水族館
学校にて。
白音高校でテストが行われようとしていた。
テンマはカズヒコやユキオとテストの話をしていた。
「はあ……またテストの日がやってくるぜ。いい加減に嫌になるよな」
カズヒコが盛大なため息をつく。
こいつの場合はそもそも普段から勉強していないのだが……。
カズヒコはこういう時、ユキオを頼る。
ユキオは優等生で、学年一位だ。
「そうだよ、カズヒコ君。普段から勉強していないから、テストが憂鬱になるんだよ。それにしても、テンマは最近成績が上がったよね?」
「ああ、まあな」
テンマの成績が上がったのはセラフィエルとして覚醒したからだ。
セラフィエルの知能ももってすれば、学校の勉強などさして難しくない。
「やっぱり、ソフィアさんの影響かな?」
「それはあるかもしれない」
何もテンマは普段からソフィアとデートしているわけではない。
ソフィアとは家でいっしょに勉強している。
ソフィアは学年二位で、さすがにユキオにはかなわなかった。
ソフィアはコツコツと勉強している。
サリエルは……いや、もうこいつのことは放っておこう。
「今度のテストはテンマ君は自信があるの?」
ユキオの当然の反応だ。
テンマは覚醒して以来、成績が飛躍的に上がった。
もちろん、ソフィアと勉強しているというのもあるのだが。
「まあ、それなりには行くんじゃないか? 上位十位以内になら入れそうだ」
「くうーーー! この裏切り者! どうしてそこまでできるようになったんだよ! 彼女か! 彼女の存在がそうさせたのか!」
カズヒコは怨嗟のまなざしを向けてくる。
こいつの場合は自業自得なのだが。
「なんで、そこでソフィアが出てくる?」
「だってよー、ソフィアさんといっしょに勉強してるんだろ?」
「まあ、それはそうだな。むしろそうしないほうがおかしくないか?」
「ちっくしょー! 彼女がいるからって! 覚えてやがれ!」
カズヒコは席を外した。
あまりに嫉妬していたたまれなくなったと見える。
「でも、すごいことだよ? この前なんてテンマ君は平均くらいだったでしょ?」
「ああ、そうだな。俺も実は驚いているんだ。やっぱり、いっしょに勉強している人がいるとやる気になるものだな」
「特に、ソフィアさんの追い上げがすごいね。半年もたたないうちにへたをしたら追い付かれそうだよ」
「そんなにすごいのか……」
ソフィアは今女子生徒と話をしている。
ソフィアには女友達ができたようだ。
もっとも、話しをしていてそれほど嬉しそうには見えない。
ソフィアは肝心なことは友人には話せないからだ。
どちらかと言えば、うまく擬態しているようだ。
女子高生として自然なふるまいをしているのだろう。
そんなこんなで時間は流れて、テンマは昼を迎えた。
テンマの弁当は今ソフィアが作っている。
もともとはマリヤが作っていたのだが、ソフィアが自分から作ると言い出したのだ。
当然、マリヤの負担は減る。
この事実を知ると、カズヒコは血の涙を流さんばかりに恨めしそうだった。
テンマは昼はソフィアといっしょに食事する。
昼になって、ソフィアがやって来た。
「じゃあ、テンマ君。お昼にしましょう」
「ああ、そうだな」
二人は晴れている日は校内のベンチで食事する。
テンマはとにかく食べる。
今のテンマの体は食べ物を求めていた。
成長期であるため、テンマの体は普通の量では満足できなかった。
その辺もソフィアはわかっているようで、大きなお弁当箱を用意している。
テンマは弁当箱を開けた。
すると、ソーセージや卵焼きの匂いが鼻に入ってくる。
これを感じているだけで、食欲が促進される。
「いただきます!」
「はい、どうぞ」
テンマはむさぼるようにご飯を食べていく。
もう腹が減って仕方がない。
「ふふふ」
「? どうした?」
「そんなに早く食べなくてもいいのに。それともそんなにおいしい?」
「ああ、うまい! さすがソフィアだな。ソフィアの味はおいしいんだ」
「そ、そう?」
ソフィアはほおを赤らめた。
どうやら照れているらしい。
ソフィアは髪の毛をいじくる。
「ミートボールも入っているんだな」
「ええ、ちょっとしょっぱかったかしら?」
「いや、ちょうどいいよ。ソフィアの飯をこうして食えるなんて、男子生徒を敵に回しそうだ」
「それは大げさだと思うけど」
ソフィアは男子に人気がある。
もうすでに告白が殺到しているのだ。
ソフィアはそれをすべて断っているが、それもすべてはテンマが好きだからだ。
テンマはお弁当を食べ終えた。
お弁当箱をきれいにしまっていく。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした」
「ふいー、食った、食った!」
テンマはおなかを抑える。
ソフィアのお弁当はボリュームがたっぷりだったので、食べがいがある。
「じゃあ、お茶をどうぞ」
「ああ、いただくよ」
テンマは食後のお茶までソフィアからもらう。
こんなところはほかの男子生徒には見せられないな。
殺意が殺到しそうだ。
「なあ、ソフィア?」
「何?」
「今度のテストが終わったら、いっしょに水族館に行かないか?」
「水族館?」
「ああ、去年オープンしたんだが、誰とも一緒に行かなかった。そこで、ソフィアといっしょに行きたいんだ」
「私がテンマ君の提案を断ると思った?」
「いいや」
「じゃ、それでいいじゃない」
「待ち合わせは駅前でいいか?」
「そうね、そこがいいと思うわ」
最近はデートでは待ち合わせが基本になっている。
デートらしさを演出するためだそうだ。
テンマとしてはいっしょに行ってもいいのだが。
それではデートにならないとソフィアは思っているようだった。
女心はわからん。
なぜ、わざわざ待ち合わせするのか、テンマにはよくわからない。
水族館というのはテンマもあまり行ったことがない。
マリヤは女手一つでテンマを育ててきたので、あまり外出の機会がなかったのだ。
こうして今はソフィアといっしょに外出できるのだから、よくなったものだ。
そうして二人はデートの約束をするのだった。




