第99話 朝のできごと
屈辱の日の翌日。誠達は全員非番だった。昨晩は誠はアメリアから言われていたかえでの愛の無修正動画の中で、全裸で胸や乳首や局部に待ち針を次々と次々と突き立てられて快感にあえぐかえでに興奮して眠れなかった。
朝目覚めて着替えを済ますと誠はそのまま階段を降りて寮の食堂に向かった。もしかしたらかなめ辺りがすっかり出勤するつもりでいて、寝癖をつけたままぼんやりしている自分を怒鳴りつけてくるかもしれない。そう思いながら食堂に入ると、そこには普通にうどんを食べているかなめの姿があった。いつも休日の時に見られる冬だと言うのに黒いタンクトップにジーパンを履いた姿でリラックスしてうどんを食べているかなめと眼があった。
「おはようございます」
誠の言葉にしばらく呆然とした後、かなめはどんぶりをテーブルに置いた。
「なんて顔だよ。ははーん。その顔はアタシが一人で暴走するとでも思ってた顔だな」
タレ目で一度誠を見た後、かなめは再びどんぶりを手に取った。もみ上げの辺りが長めになっている髪型のせいでそのままうどんの汁に付きそうになる髪の毛を気にしながらうどんを啜った。出勤組の整備班員が書き込むようにうどんを食べた後、カウンターにどんぶりを置いて駆け出していく中。誠はただうどんを食べ続けるかなめを見つめていた。
「どうしたのよ、誠ちゃん。どうせ昨日の夜はかえでちゃんの愛のマゾ動画を見て興奮して眠れなかったんでしょ?ああすると一番かえでちゃんは愛されてるって感じるんですって。誠ちゃんも結婚したらやることになるのよ。耐えられるかしら?」
背中に声を受けて誠が振り返る。そこには朝のシャワーを浴びてすっきりしたような顔のアメリアがいた。こちらも紺色のスタジャンに短めのスカート。出勤の時のアメリアは大体スーツを着るので休日の捜査など考えに無いという感じでそのままかなめの前の席に座って誠に手を出した。
「何ですか?」
ぼんやりとした頭で立ち尽くす誠の顔をアメリアは笑顔で見つめた。
「お茶入れて」
当然のようなアメリアの言葉に誠はカウンターの手前に置かれた湯飲み三つと番茶の入っているポットを持ってアメリアの隣に座った。
静かにお茶を入れてアメリアに差し出した。彼女はそれを受け取るとひじをついてずるずると音を立てながら啜り込んだ。
「下品な飲み方をするんじゃねえ」
かなめはうどんの汁をこちらもとても甲武一の貴族の飲み方とは思えない下品な様子で啜った。
「下品なのはかなめちゃんだけで十分だものね。まあかえでちゃんみたいに所作は上品だけど性根が下品なのと誠ちゃんはどっちが好みなのかしら?興奮するからかえでちゃん?それはちょっと悲しいなあ」
にらみ合う二人。なだめる気分にもなれずそのまま誠はうどんを食べ終えてくつろいでいるかなめに湯飲みを差し出した。
「皆さん……今日は」
誠は非番だろうがこの『特殊な部隊』にその常識は通用しないことを知っていた。
「今のところカルビナ待ちだ。揃ったら出かけるからすぐに食事を済ませろよ……ほら、カウラも来やがった」
緑色のセーターが食堂の入り口に見えた。エメラルドグリーンの髪を後ろで纏めながらカウラが歩いていく。そして彼女はそのまま厨房に足を向けた。
「でも……非番だと……」
誠は出来ればアメリアから頼まれていたエロゲの立ち絵を仕上げたかったのでそう言ってみた。
「非番だからなんだよ。そんなもんうちには関係ねえんだ」
誠の口答えに番茶を飲みながらかなめがにらみつけてきた。
「いえ、なんでもないです」
そう言う誠にはアメリアが頼んでおいてと言う恨みがましい表情が浮かんでいた。
「嘘よね。何かある顔よ。昨日見たかえでちゃんの動画が気になるからまた見て昼間っから……まったくさすがはかえでちゃんの『許婚』ね」
そう言いながら当の本人のアメリアも紺色の長い髪をなびかせながら立ち上がった。
「うどん二つ!どちらもカウラちゃんより多くね!」
うどんを受け取って歩き始めたカウラを意識したようにアメリアが厨房の中に叫んだ。カウラは苦笑いを浮かべながらかなめの隣に腰を下ろした。
「上官にサービスさせるとはいい身分だな」
言葉は皮肉めいているがカウラが言うと皮肉に聞こえない。そんなことを考えている誠を無視してカウラはうどんを啜り始めた。
「はい、どうぞ」
うどんをゆっくりと啜るカウラを見ていた誠の視界に突然現れたアメリアはそう言いながら誠の目の前に大盛りのうどんの入ったどんぶりを置いた。
「食べちまえよ。さっさとな」
かなめに言われるまでも無く誠もテーブルの中央に置かれた箸に手を伸ばした。
「でも非番の日に捜査なんてやって良いんですか?非番の日の僕らは単なる民間人と同じですよ。そんな権限無いと思うんだけどなあ」
久しぶりの休日くらい趣味に没頭したい気分が誠にはまだ残っていた。
「普通はやらないけど……うちは『特殊な部隊』でしょ?権限?そんなもの知ったことじゃないわよ」
すごい勢いでうどんを啜り上げた後、満足した表情でアメリアがつぶやいた。それを見ると誠も急いで食べなくてはと言うような義務感に駆られて一心不乱にうどんを啜り上げ始めた。