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転校生

翌日、テンマは学校に登校した。

教室ではいつも通り、カズヒコとユキオがいた。

また同じような日常が始まる……。

テンマは再び、胸に痛みを感じた。

勘弁してくれ。

この病気は俺に何のうらみがあるって言うんだ?

俺を苦しませるな。

俺は普通に生きたいんだ。

普通であることの何が悪いんだ?

神様、仏様は俺に恨みでもあるのか?

いい加減に俺を苦しめるな。

普通でいさせてくれ。

頼むから……。

「テンマ? テンマ聞いてるの?」

「あ? ああ、悪い。聞いてなかった」

「もー、しっかりしてよー、どこか体が悪いの?」

ユキオがすねて怒る。

正直、迫力もなく、怒るユキオはむしろかわいい。

ユキオのあだ名は『ユキコ』である。

「いや、別になんでもない。ちょっと寝不足だったかな?」

「大丈夫か? 保健室にでも行くか?」

カズヒコが心配してくる。

「そこまでじゃない。で、なんだったけ?」

「しょーがねー奴だな。転校生だよ、転校生!」

「転校生?」

転校生とは珍しい。

白音高校ではあまり、そういった転校生は少ない。

それは白音高校の水準についてこれるのは難しいし、そもそもわざわざここに転校してくる理由がない。

「ああ、そうだ。で、ここだけの情報だが、女の子らしい。しかも、美人だってよ」

「そうか……」

正直テンマにはあまり関心がない。

カズヒコは興味津々のようだが、テンマは気にしなかった。

もっとも後で、このことはひっくり返るのだが……。

「なんだよ、おまえ興味がないのかよ? 美人な女の子だぞ? フツー、興味あるだろ?」

「おまえはいったい何をしたいんだ?」

「もちろん、アプローチするに決まってるじゃねえか!」

「はあ? おまえ、少しは懲りろよな。そもそもおまえのアプローチは迷惑なんだよ」

「まあまあ、二人とも!」

ユキオがすかさず止めに入る。

「おーい、ガキどもー、ホームルーム始めるぞー」

そこに現れたのはカグラ先生だった。

カグラ先生は女性教師で、テンマのクラスの担任である。

着ているのは黒の女性用スーツ。

長い髪がきれいな光沢を放っていた。

「さて、諸君らも知っての通り、今日は転校生が来ている。おまえたちのことだ。それで教室で大騒ぎしていたんだろう? まったくガキどもはいつもこれだ」

カグラ先生が愚痴を言う。

もっともカグラ先生にとっては想定内のことだろうが。

「では、さっそく紹介しよう。入ってきていいぞ?」

すると、扉から一人の女の子が入ってきた。

髪は長く黒い。

夏用の制服にベスト、ミニスカート、ソックス、ローファーといういで立ち。

目はきりっとしていて、どこか鋭さを感じさせる。

少女はおじぎした。

「名前はソフィア(Sophia)と申します。皆さん、今日からこのクラスの一員としてよろしくお願いいたします」

「きゃああああああああ!」

「うおおおおおおおおお!」

女子生徒の甲高い声と、男子生徒の上ずった声が響き渡る。

転校生ソフィアは一瞬にしてクラスの心をつかむのに成功したようだ。

テンマはソフィアを観察する。

カズヒコの言ったように確かに美人だ。

胸は自己主張しているし、すらっとした脚もきれいだ。

だが、テンマはこのソフィアという少女を前にして、どこか懐かしさを感じた。

いや、自分はこの少女を知っている。

そんな確信があった。

どうしてそう思ってしまうのかは分からない。

自分はどこか思い上がっているのだろうか?

その時、テンマはソフィアと目が合った。

テンマは心臓がはね上がる。

ただ、ソフィアは一瞬だけうれしそうな表情を浮かべると、一転して不機嫌そうな顔になった。

どうしたんだ? 

テンマは彼女が怒っていることに気づく。

俺は何かしたか?

テンマに思いつくところはない。

クラスのみんなはこの変化に気づいていない。

舞い上がっていて、そんなことは目に入らないようだ。

「それではソフィアはテンマの隣につけ」

「はい」

ソフィアはゆっくりと、優雅に歩いてテンマの隣にやって来た。

「テンマ君というのね? よろしく」

「あ、ああ、よろしく」

「よし、それではホームルームだ。いつまでも舞い上がっていないで降りてこーい!」

テンマはホームルーム中、ソフィアのことが気になって仕方がなかった。

この既視感は何だ?

