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第92話 聞き込みは続く

 二日目は冷たい雨だった。出勤時のかなめの悪態とアメリアの大げさな嘆きを苦笑いとともに聞いたことが懐かしく感じられた。すでに誠の勤務用の革靴の中は中敷までじっとりと冷たい雨に濡れてつま先の神経が悲鳴を上げていた。


「法術師なんざ知るか!」 


 眠りを中断されたらしい下着姿で戸口まで来た若い女性が扉を思い切り閉めた音がアパートの踊り場に響いた。それでもラーナは困ったような顔で誠に目を向けた後そのまま隣の部屋へと向かった。


「失礼します!」 


 呼び鈴を押しながらラーナがインターフォンに向けて言った。


『何?』 


 声からして相手が酩酊していることはすぐに分かった。


「警察の者ですが……」 


 ラーナはいつもの営業用の笑顔でそう言った。


『悪いことはしてないよ。帰ってくれます?』 


 住人の男の表情は冴えなかった。


「近くで事件が多発しているので……少しお話を聞きたいんですけど……」


 それでも食い下がろうとラーナは粘った。


『事件?』 


 言葉とともに出てきたのは50前後のがっちりとした体格の男だった。すっかり白髪に覆われた頭の下には皺とシミでまだらに染まった顔に赤く色づいた鼻がぶら下がっていた。


「事件?何?」 


 無遠慮な男が親切そうな物腰のラーナの後ろで棒立ち状態の誠とカウラに目をやった。


「この辺でこの半月で放火事件が連続して起こってるんですが……」


 ラーナの真似をしてカウラはそう尋ねてみた。


「知らないなあ……俺には関係ないし」


 すぐに部屋を閉めようとする男だがその視線がカウラに集中するとその手は自然に力が抜けていった。


「あんたも警察の人?」 


 ラーナより大柄のエメラルドグリーンのポニーテールのカウラに不信感を感じているように男は言った。


「ええ、まあ」 


 カウラはあの菰田より露骨にいやらしい視線に驚きながら呆然と立ち尽くしていた。ラーナはそれを無視して手にしていたバッグからポスターを取り出した。


「一応、犯人は法術師らしいので、もしそう言った情報がありましたらよろしくお願いします」


 ラーナからビラを受け取ると男は老眼らしくしばらく遠くにかざしてビラを眺めた。


「法術師なんて……知らないなあ」 


 男の視線はカウラを見定めるようないやらしい目つきで見つめていた。


「じゃあ最近転居してきた人の心辺りはありますか?」 


 ラーナはなんとか情報を聞き出そうと食い下がった。だが男の関心はビラでもラーナでもなく明らかにこの男の視線を不愉快に思って貧乏ゆすりを始めたカウラにあった。


「あ、あんた!」 


 部屋の置くから若い女の声が響いた。言葉尻からこの男の妻らしいが、出てきたネグリジェ姿の女はどう見てもラーナより年下に見えた。ただしその濃い化粧はラーナと彼女がまるで別の世界に生きていると言う現実を示しているように見えた。



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