パイモン
イルカのショーが始まった。
イルカは縦横無尽にプールを泳いだ。
ソフィアはそんなイルカのショーに目を丸くした。
イルカは案内人からよくできたらエサをもらっているようだった。
イルカはジャンプしての大回転など観客を魅了していた。
人々がイベントに魅了されているとき、それは起こった。
「フッフッフ、人間どもは気づくまい。この私が微粒のウイルスを発生させていることに。このウイルスで人間どもを襲うのだ。クックック! 我らアルコンテスの力は偉大だ!」
アルコンテスの闇が人々に振りかかろうとしていた。
イルカのショーが終わった。
熱気は渦巻き、人々を興奮させていた。
テンマとソフィアも立ち上がって去ろうとする。
すると、観客たちが倒れだした。
いったいなぜだ?
テンマはの原因が分からずに、困惑する。
「テンマ君! ウイルスよ!」
「ウイルス?」
「今この水族館はウイルスで侵されているんだわ! 何者かがウイルスを散布しているのよ!」
「何者か……答えるまでもないな……アルコンテスか」
ソフィアは危険を訴える。
しかし。
「なら、この水族館のどこかにアルコンテスが潜んでいるな?」
テンマの指摘はもっともだ。
こんな騒ぎを侵すのはアルコンテスしかいない。
問題はこの水族館のどこにアルコンテスが潜んでいるのか、ということだ。
この問題を解決するためにはアルコンテスを見つけなければならない。
「たぶん、アルコンテスは上にいるわ」
「上?」
「そうよ。ウイルスの流れを認識すると、上から降りてきているみたいなの」
「上か……わかった。俺が向かう!」
「お願い! 私はこのウイルスを中和できるかやってみるわ」
「ああ、任せろ! アルコンテスは必ず倒す!」
テンマはその場を駆けだしていった。
テンマは走った。
階段を駆け上がって、上の階に向かう。
テンマはテラス席にやって来た。
そこには大きな矛を持った男がいた。
こんな格好をしている存在など決まっている。
アルコンテスだ。
「おまえがアルコンテスか?」
テンマが誰何する。
「ほっほう……私はアルコンテスの一人で名はパイモン(Peimon)という。ほう……おまえは我がウイルスを吸っても効かないのだな。おまえがセラフィエルか」
「人々を解放しろ。今すぐ、ウイルスの流出をやめるんだ!」
テンマは白い剣を突き付ける。
だが、パイモンはまったく動じない。
「クククク……人々に災いをもたらすのが我らの使命だ。それはできんな」
「ならおまえを倒して、無理にでもウイルスを止める!」
「ほっほっほう、できるかな? この私パイモンを倒すことが?」
「倒すさ。倒せるかじゃない。倒すんだ」
テンマの決意は固い。
それをバカにするように、パイモンはあざけった。
「ほっほっほー! 何という傲慢! なんという高慢! この私パイモンを倒せると思っているとは! セラフィエル……あなたは人間に受肉した。それはむしろあなたを弱体化させた! 人間となったあなたに勝ち目はない! それよりも、潔く降伏したらどうですか? アカモート様に口添えして差し上げましょう!」
「ふざけるな! 俺は人間になったことを後悔してはいない! パイモン、俺はおまえが考えているより強い! この剣がある限り、俺のスピリチュアリティーは揺らがない!」
「ほっほっほほー! 確かに我らの戦いはスピリチュアルな戦いです! いいでしょう! ここであなたを葬ってアカモート様への褒美とさせてもらいましょうか! ソウル・ボディー!」
パイモンは人の形をしたウイルスの集合を作った。
テンマはそれを光剣エスペラントで斬り裂いていく。
なめられたものだ。
こんな攻撃が通じると思っているのか?
この剣がある限り、俺は負けない!
「ほっほっほう! まだまだ行きますよ!」
パイモンはさらにソウル・ボディーを投げかけてくる。
この攻撃は人間の姿をしているが、見せかけだけだ。
その本質はウイルスの集合にある。
確かに、この体ではウイルスのダメージを完全に抑えることはできない。
気息=プネウマで動いているとはいえ、テンマの体は人間の体だ。
当然、ウイルスの影響が絶無とはいかない。
むしろソフィアの方が耐性は高いのだ。
ただ、気息の働きが、ウイルスを緩慢にさせているのも確かであった。
テンマは白い剣を振るって無効化する。
「行くぞ!」
テンマは光を集めると、それを強力なチャージ斬りとして放った。
パイモンが光に呑み込まれる。
「うぐああああああああ!?」
パイモンが叫ぶ。
パイモンは床の上をのたうち回る。
さきほどの攻撃は効いたようだ。
「よくも! よくもやってくれたな! 許さんぞ! はあああああ!」
パイモンが全身からウイルスを放出する。
極大のウイルス波がテンマに向かって叩きつけられる。
テンマは光を防御に回して耐えた。
「くっ!?」
テンマが歯を食いしばる。
闇の脅威は大きい。
テンマにできるのは耐えること、それだけだった。
だが、テンマは無策ではない。
それにこの攻撃には弱点があった。
強大な放出であるため、もしそれに耐えきられたら、大きな隙をさらすということだ。
テンマが狙っているのはその隙に一撃を叩き込むこと。
やがて、放出が収まる。
戦いはテンマにほほえんだ。
テンマはその隙を逃しはしない。
白い剣を構えて、テンマはパイモンに迫った。
パイモンは瞠目する。
テンマの白い剣がパイモンを貫いた。
「がっはあああああああああ!?」
「どうやら俺の勝ちのようだな」
「まさか! まさか、まさか、まさか! この私が! こんな、こんなところで!?」
「いい加減に死を受け入れろ」
「くそおおおおおおおおお!?」
パイモンは大きな雄たけびを上げて消えていった。
電車の中、夕日がテンマとソフィアを照らす。
二人は帰りの電車の中にいた。
ソフィアは眠っているようだ。
スピリチュアルフォースを使って消耗したからであろう。
ソフィアはテンマによりかかった。
テンマはそんなソフィアの柔らかい体を感じる。
いい匂いがテンマの鼻に入る。
静かなひと時、こんな時がずっと続けばいいとテンマは思った。
今日のデートは大成功だ。
 




