彼女?
テンマは帰りの支度を始めた。
そんな時、カズヒコとユキオが声をかけてきた。
「なあ、テンマ、今日はゲーセンによらないか?」
「カズヒコ……」
テンマは幻滅した。
今のテンマはそんなことをしていられるほど暇ではない。
セラフィエルとして覚醒した今、やるべきことはある。
「悪い、今日はやることがあるんだ」
「なんだよ、付き合いが悪いな。少しぐらいいいだろ?」
カズヒコは譲らない。
テンマにはもはやこのような俗物は友人とは見なしていなかった。
ただの知り合い程度の認識である。
「ちょっと、そこのあなた?」
「ソフィアさーん!」
そこにソフィアがやって来た。
彼女はテンマの腕をつかむ。
「この人を借りるわよ?」
「ええええ!?」
カズヒコが大声を上げる。
「おいおい、二人ともいったいどうしたんだ!? いったい何があった!?」
「あー、それはな」
テンマは説明するのがめんどくさかった。
「私たちの愛の邪魔をしないでもらえるかしら?」
「は?」
カズヒコが呆けた声を出す。
まあ、そうなるよな。
「ま、まさか……おまえら付き合っているのか?」
「ん? それは……」
テンマはお茶を濁そうとしたが、ソフィアははっきりと宣言する。
「ええ、そうよ。私たち付き合っているの。この人は、テンマ君は私の彼氏なの。だから、彼を譲ってもらえない?」
テンマはソフィアの目を見た。
ソフィアは軽くうなずいた。
これは話に合わせろということだ。
「あー、まー、そういうことだ。俺たちは恋人同士なんだ」
「なんだってー!? いつの間にそんな関係になったんだよ!」
「いやね、もともと俺たちは知り合いだったんだよ。悪いな、そういうことで、じゃあな」
テンマが席を発つ。
それをカズヒコが恨みがましく怨嗟の目で見つめていた。
こればかりは譲れない。
「おまえ、楽しんでただろ?」
「あ、わかる? ふふっ」
廊下でテンマとソフィアが会話した。
ソフィアはさきほどわざと注目されることをしたのだ。
あの時はクラス中が注目していた。
ソフィアはわざとクラス中に宣言したのだ。
自分とテンマは恋人同士だと。
「だって、せっかく高校生活を送るんだったら、公認された関係になりたいじゃない? 私たちが伴侶だと言ってもクラスの人間は理解しないでしょ?」
「まあ、そうだが。あそこまではっきり宣言すると、クラスの男子を敵に回しそうだ」
実際、クラスの男子はソフィアを狙っていたのだ。
その願望はあっさりと粉砕されたが。
この二人の関係は学生には理解できまい。
「さて、これからどうする?」
「うーん、そうね。恋人らしいことをしましょう?」
「具体的には?」
「そうね。まずは手をつなぐとか」
「いまさらだな。ははっ」
テンマとソフィアは手をつないだ。
テンマはソフィアの手が柔らかいことに気づく。
テンマはソフィアの顔を見た。
ソフィアの顔はほんのりと赤くなっていた。
こんなことも悪くない。
「じゃあ、このままデートと行くか。ソフィアはどこに行きたい?」
「うーん……じゃあ、スーパーマーケットに行くのはどう?」
「スーパーか? そんなところに行ってどうするんだ?」
「それは買い物をするのよ」
「何を買う?」
「もちろん、私の手料理を御馳走するためよ」
「それはいいアイディアだ。じゃあ、スーパーに行こう。家の近くにスーパー『Angelo』があるんだ」
マリヤは今日は早く仕事を終えることができた。
その帰りにマリヤはスーパー『アンジェロ』によることにしたのだ。
マリヤはカートを使って、食材を入れていく。
マリヤは車通勤だから、このようにたくさん買い物をしても平気だ。
それにしても、あの時は驚いた。
それはテンマは女の子を自宅に連れ込んだことだ。
あのテンマが女の子を……。
テンマには最近まで女の影はなかった。
それにソフィアちゃんはかわいいし美人だった。
スタイルもいい。
ちょっときついところがあるようだが、それも含めてマリヤは好感を持った。
まだ付き合ってはいないようだが、それも時間の問題だろう。
あの二人は両思いだ。
間違いない。
それにしても、息子に彼女……。
それを考えただけで、ほほえましくなる。
かなうなら、そうなりますように。
こうして子供は大人になっていくのだろうか。
このあいだまで子供だったのに……。
ソフィアちゃんにはぜひともうちの嫁になってもらいたいものだ。
マリヤが笑顔になる。
いけないいけない。
これでは不審者になってしまう。
内心うれしくて、顔が笑っていた。
「失礼ですが、あなたはテンマの母親ですかな?」
「? あなたは?」
「わたくしの質問に答えなさい。口答えは許しません」
男は、ゴルギウスは無言の圧力をかけてきた。
マリヤは抵抗できずに、崩れ落ちる。
「あ、あ、ああああ……」
「ふむ……この反応はイエス、ですねえ。セラフィエルの母親ですか。これはいいことを思いつきましたよ。このスーパーを毒の海に沈めましょう。クククク、セラフィエルはどう出るでしょうねえ!」
ゴルギウスの哄笑がスーパー中に広がっていった。
「なんだ、ここは!?」
「これは……まさかゴルギウスのしわざかしら!」
テンマとソフィアはスーパー『アンジェロ』にやって来た。
スーパー『アンジェロ』は毒の粒子で覆われていた。
これは学校で起きたことと同じだ。
なら犯人はゴルギウスしかいない。
「ん? これはマリヤの車じゃないか! まさかマリヤはこの中に!?」
「ゴルギウスはマリヤさんを狙って犯行に及んだのかしらね?」
「ゴルギウス……いいだろう。今度こそ決着をつけてやる!」
テンマとソフィアはゴルギウスとの戦いのため、スーパーの中に足を踏み入れた。
内部は緑の粒子であふれていた。
ゴルギウス……こんどこそケリをつける!