ゼス
一人の死神風の男がマリンタワーの上に降り立った。
彼は水平線に視線を送るが、そんなものは彼の目に入っていなかった。
彼は、ゼスは言った。
「ふふふ、このマリンタワーを私のコントロール下に置こう。ここにはセラフィエルがいるようだからね」
セスは闇を広げた。
闇がマリンタワーを侵食していく。
闇は人々に影響を与えていた。
すべては主のために。
「!? これは!?」
闇の侵食が始まった。
テンマとソフィアはそれに気づいた。
「……これは閉じ込められたわね。このままじゃ、この中にいる人にも影響が出てくるわ。アルコンテスの一人がやってるんだわ」
マリンタワーの最上階で人々は体の調子を崩し始めた。
床に倒れる人が続出する。
「ソフィアはここで倒れた人の看護をしてくれるか?」
「テンマ君は?」
「俺は元凶を取り除く」
「わかったわ。ここは私に任せて。中和の結界を張るわ」
ソフィアは体から白い光を発した。
それが塔の闇に部分的に抵抗していく。
テンマはこの闇の元凶のもとへと向かった。
ゼスは鎌を持っていた。
ゼスはわかっているのだ。
セラフィエルは必ずここに来る。
ゼスの目的はセラフィエルを抹殺することだったが、セラフィエルと戦いのをゼスは楽しみにしていた。
ゼスにとって戦いとは楽しみなのだ。
「おまえがタワーを闇で包んだんだな?」
ゼスの背後からかけられる声……。
テンマだった。
ゼスは背後を振り返る。
「やあ、君がセラフィエルかい? よく私の闇を抜け出たね」
「おまえたちの目的はわかっている。俺を、俺たちを抹殺することがおまえたちの目的なんだろう?」
「まあ、そういうことだね。君には死んでもらうよ。でも、安心するといい。君は輪廻の中で転生を繰り返すのだから」
「俺は転生するつもりはない。俺たちはプネウマ界に帰る」
「主のもとにかい? これは提案なんだけど、アカモート様に仕えるつもりはないかい?」
「アカモートだと?」
「そうさ。アカモート様は寛大だ。君たちが誠心誠意忠誠を尽くすのなら、君たちを世界の管理者にしてくれるだろう。どうだい、すばらしいと思わないかい?」
テンマは吐き捨てるように。
「断る! アカモートの、そしてアルコンテスの野望もここで終わりだ!」
「そうかい、それでは君には死んでもらうしかないな。そしてアカモート様の偉大さを讃えるために、輪廻の中でアカモート様を賛美するがいい!」
ゼスが鎌を構えた。
テンマは白い剣を出す。
ゼスは仮面をつけていた。
ゼスの表情はおもんぱかることはできない。
だが、テンマにはこいつが笑みを浮かべているだろうと思った。
こいつはバトルマニアだ。
もっともセラフィエルもそれは同じだったが。
ゼスは鎌を縦横無尽に振るう。
特に、こちらに迫ってくるわけではない。
まるで円舞のようだ。
テンマはこれには何か仕掛けがあると思った。
少なくとも何の意図もなくこんなことをしているとは思えなかった。
テンマは攻めることにした。
光を剣に注入する。
テンマの剣エスペラントが輝き出した。
「フフフ、それが君の剣エスペラントかい? すばらしい剣だね。でも私の死神の鎌にはかなうまい」
「いつまでも鎌を振るっていないでそちらから攻めてきたらどうだ?」
「フフフフ、もう攻めてるさ!」
「!? これは!?」
テンマは自分の体が自由に動かないのを悟った。
なぜかはわからないが、身動きが取れない。
「ようやく効いてきたようだね。私の鎌『死神の鎌』は人の神経をマヒさせる働きがあるのさ。さあ、セラフィエル、ゆっくりいたぶりながら殺してあげよう!」
ゼスは恍惚とした目をしていた。
彼の仮面には目の部分に空きがある。
死神の鎌は人の神経に干渉しその働きをマヒさせる。
それがテンマが自由に行動できなくなった理由だ。
ゼスは鎌でテンマを斬りつけた。
テンマは何とか体を動かして、その一撃を回避する。
だが、ゼスは本気で攻撃してきたわけではない。
あくまで獲物をゆっくりとゆっくりとその命を削るような攻撃を行った。
「くうっ!?」
テンマの体は石のように固い。
これではゼスと正面から戦うのは無理だろう。
「フフフ、楽しいなあ! セラフィエル! どんどん行くよ!」
ゼスが鎌で薙ぎ払ってくる。
テンマはそれを剣でガードする。
いかに光の剣が優れていても、まともに打ちかかれないならどうしようもない。
テンマは絶対的に不利の状況に追い込まれた。
ゼスは特殊能力を発動する。
ゼスの手に闇が宿った。
「フフフフフ……この程度の攻撃で死んでくれるなよ? さあ、セラフィエル! 宴の始まりだ!」
ゼスから闇が放たれた。
闇の火花がテンマを襲う。
テンマは何とか身をひねってかわす。
ゼスの攻撃は止まらない。
テンマはぶざまに転げるように闇の火花を回避し続ける。
このままではまずい。
このままではいつか敵に捉えられてしまうだろう。
テンマは必死に対抗策を練った。
「フッフフフフ……まるで手負いの獲物を追いつめているような気分だ。セラフィエルよ、私は楽しくて楽しくて仕方がない!」
ゼスが鎌で斬りかかってくる。
ゼスの鎌はテンマを斬り刻もうとする。
テンマはそのすべてを剣で受け止めた。
「!? まだそんな体力があったのか!」
ゼスは後退する。
「!? なっ!?」
ゼスは驚愕する。
ゼスの胸に斬り傷があった。
テンマがあの攻防でつけた傷だ。
「この私に一撃を入れるとはね……やはり、ここは遠くから安全に攻撃するのがベストかな」
ゼスは再び闇の火花を放った。
今度は大きな爆発を伴う。
テンマは一層不利な状況に追い込まれた。
「さて、もう手加減は終わりだ! これで死ね!」
ひときわ大きな闇の爆発がテンマを呑み込んだ。
テンマの姿は闇の中に消えた。
「フッ、セラフィエルの最期か」
「それはどうかな?」
「!?」
テンマは爆発の中から現れてゼスを貫いた。
「ぐっ、がはっ!? バカな……どうして動ける……!? まさか!?」
「俺はとっくに動けたんだよ。それを偽っておまえの隙を狙っていたというわけだ」
「ふ、不覚!」
ゼスは倒れてタワーから落ちて行った。
こうしてマリンタワーの闇は打ち破られた。