海
白い間……。
アルコンテスには沈黙が支配していた。
彼らは理解していた、メトシェラがやられたことを。
これは重大なことだった。
アルコンテスが二人も返り討ちにあったのだ。
これは権威の問題でもあった。
この世界の支配とその法則を司るアルコンテスが敗れたなどとあってはならない。
これでは権威が失墜してしまう。
アルコンテスは権威を気にする。
なぜなら、権威は自発的に服従させるものだからだ。
権力は力を伴うが、権威にはそれはない。
権威を持って統治せよ――。
それはアカモートからアルコンテスに伝えられた言葉だった。
「……我々はどうするべきだろうか?」
「このまま黙っていては割られの権威の凋落は必衰……もはやセラフィエルを野放しにはできませぬ」
「アルコンテスの権威にかけて、必ずやセラフィエルたちの抹殺を!」
「そうだ! セラフィエルだ! 奴らは死に値する!」
「ほう……口ではいくらでも言えような」
そこにひときわ尊重な言葉があった。
アルコンテスは息をのむ。
これは至高の存在からの言葉だった。
アルコンテスは一人残らず、平伏した。
それこそが至高の存在に対する最大の敬意だとでも言わんばかりに。
「ア、ア、アカモート様!」
「余は怒っておる。理由はわかるな?」
「ははっ、申しわけありません!」
「アルコンテスの権威の失墜は余の権威の失墜ぞ」
アカモートは冷たく、言い放つ。
アカモートはわかっているのだ、アルコンテスがアカモートを恐怖していることを。
彼はわざと冷たく言っているのである。
アカモートの声は底冷えするかのように冷たかった。
アルコンテスはアカモートの声に必要以上に体を震えさせる。
彼らは震えていた。
彼らはアカモートを畏怖すると同時に恐れてもいた。
もっとも、アカモートからすれば恐怖こそ部下を従えさせるものだということになろうか。
愛ではなく恐怖こそ支配の原理であるべきだ。
愛は必ず裏切る。
恐怖は絶対に裏切れない。
恐怖は万能だ。
恐怖させる者を裏切ることは絶対にできないのだから。
愛など幻想だ。
それなのに主は愛を支配の原理と据えた。
愚かとしか言いようがない。
「わ、わ、我が君!」
「この失態は必ず挽回したします!」
「我らにチャンスをお与えください!」
アルコンテスは必死に懇願した。
アカモートはそれを察したのであろう。
彼の怒りが和らいだ。
「よかろう、おまえたちにチャンスを与えるとしよう。余は寛大だが、我慢には限界がある。それを常々忘れるな。セラフィエルとソフィエルは必ず抹殺するのだ。そしてあの二人を輪廻の運命の中に閉じ込め、永遠の苦しみを味あわせてやるのだ。よいな?」
アカモート同意を強いた。
アルコンテスにはそれは命令と化す。
「わ、わかりました! 我が君!」
「寛大な配慮に痛み入ります!」
「必ずや、セラフィエルの首を!」
アカモートは去った。
アルコンテスが平伏をやめる。
「恐ろしいお方だ」
「それはわかっていただろう?」
「次は誰が行く?」
「私が行こう」
「ゼス(Zxes)?」
「私がセラフィエルとソフィエルの首を持ってこよう。それでいいな?」
「いいだろう」
「だが、やるからには失敗は許されんぞ?」
「その命をかけるのだ」
「わかっているさ。私の手にかかればセラフィエルなど敵ではない。フフフ……」
アルコンテスの陰謀が行われようとしていた。
テンマとソフィアは海に来ていた。
ビーチがあるのは春月市だ。
「ここが海なのね! きれい!」
ソフィアは目を輝かせた。
ソフィアは海に来るのは初めてだ。
青い海がテンマとソフィアの前に広がっていた。
波が打ち寄せては、引いていく。
空はさんさんと輝き、海原の美しさを強調していた。
カモメが空を舞っている。
そんな海にソフィアはじっと見入っていた。
「そんなに海がきれいか?」
「ええ、そうよ! 輝くような空! きらめく海の色! 波の音! これらすべてが新鮮で美しいわ!」
テンマは幼いころ海に来たことがある。
そのころはまだ、本格的に海に入りはしなかったが、それでも楽しかったことをテンマは覚えている。
当時はまだ海が怖かったのだ。
テンマにはソフィアがこんなにも喜ぶのは新鮮だった。
もっともテンマには海よりソフィアの方が美しく見えたが……。
こんなに喜んでくれたのなら、海に来たかいがあったというものだ。
「それじゃあ、着替えてくるわね?」
「ああ、俺も着がえる」
「ふふふ、私の水着、期待しててね?」
「ああ、わかっている」
テンマとソフィアはいったん分かれて、着替えに向かった。
テンマはさっと着がえると、すぐさまビーチに向かった。
「ビーチはさんさんとしているなあ……」
日差しは相当強い。
陽光がさすように照り付けてくる。
ソフィアはどんな水着を着てくるのだろうか。
彼氏としてはそれは楽しみでもあった。
水着を買いに行ったときには、どの水着を買ったかまでは教えられなかったのだ。
いったい、ソフィアはどの水着を買ったのか?
「お待たせ」
「ああ、ソフィア……!?」
テンマはソフィアを見た。
テンマは息をのんだ。
ソフィアは青いビキニを着ていた。
上の部分にはフリルがついてかわいらしさをアピールしている。
ソフィアの体全体が雪のように白く、美しかった。
ウエストは引き締まり、無駄な贅肉が全くない。
バストは豊かで、両腕、両脚はきれいな線を描いていた。
「うふふふ……気に入ってくれたかしら?」
ソフィアは照れながらも、テンマにアピールをしていた。
「ああ、きれいだ。目が離せない」
「ふふふ、うれしいわ。それじゃあ、せっかくだから海に行きましょう!」
「ああ、そうだな!」
ソフィアは海へと駆け出して行った。
テンマはそれを追った。
太陽が二人を祝福してくれたかのようであった。