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ショッピングモールにて

テンマはソフィアの服を買いに店に入った。

店の中は女性でいっぱいだ。

テンマはソフィアといっしょじゃなかったら不審者呼ばわりされたかもしれない。

女性向けの服を扱っている店なだけあって、もう服の季節は次に移っている。

今は秋向けの品物を扱っているようだ。

「なあ、俺は外で待っていようか?」

「ええ?」

「俺にはこの中は気まずい」

「ダメよ。試着した服を見てもらわないと」

「そんなの俺がいなくてもいいじゃないか」

「テンマ君が気に入るか分からないじゃない」

「俺が基準なのか?」

「そうよ」

「そうは言ってもな……」

「別に、テンマ君は私が選んだ服を見てくれればいいの」

こうしてテンマはソフィアの服選びに付き合わされた。

ソフィアはいろいろと洋服を持ってきたが、どうやらテンマがミニスカートをはくと喜ぶことを知ると、いろいろ攻めてきた。

テンマはそれに付き合わされて、ものすごく疲れた。

なんで女はこんなに服を色々変えるんだ?

それが女心から来ることはテンマは理解したが、やはり自分はそういう方面には疎いと思った。

これが戦闘ならシンプルなんだが……。

テンマとソフィアはその後、昼食を取ることにした。

このショッピングモール『トリーノ』にはすし屋が入っていて、ソフィアがぜひともここで食べたいということで、いっしょに入った。

空いている席に着席する。

「ソフィアはすしは初めてか?」

「ええ、そうね。こういったレールで運ばれてくる店は初めてだわ」

「俺は何回か来たことがあるな。このタブレットだ。これで注文するんだよ」

「今ってハイテクなのね。まずは何にするの?」

「そうだな、俺はサーモンから行かせてもらう」

「じゃあ、私も同じものを」

二人はタブレットをタッチして注文する。

しばらく時間ができる。

そのあいだは何か会話をすることにした。

「なあ、マリヤはどう思う?」

「いい母親ね。家事もできるし、仕事もできるんでしょう?」

「いつか、俺たちはマリヤのもとから出て行かねばならない。それはわかっているか?」

「そうね。マリヤさんはこの世界の人だものね。私たちと同じ世界にはいられないわ。いい人なんだけど……」

「それは俺もそう思う」

「そういえばだんなさん……つまり、テンマ君の父親はどうしたの?」

「ああ、飲酒運転で亡くなった。それ以来、俺はマリヤの手で育てられた。まあ、祖父母を頼ることも多かったが」

「祖父母はいい人だった?」

「そうだな。まだ生きているが、孫には甘かったよ。隠れてアイスクリームとか買ってくれたしな」

「へえ……そうなんだ……ある意味うらやましいわ」

「ああ。俺たち天使は(しゅによって直接創造された。ゆえに親と呼べる人はいないからな。ソフィアには分からないだろう」

「どうして、マリヤに宿ったの? 私ずっとあなたのこと待っていたのよ?」

「ごめん。どうしてもマリヤを見捨てられなかった。見捨てればマリヤは流産のあげく、死んだだろう。それが見えたからこそ俺はマリヤに宿ったんだ」

「あなたらしくないのね」

「俺もそう思う。その結果として、君を待たせることになってしまった。それはすまないと思っている」

「いいのよ。今はこうして話ができているもの。結局大事なのは『今』でしょ?」

「その通りだな。ありがとう、俺を目覚めさせてくれて」

「私はあなたを愛しているんだから、そのくらい当然よ」

「それでもお礼は言いたかったんだ」

その時、レールが動いてすしが運ばれてきた。

サーモンだ。

「サーモンが来たようだな」

「じゃあ、いただきましょうか」

ソフィアははしを使ってすしを食べる。

彼女は口元を抑えた。

「ん!? おいしい! 舌がとろけるようだわ!」

「ははは、気に入ってくれてよかったよ」

こうしてソフィアのすしデビューは終わった。



二人はこの後、帰ることにした。

「もう買い物は十分だろう? そろそろ帰らないか?」

「まあ、私はまだ買いたいんだけど、あなたがいづらいんなら帰ることにするわ」

「じゃあ、自販機でジュースでも買うか。俺が出すよ」

「ありがとう」

「ほええええええええん!」

「!? なんだ?」

そこに幼い女の子の鳴き声が聞こえた。

女のこの髪はツインテールだ。

ソフィアはすぐに近づいた。

「どうしたの? お母さんは?」

「うわあああああああん! お母さんはどこーー!」

「お母さんとはぐれちゃったのね。困ったわ。どうしたらいいのかしら……」

ソフィアは途方に暮れた。

ソフィアはこの世界の事情には疎い。

まだこの世界に来て一か月もたっていないのだ。

こういう時はどうしたらいいか、そう常識が欠如していた。

ソフィアは女の子を優しく抱きしめる。

「お願いだから、もう泣かないで。ねえ、あなた、名前は?」

「うぐっ……あたし、ミサキ」

「そう、ミサキちゃんって言うのね。お母さんとはどこではぐれたの?」

「わかんない……気づいたらいなかったの……」

「ねえ、どうしよう、テンマ君。この子の母親を見つけてあげたいんだけど……」

「ああ、任せろ。ミサキちゃん、俺たちといっしょに行こう。必ず、お母さんと会わせてやるからな」

「テンマ君、どうする気?」

「こんな時は放送してもらうのさ」

「放送?」

「ああ、このショッピングモール中に放送で呼びかけてもらうんだ。迷子の女の子がいるってな。そうすれば、必ずこの子の母親が迎えに来る。まずは職員のもとに行こう!」

このショッピングモール『トリーノ』はトリーノ本店と、トリーノが売り場を貸し出しているところがある。

テンマたちはトリーノ本店の職員にミサキのことを知らせた。

するとすぐに放送が入った。

放送の効果はすぐに現れた。

ミサキの母親がやってきて、テンマたちにお礼を言った。

「本当にありがとうございました。ミサキが急にいなくなったので探していたんです。どうお礼を言っていいか……」

「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとね!」

ミサキは笑顔で母親と手をつないで去っていった。

「さすがね、テンマ君」

「そうか?」

「そうよ。私じゃあの子の母親を見つけらなかったわ」

「こんなの常識だ」

「それにしても、テンマ君、かっこよかったわよ?」

「それはどうも……」

テンマは照れる。

ソフィアは本気で言っているのだ。

テンマにはそれが伝わった。

「ふーん、私に『子供ができたら』テンマ君は同じことをしてくれる?」

「ぶふうー!?」

テンマは噴き出した。

生々しいリアリティーがあったからだ。

「冗談はやめてくれ」

「あら? 私は本気よ? ふふっ」

そう言ってソフィアは笑顔を見せるのであった。

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