魔王城の清掃員、今日も出勤中
魔王城。
城内にはひんやりした空気が漂い、ところどころに魔法陣が光っている。
その中を、地味な青い制服姿の男が黙々と掃除していた。
「今日も……埃、多いなぁ」
男、スバル。28歳。
城の清掃員として働き始めてもう3年になる。
剣も魔法も使えない。戦闘能力ゼロ。だが、掃除だけは城内随一。
ゴブリンの足跡も、ドラゴンの吐息で焦げたカーペットも、魔法陣や宝箱の埃も、彼の手にかかればピカピカだ。
「ほこり、ゴミ、カビ……今日も任せてくれ!」
背後でドスンと重い足音がした。
魔王様の登場だ。
スバルはすかさずほうきで床を掃きながら、軽く一礼する。
「おはようございます、魔王様。今日も城内の掃除は完璧です」
魔王は大きな肩をすくめ、困惑した顔でスバルを見下ろした。
「……お前、本当に掃除しか能がないのか?」
「はい、それ以外は自信ありません!」
そう言ってスバルはまた掃除にとりかかる。
だが、平穏は長く続かない。
ゴブリンたちが城の書庫で大騒ぎ。
紙を飛ばし、魔法書を山のように散らかす。
「おい、落ち着け!」
スバルはスキルを駆使して、ゴブリンを一匹ずつ誘導しながら書類を整理する。
魔法書は空中浮遊させ、勝手に棚に戻る仕組みを作る。
「……これ、掃除なのか?」
その瞬間、城の奥で大爆発がした。
魔物が実験室で爆弾を作っていたらしい。
スバルは、慌てず騒がず、【掃除スキルLv.99】を発動。
爆弾を整理し、粉々になった実験道具を完璧に分別。
ゴブリンたちは「掃除係、何者なんだ……」と震える。
スバルは額の汗を拭き、にっこり。
「ふぅ…今日も平和だな」
ーーそのころ、城門の方では勇者一行が魔王城に近づいていた。
「よし、今から魔王城に突入するぞ!」
そこに掃除中のスバルが現れて、勇者たちに気づかずに無心で雑巾を滑らせてきた。
「お、おいなんだ⁈雑巾が目に追えない速さで迫ってくるぞ!逃げろ!」
しかし勇者たちはスバルにぶつかり、そのまま尻餅をついてそのまま魔王城の前の坂を転がっていく。
「うわっ!どうなってるんだ!」
勇者たちは全員、混乱しながら転がっていき、再起不能。
何も気づいていないスバルは、床の光沢を確認しながら雑巾掛けを続ける。
「よし、完璧……」
しかし、全てを見ていた魔王は階段の上から呆然と見下ろし、スバルに告げた。
「お前を私の右腕にしよう。お前は副魔王だ!」
「え?何故?」
「掃除で城を守るとは、もしや私より強いのでは……」
ーーこうして、俺は副魔王になった。
相変わらずやっていることは掃除ばかりだが、
一つ変わったことと言えば福利厚生が良くなったことだろうか。
そして誰も戦わず、誰も傷つかず、今日も魔王城はピカピカに輝いていた。
魔王城――恐ろしい場所かもしれない。でも、スバルにとってはただの職場だ。埃を払い、魔法陣を磨き、静かに日々を過ごす。
今日もスバルは掃除を続ける。小さな努力が、世界の片隅を支えているのだから。




