訳でも、特別な人間だから手に入れた訳でもない。
「適当な街で買った……銅貨五枚の鉄剣。これで魔王を倒したんだ」
「……!!」
「……幻滅したか?」
申し訳無さそうに呟くカイルだったが、ロイの目は全くと言っていいほど揺らいでなかった。
「いや……むしろやる気が更に出てきた」
もっとカッコいいとカイルに告げる。
聖剣“なんか”に頼らずとも、人は強敵に勝てるのだと再確認したらしい。
「…………そうか」
「絶対に追いついてやる。待ってろよ!! カイルサン!!」
タメ口なのか敬語なのか…………
ひとまず安心した様子でため息を吐くカイルなのであった。
そうして帰ろうとした時────
「それが、父を殺した剣か」
背後に若い男の声。
その声には聞き覚えがある。
“四年前”に。
「うわっ!?」
カイルはロイの服を掴んで、背後にいる男と距離を取った。
彼の目に映るのは────
あり得ない光景。
「久しぶりだな。勇者カイル」
「……驚いたな」
魔王の息子。
王の座を継ぐものでもある……
「本当に驚いたよ……ジェナン。(四年前に殺したはずなんだがな……)」
「また会えて嬉しく思うぞ? カイル」
ドスの効いた声で名前を語る。
四年ぶりの会合。
それは世界の変化を表していたのかもしれない。
────────────────────
────かかってこい!! 勇者!! 魔王と戦いたいなら、この俺を倒してから行け!!!
そうやって襲ってきた未熟者はもういないと言うわけか。
確かに今、
息子ジェナンには、全くと言っていいほどに隙がない。
「わざわざここに来たのは復讐の為か? 魔王……父を倒した男への」
「違うさ」
あっけからかんと返す。
言葉通り、節々に憎しみや怒りなどは全く感じない。
「再び俺がこの世界を混沌に沈める」
「…………」
「父がそこから新たな秩序を生み出そうとしたように」
世界征服。
その為には、“納得”か“服従”が求められる。
魔王が求めたのは後者だった。
「それを俺が黙って見過ごすとでも?」
ジェナンを睨む。
勇者だろうがなんだろうが、コイツは止めなくてはならないのだ。
「お、俺も戦うぜ!!」
足が震えても怯まずにロイは叫ぶ。
どう見てもコイツは荷が重い。
「それは心強い。だが……お前では少し荷が勝つ。ここは俺に任せてくれ」
「……!! でもっ!」
「おじいさん達を守ってくれ。俺の恩人なんだ」
勇者であることを黙って、暖かく迎えてくれた人達。
彼らを守るためにはロイの手が必要だ。
「ッ……任せろ!!」
納得できたわけではないだろうが、理解してくれたらしい。
ロイは村の方へと走っていった。
これで広い場所での一対一。
四年の月日。
あの時殺してからいつ目覚め、鍛錬してきたのか。
そもそも殺しそこねていたのか。
奴に対する情報が全くと言っていいほど分からない。
(こいつのスピードは異様だ。できる限り間合いに気をつけて────)
ドシュッという音が鳴る。
右腕に激しい痛みと、“感覚”が消えた。
速い。
四年前のあの時より遥かに。
今の手刀で右腕が持ってかれた。
「これで終わりか?」
カイルの背後にいるジェナン。
互いに背中合わせの中、奴は腰を捻って拳による追撃。
「……さぁな!!」
真後ろに蹴り上げ、奴を遠くに飛ばした。
さっきの速度が本気でないとしたら、接近戦は不利。
防御に回るしかない。
「…………残念だな」
「そりゃ悪かった」
久方ぶりの死闘。
厄介な敵がまた増えた。
「昔のお前ならこれくらいカウンターしてた」
腕に強烈な痛み。
こんな痛みも久しぶりだ。
(さぁどうする? 回復魔法を使って、切断された腕を接着したいんだが……)
それをコイツが許してくれる訳もない。
四年前もスピードが厄介な奴だったが、正直言って強くはなかった。
────勇者……お前が父を倒す存在か。
────あぁ。俺たち人間をお前達が殺すと言うのなら、それは止めなくてはならない。
そうして覚悟を決めて剣を振り殺した────はずなのだが。
「ッ!!」
一瞬でカイルの目の前に到達して踵落とし。
寸前でかわす。
腕を斬られたからか、本来戦いで叩き起こされるであろう“脳”の活性。
日常では絶対使わない細胞達が叩き起こされた。
(村はロイが守ってる。もう一人欲しい状況でも……一人でやるしかない!!)
