決戦! アカモート!
アカモートはテンマたちの戦いを水晶球で見ていた。
それは三大祭司がテンマたちに敗れる様だった。
アカモートは歯をギリッとさせた。
なんというぶざまなありさまだ!
一人たりとも殺すことができないとは!
ここまで使えぬとは思わなかったわ!
「奴らは最後の防衛線を――三大祭司を倒した。余のもとに来るのは時間の問題か。この余自らが相手をしなければならないとはな……」
アカモートは隣にいる女に目を向けた。
アカモートの玉座の隣にはマリヤが立っていた。
「この女がそんなに大切か。たかが地上の女一人に翻弄されるとはな。余の理解を越えていたわ」
アカモートは自分が負けるなどとまったく思っていない。
勝利は己のものだと思っている。
そもそも負ける理由がないではないか。
「セラフィエル……」
アカモートが宿敵の名をつぶやく。
セラフィエルは受肉した。
それゆえ、記憶が戻っても本来の力を発揮できずにいるという。
それならこの余が負ける理由などない。
今のセラフィエルは地上の一人間にすぎない。
そんな脆弱な存在が悪魔に勝つことなど不可能だ。
その身の程知らずぶりを教えてやろうではないか。
恐怖と絶望に満ちた顔を作ってやろう。
アカモートは暗い情念を浮かべた。
テンマたちは神の間で最後の準備を整えた。
この塔の上にアカモートがいる。
アカモートとの最終決戦だ。
「ソフィア、サキエル、準備はいいか?」
「ええ、OKよ」
「ああ、万全だ」
「この先にアカモートがいる。これは俺の戦いだ。おまえたちは来なくても……」
「テンマ君、そんなこと言わないで」
「そうだぜ。おまえ一人に任せておけるか。ここまで来て怖気ずくかよ」
「おまえたち……」
テンマは自分は友人に報われたと思った。
こうしていっしょに戦える友、戦友がいる。
「後悔しても知らないぞ? ははは」
「うふふふふ」
「はっははははは!」
三人は笑った。
幸先がいい。
「よし、行こう。俺たちの手でアカモートを倒すんだ。そしてマリヤを助けて、人間たちを救済する」
テンマたちは塔を登った。
体力的にはきつくない。
だが、精神的なプレッシャーが三人に降りかかる。
塔の最上階は楕円形に膨らんでいた。
ここは主の間。その最奥に一人の王者が玉座に座っていた。
テンマたちは駆ける。
「おまえがアカモートか?」
「そうだ。余がアカモートだ」
「ここまで俺たちは来た。その理由はわかっているか?」
「もちろんだとも。余を殺すことが目的であろう?」
「そうだ。俺たちはおまえを倒す」
「クックックック! ハーハハハハハハハハハ! これは片腹痛い! セラフィエル、おまえの力は最盛期の五分の一であろう? それほどの相手になぜ臆しなければならないのだ? むしろ余の勝利こそ確実よ」
「彼だけじゃないわ! 私たちもいるわよ!」
ソフィアが槍を突き付ける。
「俺たちはセラフィエルに力を貸す。アカモート、おまえにはもう部下はいないだろう? 俺たちが勝つさ」
「フン、雑兵が吠えるわ。よかろう」
アカモートは玉座から立ち上がった。
「至高の存在にして、神そして主であるこの余に逆らった報いは重い。その罪を償わせてやろう」
アカモートは戦闘の準備を一瞬にして完了した。
「来るがいい。おまえたちのすべてを葬り去ってくれよう」
テンマが光剣エスペラントを、ソフィアがトリアイナを、サキエルがリヒト・ゼーベルをそれぞれ構えた。
それに対してアカモートは素手のままだ。
「アカモート、おまえは武器はないのか?」
「フン、そんなもの不用だ。この肉体一つですべてがかなう。かかってこい」
三人は息をのんだ。
対面すると相手のことが分かるものだ。
この男ははったりを言う必要がないくらい強い。
テンマは攻撃のきっかけを見つけられなかった。
それをアカモートがあざ笑う。
「ちっ! まごついていられるか! 俺から行くぜ!」
サキエルが飛び出した。
サキエルはアカモートの顔面にサーベルで斬りかかる。
それをアカモートは片手でつかんだ。
「なっ!?」
「フッフフフ、すばらしい剣だ。だが、余には届かん」
アカモートの手には黒い闇が層をなしていた。
この層がサキエルのリヒト・ゼーベルを防いだのだ。
「無礼者!」
アカモートがサキエルを手刀ではじいた。
「ぐあっ!?」
サキエルが吹っ飛ぶ。
そのまま受け身を取ってダウンする。
「サキエル!」
「私も行くわよ!」
ソフィアがトリアイナでアカモートに突きを出す。
アカモートはあっさりとそれをかわした。
そしてその手でソフィアの槍をつかむ。
「くっ!?」
ソフィアが槍を引っ張るがまったく動かない。
アカモートの力がそれだけあるのだ。
アカモートは槍を上に上げた。
「あっ!?」
ソフィアが持ち上げられる。
アカモートはソフィアを槍ごと投げ捨てた。
「ああああ!?」
ソフィアがダウンする。
「ソフィア!?」
「他人の心配をしている場合か?」
気づくとアカモートはテンマの前にいた。
テンマは目を見開いて硬直する。
「斬りかかったらどうだ? 当たるかもしれんぞ?」
アカモートが挑発する。
これは挑発だ。
乗るな!
