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負の遺産

作者: 通りすがり

昔から、血のような異様な味がするような感覚が突如として襲ってくることがある。そして、口の中に生肉を噛み砕いたような吐き気を催すような味がしばらく残り続ける。

成長するにつれ、徐々にその異様な味がすることはなくなっていった。私は安堵感の中で充実した生活を過ごすことができるようになった。やがて社会人になり日常に追われるうちに、あの異様な味は記憶の彼方に追いやられた。まるで悪夢が消え去ったかのように。しかし、それは束の間の平穏だったのかもしれない。

結婚し子供が生まれ成長し、言葉を覚え始めた頃、ある日突然に我が子は「口の中が変な味がする」と訴え始めた。

私は子供の頃に、自分だけが抱えていた奇妙な感覚が、我が子にも現れたことに深い不安を感じた。図書館で様々な医学書をひっくり返し、インターネットで『味覚異常』というキーワードで検索しまくったが、どこにも答えは見つからなかった。

そんな悶々とした日が続いたある夜に、私は夢を見た。

大海原の真ん中にぽつんと浮かぶ漁船と思しき1隻の船。船の上には力無く横たわる痩せた男たちが数人いた。その中でも一人の男は見るからに衰弱の度合いが激しい。その男は体は小さく顔も幼さを残していて、まだ少年と言ってもいいように思える。少年は弱々しい声で泣きながら必死に周囲の人たちに懇願していた。もし俺が死んでも俺を食べないでくれと。そして、もし俺を食べたやつがいたらそいつの子孫まで永遠と呪うと。

私はそこで夢から目覚めた。


この夢は...昔、あの異様な味に苦しめられているときによく見た夢だった。長い間見ていなかったこの夢を今このタイミングで再び見るとは。何かが関係しているのは間違いないだろう。

夢の中で見聞きしたものを思い出して。漁船、遭難、漂流、死、子孫、呪い...

それらの言葉から私は一つだけ思いつくことがあった。

私は父親に急ぎ電話をして、今は亡き祖父のことを聞いた。たしか祖父は漁師だった、そして漁の最中に船のエンジンが故障してしまい遭難したことがあったはずだ。

私の記憶通りだった。祖父が乗っていた漁船には10人ほどの乗組員がおり、約一月ほど漂流したのちに偶々近くを通った外国の船に助けられたとのことだった。ただ乗組員のうち、まだ見習いとして乗船していた若い男だけが船から海に落ちて行方不明になっていた。

私は父から話を聞いて愕然とした。もしやその行方不明となった若い男とは、あの夢で見た少年なのではないだろうか。


あの口の中に広がる異様な味こそが祖父が生き延びるためにかつて味わったもの...、これが呪いだというのだろうか。

私はどうすればいいのか分からず、ただ呪いの恐怖に打ち震えていた。

そして、次第に口の中に思い出したくもないあの味が広がっていくのを絶望の中で感じていた。

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