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ピスティス・ソフィア

テンマはソフィアを連れて、自宅に帰ってきた。

ソフィアはすやすやと安心して寝ている。

いかに彼女がソフィエルといえど、人間の肉体をかたどっている限り、疲労はある。

気息の体は霊的で、非物質的だ。

それが本来の天使の体である。

気息とは清浄で、自発的活動力を持つ。

ソフィアは今、危険な状態だ。

人間の体を取っているということは、つまり人体の理に支配されるということである。

一刻も早くソフィアを寝かしつける必要があった。

テンマは自室に入って、ベッドにソフィアを寝かせた。

出血はもう収まっている。

気息プネウマが霊的な力を傷口に送り、治癒力を高めているのだ。

「ふう……ここまでくれば安全か」

「あら? 何もしないの?」

「ソフィエル……起きたか?」

「今私はあなたの部屋にいるのよ? 女性を自宅に連れ込んで何もしないの?」

「それは襲ってくれって言っているように聞こえるな」

テンマはあきれた。

ただ、ソフィアは半分以上本気だ。

ソフィアはからかっているのだ。

襲いたいのならどうぞと。

「今はそんなことをしている場合じゃないだろう? それにおまえは治療のために霊的な力を集中させる必要がある。つまり、寝ろ」

「セラフィエル……こうしてようやく再会できたのね……よかった……本当に良かった……」

ソフィアは涙を流した。

ソフィエルは勝ち気ではない。

テンマが最初に会った時は、怒っていたが、それも自分のことを忘れられたからだろう。

そもそも伴侶が自分のことを忘れたら、怒らないはずがない。

一見すると気が強かったソフィアだが、あれは普段の彼女ではない。

記憶を取り戻したことによってテンマはそれを知っていた。

「ああ、俺は自分自身を取り戻した。安心してくれ。これからも、君といっしょに俺はいる。俺は君のもの、君は俺のものだ」

「このベッドにはあなたの匂いがするわ」

「? 臭いか? 人間の体だからな。そういうのもあってもおかしくない」

「ううん、そうじゃないわ」

「じゃあ何なんだ?」

「ふふっ、いい匂い」

「そうか? まあ、臭い匂いよりはいいが……」

テンマはソフィアの髪に触れた。

それから、髪をすくう。

「いい髪だな。すてきだ」

「ありがとう、そう言ってもらえると、ソフィアの体もうれしいわ」

「じゃあ、眠れ。これからのことはおまえが回復してからしよう」

「うん……ねえ?」

「なんだ?」

「眠るまで、手を握っていてくれる?」

ソフィアが顔を赤らめてお願いしてくる。

こんなことを言われて、拒絶できる奴はいるのだろうか?

テンマは二つ返事で答えた。

「ああ」

テンマがソフィアの手を握る。

柔らかい。

その時、家に誰かが入ってきた。

「テンマー? 帰ってきたのー?」

「げっ、まずい! マリヤが帰ってきた!」

ソフィアはもう寝ている。

すやすやと声が聞こえる。

この状況は非常にまずいように思える。

どう取り繕うか!?

テンマは冷や汗を流した。

これは女性を自室に連れ込んだようではないか。

まったく間違ってはいないのだが、これはよこしまな理由からではない。

「テンマ、どうしたの?」

「か、母さん……」

「ちょっと、テンマ、その女の子は何!?」

「いや、倒れたから連れてきたんだけど……」

「何か、不純な動機じゃないの?」

「俺を信じてくれ」

「まあいいけど……この子顔色が少し、よくないかな?」

「あ、ああ。貧血みたいだ」

実際は毒の矢が腹に突き刺さったからだが、そんなことを言っても信じてはもらえないし、本気で言ったら卒倒するだろう。

スピリチュアル・バトルの結果だ。

「なら、ご飯はうちで食べていくように伝えてちょうだい。ところでこの子はテンマの彼女なの?」

「まあ、それに近い」

実際は伴侶にして、パートナーだったが、そんなことはマリヤに言っても理解できないだろう。

すべてはスピリチュアルな次元の問題だ。

「ふーん、そう……テンマにも彼女ができたらいいのにね。それじゃあ、私は夕食を作っているから。テンマはこの子を見てなさい。それとこの子の名前は?」

「ああ、ソフィアって言うんだ」

「外国にルーツがあるのかな? 日本人の名前ではないね」

「まあ、そのあたりは家庭の事情があるんだろう」

「それにしても、テンマ、何か変わった?」

「? どうして?」

「どこか落ち着いたように感じられたんだけれど」

「まあ、ソフィアのおかげかな」

「そう……今日の夕飯はミートソースだからね。それじゃあ」

そうしてマリヤはキッチンに行った。



「お母さま……初めまして。ソフィアと申します」

「私はマリヤ。初めまして」

目覚めたソフィアはマリヤにあいさつした。

テンマの母にあいさつすると、どうしても主張したのだ。

夕食はいっしょに食べた。

三人分のミートソースをマリヤは作ったからだ。

もっとも、テンマはかなり食欲旺盛なので、完全に三人分では足りない。

そのため、やや多めに作っているのだ。

テンマは必ず、お代わりをするからだ。

「ソフィアちゃん、今夜はもう暗いし、今日は泊っていきなさい」

「いいのですか?」

「空いている部屋があるの。そこを使って。テンマ、夜這いなんかしちゃだめだからね?」

「わかってるって!」

その日、ソフィアはテンマの家に泊めてもらった。



テンマとソフィアは学校に行った。

ソフィアはきれいで美人なので、電車の中では視線が交錯した。

二人は登校するとすぐに屋上に行った。

もうテンマは高校生として生活するつもりはない。

セラフィエルとして覚醒した今となっては、このような日常に意味はないからだ。

セラフィエルにはセラフィエルの道がある。

それに彼には使命があった。

そう、使命ミッションである。

セラフィエルの使命は人間の救済だ。

マリヤを救うために受肉などという面倒な道を取らされたが、これからは人間の救済のために動くつもりだった。

「さて、俺はセラフィエルとして目覚めた。そのことはアカモートも気づいているだろう。これから俺たちはどうこいつらと戦うか、それを考える必要がある」

「私はしばらくはこの日常を続けるべきだと思うの」

「どうして?」

「私たちはアカモートの居場所を知らないわ。それに私たちが危険なら、アカモートは放っておかないはずよ」

「確かにな」

アカモート……それはセラフィエルとソフィエルの究極の敵の名だ。

アカモートは輪廻転生というシステムを作り、自らをかみとして崇拝させようとしていた。

輪廻転生は人間に永遠の迷いと、(しゅなるかみとの接触を妨げるために、アカモートはこの物質世界を創造した。

アカモートが最も恐れるのは(キュリオスからの干渉である。

そのため、人間は真のかみを知らずに、偽のかみをあがめていた。

かみ(しゅのみ。

(しゅ以外にかみはいない。

「アカモートのことだ。ゴルギウスのような刺客を送り込んでくるだろう。おそらく、アルコンテスがやってくる。俺たちはアルコンテスを倒し続ければいい」

「それと、セラフィエル?」

「どうした?」

「この姿の時は私のことはソフィアと呼んでほしいの。私も今のあなたはテンマと呼ぶわ」

「そうだな。無用な混乱を避けるためにもそれが必要か」

アルコンテス……この世界の支配者たちはアカモート直属の部下だった。

何人で構成されているかは分からないが、強い者から序列があるらしい。

アルコンテスとは複数形で、『支配者たち』という意味である。

こうしてテンマとソフィアの対アカモートとの戦いが始まった。

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