改めて仲間のありがたみを感じる。
厄介な敵と相対した時のコンビネーションは必要だ。
「もう終わりに……しよう!!!」
基礎がしっかりしているからこそ、この拳を止めるのは厄介。
厄介だからこそ────
「……ダラッ!!」
「!?」
真っ直ぐな突き。
カイルはそれを寸前でかわして掴む。
それを支点にして、地面から足を離して自身を跳ね上げる。
体が一瞬だけ宙に浮いた。
(こいつまさか────!)
反撃の隙を与えずに下半身をぐいんっと曲げてジェナンを蹴り飛ばした。
「厄介だからこそ、工夫すんだよ」
────────────
【ロイ】
「ッ……!! クソッ!!」
情けない、情けない、情けない、情けない。
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。
なんで逃げているんだ?
(俺は……足手纏いだから)
涙がとんでもないレベルで出てくる。
鼻水も止まらない。
憧れの勇者に頼られて、一瞬嬉しかった……が。
でも“魔王の息子”が襲撃してきた際に、戦力として数えられていなかったのも……分かった。
村を守るのも大事な仕事。
……村に魔物などの魔力気配がなかったとしても。
あの息子は多分正々堂々な奴。
卑怯な手は使わないだろう。
────絶対に追いついてやる。待ってろよ!! カイルサン!!
ここで逃げて、どこで立ち向かう?
怖い。
でも────
「ここで逃げたら!! 俺に顔向けなんかできねぇ!!」
そうして足にグッと力を入れる。
やってやる。
「俺が……並ぶ!!」
────────────
【カイルとジェナン】
なんとか奴から隙を作り出し、切断された腕をくっつけたカイル。
僧侶の治癒レベルではないにしろ、カイルだって適当な治癒はできる。
ドゴォン! ドゴォン!
……と、拳と拳がぶつかり合う。
そうして────
「チッ!!(ペースアゲてきやがった!!)」
殴り合いの攻撃スピードが次第に増していく。
今は(攻撃だけなら)まだ[カイル=ジェナン]という均衡が取れているが……
奴のあのスピードがこの殴り合いにも使えるのなら状況は一気に[カイル<ジェナン]となる。
「……こんなに長く戦うのは四年ぶりだ」
「奇遇だな、俺もだ」
「お前の癖は少し分かった」
「あ!?」
「“コレ”だろう?」
少しだけジェナンが守りに入ったのを見逃さず、拳を奴の腹に向かって放つ。
硬いもの同士がぶつかった、重苦しい音が響いた時にカイルは気づいた。
(こいつ────!!)
「……ふっ」
(今ある魔力で耐えやがった!!!)
確かにカウンターを恐れて、魔力による身体強化を拳に集中させていたわけではなかった。
満遍なく纏って攻防一体にした“慎重さ”がここで裏目に出る。
「!!」
そうして腕を掴まれ、遠くに投げ飛ばされた。
体勢を上手く変えて受け身をとり、カイルは再び応戦体勢。
(俺の感覚が戻ってきたとは言え、コイツの魔法や“異能力”がどんなものか想像つかない!!)
(さっきのは中々効いたな……反射神経・瞬時の判断速度などの細部は衰えたが、純粋なパワーやスピードは四年前より良くなっている……)
あの時、奴は確か十八歳。
そこから四年も経てば、いくら戦闘経験が減っても肉体の鍛錬を続けていれば自然と伸びる。
この時二人は同じことを思っていた。
[この均衡をどう崩す!?]と。
思考や願望が交差する中、突如ジェナンは後ろに下がった。
奴は息を大きく吐いて一言────呟く。
「[禍刻]」
(能力発動の気配────!!)
四年前、奴は異能力を持ってはいなかった。
異能力。
魔法使いでは持てない戦士だけの特権。
こっちは持ってないと言うのに。
彼は苦しそうな声をあげながら、魔力がみるみる増えていく。
体内から魔力が漏れていく様子から察するに、どうやら使い始めて間もないらしい。余裕もなさそうだ。
(どうやら……まだ能力を使うには俺はまだ弱いか……!)
「過度な力は身を滅ぼすぞ」
「フフ……“過度”ね……」
それがどうした?
