表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

ドルフィン・パラダイス

テンマは駅前で、ソフィアを待っていた。

今日はソフィアとデートの日だ。

今日はテンマもお召の服を着ている。

特別に、着飾ったわけではないが、清潔感には気をつけている。

髪もきれいにセットしてきた。

時計に目を移す。

今の時間は九時半だ。

目的地の水族館『ドルフィン・パラダイス』は電車で行った先にある。

デートのプランは念入りに練った。

ソフィアをきっと楽しませることができるはずだ。

「少し、緊張するな」

ソフィアとのデートは緊張する。

気まずいわけではない。

どこかなれないような、そんな感じだ。

初々しいというのだろうか。

ソフィエルのことは知っているはずなのに、ソフィアのことはあまり知らない。

いっしょに暮していても、そうだ。

ソフィエルとソフィアは同じ個体だ。

だが、この世界に来るまで、ソフィアのいろんな面は知らなかった。

これからいろいろとソフィアの一面を知っていくのだろうか。

「テンマくーん! お待たせ―!」

そんなことを考えていた時、ソフィアの声がした。

テンマは声がした方を向く。

そこには白いワンピースを着たソフィアがいた。

手にはバッグを持っている。

九月とはいえまだまだ暑い日々が続く。

ソフィアは涼し気な格好をしていた。

テンマはそんなソフィアをしげしげと観察する。

ソフィアの白くすっきりとしたうなじ。

突き出た胸。

すらりとした腕と脚。

すべてがまるで美の女神のように美しい。

そんなテンマを見てソフィアが笑う。

してやったり。

そんな顔だ。

「な、なんだよ?」

「うふふふ、べっつに―! テンマ君が喜んでくれてよかったわ」

「いいじゃないか。ソフィアは何を着ても魅力的だからさ」

「そう? そう言ってくれるとうれしいわ。さ、行きましょう」

「そうだな」

ソフィアが腕をからめてくる。

当然、ソフィアの豊かな胸が当たる。

「あー、当たってるんだが?」

「ふふふ、当ててるんだけど?」

「そうですか……」

こんなソフィアに何を言っても無駄だろう。

しぶしぶとテンマはそれを受け入れる。

周りからは殺意のこもって視線を感じた。

それを意図的に無視しながら二人は改札に入った。

ちょうど電車がやって来た。

二人は電車に乗った。

休日の電車には人が少ない。

二人はゆったりすることができた。



かくして二人は水族館『ドルフィン・パラダイス』にやって来た。

受付でチケットを買って中に入る。

「すごーい! ここが水族館なのね!」

ソフィアは周囲に目を輝かせた。

ソフィアからすれば目に入るものがことごとく新鮮なのだ。

水槽には水が充満しており、それがソフィアを引き付けていた。

「おいおい、こんなところで驚いていたら、きりがないぞ?」

テンマは苦笑する。

だが、そんなソフィアをかわいいとも思ってしまう。

今はまだ入口だ。

ソフィアはかわいいため、注目されていた。

恋人以外には家族連れがいた。

基本的に、この水族館は道なりに進めばいいようになっている。

最初にソフィアの目に入ったのはペンギンだった。

「あ、あれ見て! ペンギンよ!」

「そうだな」

「小さくてかわいいー!」

ソフィアが感情をあらわにする。

テンマはそんなソフィアを見れてうれしく思う。

ペンギンはよちよちと歩き、水の中に跳び込んだ。

「あっ、跳び込んだ! わあー、ペンギンが水の中を泳いでる!」

「意外と器用に泳げるようだな」

ソフィアははしゃぎすぎるくらいだった。

今までこんなところには来たことがなかったらしい。

テンマは幼いころに来たことがあるが、成長してからは初めてだ。

だから、初めて水族館に来たソフィアの気持ちもわかる。

ソフィアはガラスにくっついてペンギンを見ていた。

よほど気に入ったのだろう。

その目が輝いていた。

今のソフィアの目にはペンギンしか映っていない。

ペンギンの次はアザラシだった。

ガラスケースにはアザラシが寝ていた。

「これは何て動物?」

「これはアザラシだ」

「アザラシ?」

「ああ、寝ていなければこいつも水の中を泳ぐんだが……」

そんなテンマの祈りが通じたのか、アザラシが水に跳び込んだ。

「わー! アザラシが泳いでいるー!」

「おいおい、ソフィア、まるで子供だな」

そんなソフィアは周りからくすくすと笑われていた。

まるで子供に帰ったかのように、ソフィアは海の動物を見て喜んでいた。

テンマはそんなソフィアをむしろかわいいと思ってしまう。

ソフィアはアザラシをじっと眺める。

「あっ、このこ、こっちに来たわ!」

「ソフィアのことが気になっているのかもな」

「こっちよー!」

こうして道なりに進んで、ソフィアは海の魚や動物を見てはしゃいでいた。

二人は途中で、喫茶店『アックワ・キアーラ』に入る。

途中の休憩を兼ねて、だ。

二人はコーヒーを注文した。

テンマはエスプレッソ、ソフィアはカプチーノだ。

それにケーキをつけてある。

「十一時からイルカのショーがあるらしい。この水族館のメインイベントだな」

「イルカのショー? なにそれ?」

「ソフィアは初めてだから分からないかもしれないが、イルカは芸をし込めるんだ」

「え? イルカが?」

「そうさ。イルカが跳んだり跳ねたり、いろいろとショーを見せてくれるんだよ」

「それは興味深いわね。ぜひとも見たいわ」

「十一時近くになったら、会場に行こう。それとできれば離れて座りたい」

「? どうして?」

「ああ、イルカが跳ねると水が跳ぶんだ。濡れるわけにはいかないだろ?」

「そうね。濡れたくはないわね。それならイルカを近くから眺めることはできないわね」

「まあ、そんなところだ。ところで、水族館は楽しいか?」

テンマが質問する。

ソフィアはさきほどまでは魚に目を光らせていた。

テンマはそんなソフィアをいとおしく眺めていた。

「ええ、楽しいわ。魚って見る機会が少ないから、とっても新鮮よ」

「それはよかった。じゃあ、そろそろ移動しよう。イルカのショーが始まるからな」

二人は喫茶店を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