テンマの頭に危険信号がともる。
「はあああああ!」
テンマは横なぎに剣で斬りつけた。
アカモートは片手でそれを防ぐと、もう一つの拳でテンマの腹を殴った。
「うおああああ!?」
テンマも吹き飛ばされる。
「フッ、しょせんはこの程度か。技を出すまでもない。やはり余が強すぎるのか」
「まだだ!」
テンマたちが立ち上がる。
「なめるなよ」
サリエルがサーベルを突き付ける。
「まだ負けたわけではないわ」
ソフィアも戦意を失ってはいない。
「そうだ。そうこなくてはな。余はこの戦いを楽しみたいのだ。来るがいい。おまえたちの攻撃を粉砕してやろう」
「リヒト・ブルーフ!」
「氷竜破!」
「天光斬!」
三者がそれぞれ技を繰り出す。
いずれも強力な技だ。
アカモートは全身から闇黒闘気を放出した。
アカモートはサキエルの攻撃を一撃で弾き飛ばし、ソフィアの攻撃を無力化し、テンマの攻撃を打ち砕いた。
「うおおおおおお!?」
「きゃあああああああ!?」
「があああああああ!?」
三人とも再び吹き飛ばされる。
今度は闇黒闘気による攻撃だ。
ソフィアとサキエルは一瞬にして倒された。
テンマも吹き飛ばされる。
「ハーッハッハッハッハッハッハ! ぶざまだな、セラフィエル! しょせんはその程度だ。人間という器に宿ったきさまに余は倒せぬ!」
テンマはソフィアとサキエルを見た。
二人ともダウンしたようだ。
テンマは意地で立ち上がる。
「ふふふ、そうこなくてはな。よかろう。余の剣を見せてやろう。マルエスペリーゴ!」
アカモートが手に闇をまとった。
その中から黒い剣が出現した。
その名はマルエスペリーゴ(絶望させるもの)である。
テンマは一目でそれが強大な力を持つ剣だと悟った。
テンマは受けに回ったら負けると思った。
それゆえにテンマはアカモートに攻めかかった。
「フフフフフ、フハハハハハハハ!」
アカモートが笑う。
彼はこの戦いを楽しんでいる。
いや、楽しめるほど余裕がある。
アカモートとテンマはすさまじい剣撃を繰り出した。
白い剣と黒い剣が躍る。
「そうだ! セラフィエル! おまえの真価を見せてみろ!」
テンマの攻撃はすべてアカモートに防がれる。
「フフフフフ、少しはこちらの手を出そうか。グランダ・ニグラ・ビルド!」
黒い大きな鳥が形成された。
それは禍々しく、闇を連想させた。
「天光閃!」
テンマは光のひらめきでグランダ・ニグラ・ビルドを斬った。
「ペーザ・マルルーモ!」
「うおあああああああああ!?」
テンマに暗い闇が圧力をかけてきた。
そのままテンマは倒れる。
「フッ、これまでか……」
「まだだ……まだ終わらない……」
テンマが立ち上がる。
それを見てアカモートは不快に思ったようだ。
「せっかく立ってもらったが、おまえにははいつくばるのがお似合いだ。ペーザ・マルルーモ!」
「うおあああああっ!?」
今度は正面から闇のプレッシャーが当たった。
テンマが吹き飛ばされる。
だが、それでもテンマは立ち上がる。
「……なぜだ? なぜそう立ち上がる? 希望があるとでもいうのか? それとも『愛』などというくだらん感情のためか? 教えてくれ、セラフィエル」
「俺はおまえを倒す。俺は決してあきらめない。おまえがどんなに強くとも、俺は立ち上がる。そう、何度でも!」
「無駄なあがきだ。悪あがきはよせ。無駄な抵抗をしなければ、楽に殺してやろう。安心するがいい。死んだところで、おまえは転生するだけだ。おまえは生き、そして死ぬだろう。そして転生によってそれを何度も味わうのだ。人間にとって生は苦しみだ。老い、病、死それらが降りかかる。輪廻の理によってな」
「そうはさせない! 俺がその理を破壊してみせる!」
「なら決着をつけよう」
「はあああああああ!」
テンマが最大限の光の力をアカモートに叩き込んだ。
アカモートの闇が光をかき消す。
アカモートの剣マルエスペリーゴがテンマの腹部に突き刺さった。
テンマの体から血が流れる。
「あっ……」
アカモートはテンマを闇黒闘気で吹き飛ばす。
テンマは倒れた。
今度は起き上がらなかった。
「セラフィエル、輪廻に従え」
その時、ソフィアが動いた。
ソフィアはテンマのもとに来た。
「テンマ君……いえ、セラフィエル……あなたは負けないわ。あなたは肉体に縛られている。それを破れば、あなたはアカモートを倒せるわ。私はあなたを信じてる。そして愛しているわ」
ソフィアはテンマにキスをした。
「!? それは!?」
アカモートはそれがただのキスでないことに気づいた。