とでも言いたげなジェナン。
互いが互いに厄介な敵。
四年前の雪辱と、四年前の取りこぼしをなくす為に。
「俺のスピードについてこれるか?」
「あ? んなモ────」
もう一段階。ジェナンのスピードが増した。
既にもう拳が目の前に……“ある”
「ッ……!! グッ……!!」
全ての魔力を腕に集中して、高速パンチを受ける。
あまりの威力に大爆発が起きたような爆音が響く。
その威力は、完璧な防御によって防ぎきったカイルを衝撃波で“大樹の奥に”吹き飛ばした。
(強い。このまま戦ったところで勝てないな)
「はぁ……はぁ……フフフ……流石は元勇者だ」
なんとか立ち上がり残った力を振り絞ってジェナンと殴り合う。
拳からどんどん血が溢れるだけで、状況は全く変わらない。
「ガァッ……!!」
膝をついて、カイルただ一つだけ悟った。
“ここまでか”……と。
ジェナンはそんな彼を見下ろし、疲労困憊な様子。
「ここまでだ。そして────さらば」
拳を振り上げトドメを刺そうとした時────
どこからか走ってくる音。
荒い息とどこか鬼気迫った表情から、カイルはそれが誰かわかった。
「[火魔法!!!]」
火球を手から出し、かなりのスピードでジェナンに迫る。
素手であしらわれたが問題ない。
「逃げろロイ!!」
なんでここに?
戦うため? 助けるため?
どちらにしろ……
「今のお前でこいつは────ッ!!!」
ジェナンが「邪魔だ……」と呟き、“大樹の奥”へと走るロイを追いかける。
速い。
一瞬で目の前に追いつかれた。
「お前程度。本気を出さなくても充分だ」
「ハッ、それでいいぜ」」
ロイは不適な笑みを浮かべる。
奴の拳がロイの腹に迫り、ドゴォッと音を鳴らして彼の腹部に直撃。
更に大樹の奥へと吹き飛ばされたロイ。
(なぜ貫通できなかった? いくら手を抜いたといえど────そうかあいつは魔法使い。なら……)
────魔力が体を芯に固まってる感じ……コイツは魔法使いか。
カイルが始めてロイを診た時、そう判断した。
魔法使いは戦士と比べて、身体強化ができない。
“芯に固まる”というのは、急所……つまり腹部辺りに魔力が集中する。
(アイツの手加減でお陰もあったが、それにしても俺以上の魔力総量が……ロイにはあるのか……!!)
森へと走るロイ。
「痛っ……てぇ……!! でも……予想通り、ああいうタイプはプライドを優先すると思ったぜぇ……!!」
一発逆転の作戦。
そこにロイは含まれてはいなかった。
痛い痛い痛い。
それでも走る。
状況の打破は、勇者の仕事。
「俺はアンタがなんで“元”を強調してひたすらに過去の栄光を嫌うのか!! 全ッ然わかんねぇ!! でも、戦ってるアンタはやっぱり……勇者なんだよ」
「…………ロイ」
「そして勇者には────!! 剣だろ!!」
そうしてロイは力一杯、カイルの所へ剣を放り投げた。
この錆びた剣が……栄光であり、“過去”そのもの。
剣を受け取ったカイル。
ボロボロな剣が、やけに様になっている。
「(ありがとうロイ。俺がこれからやるべきこと、そして……今やることが────)ハッキリしたぜ」
剣に魔力を込め、今だせる威力を出しきるのだ。
(そんな所で放ったところで、間合いの外だぞ? 届かない)
そんなジェナンの中、カイルは剣を振った。
振る前も振る最中も、どちらもそこにジェナンはいなかったというのに。
ピシッと音が鳴り、剣が折れた。
同時に────
奴の胸から血が吹き出た。
深く斬られたわけではなかったが、確かな一撃。
「なっ────!?」
遠距離斬撃。
ただの衝撃波だけで、ここまで圧倒されるとは。
もうお互い満身創痍。
ここは……
「………………撤退させてもらう」
「……………………」
カイルは黙って、森の奥へと消えていくジェナンを見届ける。
こちらに背後を向けているというのに、一切隙がない。
どのみち追いかける体力なんてなかったが。
「流石だ!! カイルさん!!」
「……………………」
ほんの少しだけ、昔の力が戻った気がした。
────────────────
【三日後】
怪我が酷かったカイルだったが、ロイが近くの街から僧侶を呼んでくれたお陰で後遺症も残らずに助かった。
おおよその怪我が治り、これからを語りだす。
「ロイ。もうわかってると思うが、どうやら四年前に何かがあったみたいだ」
「魔王の息子が生きてることか?」
「あぁ。取りこぼしたのなら、ケジメをつけなくちゃいけない」
今度は世界を代表した勇者ではなく、“元”勇者として。
四年前のブランクも深刻だが、それよりもジェナンがまた魔物と魔族の世界にされるのは困る。
「ついてくるか?」
「当然だぜカイルサン。強くなってやる!!」
勇者パーティーに憧れていただけの少年は、パーティーの一人として戦う。
夢と憧れを秘めて。
「準備しておけ。長い旅になる」
そうして“元”勇者カイルは、もう一度戦う。
そして“もう一度”旅に出る。