ちらちらと彼女の横顔に視線を向ける。

そんな時、ソフィアがメモを渡してきた。

それも腕の動きをスライドさせるだけだ。

「これを見て」

ソフィアは確かにそう言った。

テンマはゆわれるがままにメモを見る。

そこにはこう書かれてあった。

『お昼に屋上で。話があるわ』

テンマの心臓ははね上がり、ホームルームはまったく聞いていなかった。



テンマははっきり言ってまったく授業に身が入らなかった。

原因はわかっている。

あのメモだ。

お昼になると、ソフィアはさっさといなくなってしまった。

テンマは追いかけるように屋上に行く。

扉を開けると、そこにはソフィアがいた。

基本的に屋上は立ち入り禁止であった。

ほかの学校で生徒の自殺があってから、保護の名目で立ち入りを禁止されたのだ。

「ようやくやって来たわね」

「君はいったい何をしたいんだ?」

「あなたはほかに言うことがあるんじゃないかしら? それとも私のことなんて忘れてしまったの?」

ソフィアはやっぱり怒っている。

だが、テンマには何に怒っているのか、全く分からない。

テンマにはさっぱりわけが分からない。

「なあ、俺たちどこかで会ったことがあったか?」

「ふうん、既視感はあるんだ?」

「質問に答えてくれ!」

「わかったわ。教えてあげる。その前に目をつぶりなさい」

「……ああ」

「……」

テンマは目を閉じた。

こんなことにいったい何の意味があるのだろう?

そんなことを考えていると唇に柔らかいものが当たった。

「んん!?」

テンマは目を開いた。

そこにはソフィアの顔があった。

ソフィアがいきなりキスしてきたのだ。

(キ、キ、キ、キ、キス!?)

テンマは動転する。

テンマにはわけが分からない。

テンマは飛びのいてしまった。

「あら? もう終わり? ふふっ」

ソフィアが舌で唇をなめる。

「な、何をするんだ!」

こうしてテンマのファーストキスは奪われた。

ソフィアは妖艶な顔を浮かべていた。

「はあ……いい加減にしなさい、『セラフィエル』!」

「『セラフィエル』?」

ソフィアはテンマのことをそう呼んだ。

それはとても懐かしく、どこか今まで忘れていたような感じだった。

テンマはこの名を知っている。

昔、この名で呼ばれていたことがあったような気がする。

「セラフィエルって誰だ?」

「あなたのことよ。はあ……相当重傷ね。この世界に取り込まれているじゃない。あなた使命は忘れてしまったの?」

「使命? なんだ、それ?」

「あなたがこの世界にやって来た目的よ。(しゅはこんなあなたを見たら激怒するに違いないわね」

(しゅ?」

(キュリオスのことよ。あなたは自分のことが分かっていないようね。あなたはセラフィエル。天使セラフィエルの受肉した存在よ。セラフィエルの使命は人間を悪しき存在から救済すること。(しゅはそのためにあなたをこの世界に遣わした。あなたが受肉するまでは目的通りだったけれど、どうやらあなたはそのせいでこの物質的世界に、ウロボロス界に取り込まれたようね」

「ウロボロス界? 受肉? いったい何なんだ?」

テンマにはソフィアの言葉が半分もわからなかった。

そもそもこの少女は何者なんだろう? 

テンマは自分の胸に熱い想いを抱いた。

これはむしろ、喜び、そして愛情だった。

「君はいったい何なんだ?」

「はあ……それも思い出せないようね。あなたは私を知っているんじゃないの?」

「それは……」

確かにテンマはこの少女のことを知っている。

だが、彼女が何者かは思い出せなかった。

「私はソフィエル。天使ソフィエル。あなたは、セラフィエルは私のつがい、私の伴侶、私の夫よ」

「は? それはどういうことだよ?」

「あなたの魂がそうだと言っているんじゃないの?」

「魂?」

「あなたは胸がうずくことがあるんじゃない? それはあなたの魂が拒絶しているのよ。あなたの魂が訴えているのよ。いい加減に気づきなさい」

テンマはこれは心の問題だと思っていた。

だが、どうやら事態はもっと深刻だったらしい。

テンマの魂が自己主張していたのだ。

これが彼女曰く、胸の疼きの正体らしい。

「君が言っていることは本当なのか?」

「私が言っていることが本当か、本当じゃないかは関係ないわ。ただ、『そういうもの』よ。本当かどうかはあなたの魂に聞くといいわ」

「……君が言っていることは信じられない。君は頭がおかしいんじゃないか?」

「いうわね。頭で考えるんじゃないの。ただ感じるのよ、自分の魂を」

「自分の魂……」

テンマは理性ではこの子はおかしいと訴えられていた。

だが、自分の魂はどうだ? 

テンマの魂……そんなものがあればの話しだが、そこにあるのは、その感情は歓喜だった。

歓喜に帰す、それだけだった。

テンマは混乱した。

一体何が真実なのか。

この子が言っていることは正しいのか?

その時、テンマとソフィアをプレッシャーが襲った。

「なん、だ、これ……胸糞悪い……」

「これはまさか、アルコンテス(Archontes)!?」

「アルコンテス?」

「どうやらこんなところで話をしているわけにはいかないようね。セラフィエル、力を貸してもらうわよ?」

「どうするって言うんだ?」

テンマはただ普通の高校生でしかない。

このプレッシャーは異常だ。

テンマは本能的にそれを感じ取った。

「簡単なことよ。敵と戦うのよ」

「は?」

テンマの思考が停止した。

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