ソフィアの口からテンマの体に、気息が入っていく。
テンマの器ははじけ飛んだ。
そして、そこに金髪の天使が立っていた。
彼が光の天使セラフィエルである。
「ソフィア……ありがとう。君のおかげで俺は真の自分を取り戻せた。後は任せてくれ」
ソフィアの愛が、セラフィエルを完全に覚醒させる条件だった。
「フッハハハハハハハ! セラフィエル! おまえがセラフィエルか! 余の手で今度こそおまえを殺してくれるわ!」
「無駄だ」
アカモートがセラフィエルに斬りかかる。
その瞬間、アカモートの左腕が飛んだ。
「ぐあああああああああああ!?」
セラフィエルがアカモートの左腕を斬ったのだ。
「こんな、こんなバカな!? フランベルゴ!」
闇の炎が黒い剣に宿った。
アカモートはセラフィエルに今度こそ斬りつける。
セラフィエルは片手でそれを防いだ。
それどころか、アカモートの黒い剣マルエスペリーゴにひびが入っていた。
「天光斬!」
「うごああああああああ!?」
マルエスペリーゴは砕け散った。
「アカモート、いたぶるのは趣味じゃない。これで終わりだ」
セラフィエルは白い剣でアカモートの胸を刺した。
狙いは心臓の位置だ。
「がっ!?」
アカモートが倒れる。
「フフフフ……」
「?」
「余をここまで追いつめたのはおまえが初めてだ。それに敬意を表して、余の全力でおまえの相手をしよう。フフフフフ! フハハハハハハハハ!」
アカモートの体が全身闇に包まれた。
アカモートの体は膨張し、巨人と化した。
カオス=アカモート(Chaos-Akamoth)である。
「さあ、行くぞ、セラフィエル! これが余の全力だ!」
カオス=アカモートが大きな腕を叩きつけた。
セラフィエルはそれを回避する。
カオス=アカモートのもう片方の腕が動いた。
回避は不可能。
セラフィエルはそれをガードする。
「くっ!?」
セラフィエルは顔をしかめた。
カオス=アカモートの力は予想以上だ。
このままでは負ける。
ここまで来て負けるわけにはいかない。
自分の存在にすべての希望がかかっているのだ。
「ハハハハハハハ! ハーッハッハッハッハッハッハ!」
カオス=アカモートが頭部から闇の息をはく。
セラフィエルは光でそれに対抗するが、押される一方だ。
セラフィエルが焦った。
その時。
「セラフィエル! 私の力を受け取って!」
ソフィアがセラフィエルに気息を送った。
「俺もだ! 勝て、セラフィエル!」
サキエルも気息を送ってよこした。
「おまえたち! はあああああああああ!」
「なっ、なんだ、この力は!? これがセラフィエルの力だとでもいうのか!?」
カオス=アカモートは驚愕する。
セラフィエルの体が輝いた。
そしてカオス=アカモートのうち、アカモートの頭にセラフィエルは光の剣を突き刺した。
「がああああああああああああああああああああああ!?」
カオス=アカモートははじけた。
そのまま倒れて、闇と化して消えていく。
「勝った……」
セラフィエルは二人のもとに行った。
「ありがとう、二人のおかげでアカモートを倒すことができた」
「これで人は救われるのね?」
「アカモートが滅びたということは、輪廻転生は消える。人は死後、来世にいくだろうな」
「それだけじゃない。地上の世界が新しく作り直される。主は天と地の神になる。俺たちの役目は終わった。俺たちはプネウマ界に戻らなければならない。だが、その前に」
「マリヤさんを送り届けないとね」
「もうマリヤの食事を食べられなくなるのか……それは残念だ」
刹那、轟音と地震がオケアノス全体を襲った。
「この世界は消える。いったん、地の世界に戻ろう」
セラフィエルたちは地球に帰還した。
マリヤの家で、セラフィエルはマリヤに精神操作をすることにした。
マリヤに子供はいない。
最初からいなかった。
そう言うことになる。
そしてここ数か月間、ソフィアとサキエルがいたという記憶もなくなる。
「感慨深いな」
「それはそうよ。あなたはここで生きてきたんだから」
サキエルは一足早くプネウマ界に戻った。
あと残っているのはセラフィエルとソフィアだけだ。
二人は家にいた。
「俺たちはこの世界の住人じゃない。いずれは去る運命だった。マリヤはしばらく意識を戻さないだろう。それじゃあ、ソフィエル、帰ろうか」
「ええ、そうね」
「主のもとに帰ろう。俺たちがいるべきなのは主なる神のもとだ。俺たちがこの世界で為すべきことは終わった」
こうして二人の天使は地上を去っていった。
二人は主のもとに昇天した。
終わり。




