アカモート三大祭司
テンマたちはアカモート・パラーツォの前までやって来た。
「ここがアカモート・パラーツォ……」
「この先にアカモートがいるのね」
「よし! さっさと乗りこもうぜ! ここに来たのはアカモートを倒すためだ!」
サキエルが声を張り上がる。
サキエルの言う通りだ。
ここに来るまでに多くのできごとがあった。
それらは感慨深い。
セラフィエルとしてアカモート討伐の命令を受けた時を思い出す。
アカモートは人間を輪廻に組み込むことで、永遠の苦しみを人間に与えてきた。
この輪廻転生というシステムから人は解脱しなければならない。
このシステムは永遠に終わりなき生を人間に強要させるために、アカモートが作り出した。
その真の目的は『真の神』を人間の目から隠すことにあった。
アカモートは自らを神と主張している。
これはアカモートの一方的な言い分だった。
地の世界の人間たちは主を知らない。
それはアカモートが、ウロボロス界の人間に知られないように隠ぺいしてきたからだ。
それゆえに、アカモートは自らをウロボロス界の神とし、人間に自らを崇拝させようとしてきた。
この世界には本質的に救済が存在しない。
そんな人間たちを哀れみ、主はセラフィエルを派遣した。
この不幸な歴史を終わらせるために。
主は人間の救済のために、セラフィエルをウロボロス界に送り込んだのだ。
そのすべてがここで成就する。
テンマたちが巨大な扉に触れると、扉は自然に開いた。
「これは……入ってこいということか?」
「そうとしか考えられないねえ」
「罠かもしれないわよ?」
「アカモートは罠を張るような奴じゃないさ」
「わかるの?」
テンマは、セラフィエルはアカモートを直接知っているわけではない。
ただ、アカモートの性格は武人だった。
そんな奴が、罠やトラップなど使うだろうか?
「ただそんな気がするだけだ。奴とは直接面識はないが、罠を使うような奴とは思えない」
「あなたがそう言うならそうなんでしょうね」
「ようこそ、諸君」
「!? 誰だ!?」
「フフフフ、余はアカモート。世界の支配者にして。絶対なる神。おまえたちは本来ここに来るはずではなかったのだが、ここまで到達してしまったのなら、仕方あるまい。おまえたちがここまでやるとは正直思わなかった。余の誤りを認めよう。おまえたちが探しているのはマリヤであろう? 彼女は余のもとにいる。返してほしくば余のもとに来るがいい。もっとも、余のもとに来れればの話しだが。おまえたちは余のもとに来る前に死ぬであろう。それでは諸君、君たちと会えることを心より願っているよ」
アカモートは声を切った。
アカモートは自分のもとには来れないとふんでいるのだろう。
いいだろう。
ならこちらから出向くのみ。
「よし、行こう! アカモートのもとへ!」
「そうね! 行きましょう!」
「よっしゃ! やってやるぜ!」
テンマたちは駆け出して行った。
アカモート・パラーツォの中は広かった。
内部はどこまでも白い石で敷き詰められていた。
防衛機構も作動していないようだ。
さきほどのアカモートの言葉が気になる。
アカモートは俺たちが自分のところまで来れないと思っているようだ。
それは何か自信のもとになるものがあるということ。
テンマは何かあると考えて、アカモートのもとへと向かうべきだと考えた。
テンマたちは中央の広間へとやって来た。
この宮殿は中央に塔がありそこにアカモートのがいる『神の間』がある。
そこで事態は進んだ。
階段のまえに、三人の男がいたからだ。
彼らは黒い法衣に、赤、青、黄色の縦線が走っていた。
「きさまらが来るのを待っていたぞ」
「ふーむ、少しは骨があるのかねえ?」
「我らが相手となろう」
「おまえたちは誰だ?」
「私は赤の祭司・ゲルション」
「ぼくは青の祭司・シャムエル」
「我は黄の祭司・ウジエル」
彼らは一通り名乗った。
彼らがアカモートがここに来ることなく死ぬという理由だろう。
三人の祭司は闇の宝珠をかかげた。
テンマたちが分断された。
テンマは赤の祭司・ゲルションと、ソフィアは青の祭司・シャムエルと、サキエルは黄の祭司・ウジエルと向かい合っていた。
「ここでならいくらでも楽しむことができるな」
「ちいっ、さっさと倒して先に進むぞ!」
「さっさと倒すとは言ってくれるな。私たち大祭司がそう簡単にやられるなどと思うとは、何たる傲慢! 我が力を受けよ! ファイラ・ピルコ!」
ゲルションは火の球を作り出し、テンマに撃ち出した。
火球がテンマに迫る。
テンマはそれを光剣エスペラントで斬り裂く。
ドカーンと火球が爆発する音がした。
「どうした? こんな火の球で俺を倒せると思うなよ?」
「クハハハハハハハ! ずいぶんと生きがいいようだな! なら、これはどうだ?」
赤の祭司ゲルションは三つの火の球を作った。
三倍の攻撃だ。
火球が放たれる。
だが、テンマは冷静だった。
白い剣で三つとも火球を斬り捨てた。
「無駄だ! こんな攻撃では俺は倒せない!」
「クククク、いきがるのもこれまでだ。ファイラ・ピルコの本領はこんなものではない。これをどうにかできるか?」
ゲルションの前に五つの火の球が現れた。
さすがにテンマでもこの数のファイラ・ピルコをどうにかできる自信はない。
テンマがけわしい表情をする。
おそらくこれが最大の数だろう。
「クククク、さあどうする? この数の火球を受けて、死ね!」
一斉に火球が放たれる。
それは死への招き手だ。
テンマは絶体絶命と思われた。
テンマはその瞬間ジャンプした。
大きく跳んで、ゲルションを越える。
火の球はゲルションに向かう。
テンマは火の球をやり過ごすことで、ゲルションに火の球を向けさせたのだ。
「ちいっ!」
ゲルションは火球をすべて爆破した。
ゲルションが振り返る。
空中に浮遊するゲルションは忌々しそうに顔を歪めた。
「ええい、生き延びたか! だが、これで死ぬがいい! ランツィスト!」
炎の槍をゲルションは繰り出してきた。
ゲルションからまるで槍の突きのように炎の槍が短く動く。
テンマは光の剣を出して、耐える。
ゲルションは右手のひらに炎を集めた。
「これで終わりにしてくれる! ファイレートイ!」
テンマの周囲に火花が巻き起こった。
テンマは前に出た。
それから剣で薙ぎ払う。
ゲルションは浮遊して後退した。
テンマの剣が空を切る。
「やったと思ったんだけどな。なかなかうまくいかないな」
「きさまあ! この私をなめるなよ! これで朽ち果てるがいい! インフェーロ!」
地獄の業火がテンマに放たれる。
すさまじい火炎がテンマを襲う。
これまでか!?
テンマは天光斬を出した。
光の斬撃が炎をくい止める。
「はっははははははは! 無駄だ! あきらめて焼け死ね! おまえはここで滅びるのだ!」
ゲルションが笑う。
だが、勝負はテンマの側にあった。
テンマはインフェーロを打ち消した。
「バ、バカな……」
ゲルションが脱帽する。
「くらえ!」
「があああああ!?」
テンマの剣がゲルションを貫いた。
「ぐっ、あがっ……ま、まさかこの私が、赤の祭司ゲルションがやられるだと……」
ゲルションは粒子化して消えた。
テンマはゲルションに勝利した。




