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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第十七章 考えを切り替えての行動開始
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第84話 新しい捜査法

「それじゃあ……方針はそれで決まったわけだから行こうじゃねえか」 


 かなめはそう言うと千要県警の紺色のジャンバーを肩に突っかけるようにして立ち上がった。とりあえず誠達が始めることにしたこと。それは新規の住民登録を行なった人物をすべて見て回ると言う地道な行動だった。


「しかし……本当にお巡りさんは大変よね。武装は拳銃とショットガンだけ?こんなので法術師とやりあうの?自殺行為じゃないの……かえでちゃんクラスの法術師だったら死にに行くようなものよ」 


 アメリアはいつもの愛銃P7M13を見つめつつそう愚痴った。


「ショットガンはゴム弾入りの非殺傷弾入りだ。しかも一発撃ったら始末書一枚だそうだ。西園寺なら何枚始末書を書かされることになるやら。法術師が出てきたら法術対策部隊が来るまでその場で待機なんだそうだ。悠長と言うかなんと言うか……」 


 アメリアもカウラも顔色は冴えなかった。司法局の丙種装備よりも落ちる装備に不満を言いたい気持ちは誠にもよく分かった。相手は法術師の能力を乗っ取る化け物である。空間制御系の法術を使われればショットガンなどお守り以下なのは嫌というほど分かっている。


「でも準軍事行動じゃないんですから実弾は使うのはあまり褒められたものでは無いですよ」


 不満そうな女性陣を落ち着かせようと誠は口を開いた。そんな彼を明らかにあざけるような視線でかなめが見つめてきた。 


「奇麗事は良いけどよう。オメエは租界で撃ちまくらなかったか?」 


 かなめはそう言うが、撃ちまくったのはかなめで自分は一発も撃っていないと誠は反論したかった。


「撃ちまくるのは誠ちゃんじゃなくてかなめちゃんでしょ?それ以前に誠ちゃんの下手な鉄砲を市街地で撃ちまくられたら私も困るわよ。目の前で戦ってるのは私達よ。そっちに当たる確率の方がはるかに高いわ」 


 入り口に立ってニヤニヤ笑っているかなめを押しのけるようにしてアメリアはそのままドアを出た。そしてそこで何かとぶつかってよろめいた。


「ごめんなさい……ああ、ラーナちゃん」 


 大柄なアメリアはよろめく程度で済んだが走ってきた小柄なラーナは廊下に倒れてぶつけたひじをさすっていた。ラーナはすぐに手にした荷物が無事か確認すると申し訳なさそうにアメリアを見上げた。


「あまり廊下は走るものじゃないな。だからそう言うことになる」 


 気遣うような調子でカウラが立ち上がろうとするラーナに手を貸した。


「すいやせん!ベルガー大尉!前見てませんでした!」 


 カウラを見つけてラーナはすぐに立ち上がって敬礼をした。さすがに司法局法術特捜本部の捜査官と言うこともあって警察の制服はしっかり板についている。彼女ならこの手詰まり状態を打破してくれると誠は期待して彼女を見つめていた。


「神前曹長……」 


 ラーナはすぐに誠の襟の階級章を見て誠が自分より階級が上なことを悟った。


「ああ、こいつは巡査部長だそうだ。役に立たないけど法術が使えるだけで巡査部長とはこの世も終わりだな」


 皮肉るようにかなめはそう言ってラーナを見つめる。 


「そうなんですか?じゃあ部長って呼ばなきゃならいんっすね?」


 ラーナははきはきとそう答えた。


「部長ねえ……ずいぶんとまあ貫録の無い部長だこと」 


 ニヤニヤ笑っているかなめから話を聞いてラーナは少しばかり得意げに誠を見上げていた。


「まあ無駄な挨拶は抜きにして、失礼するっす……」 


 そう言うと慣れた手つきで中央のテーブルに腰をかけたラーナは、手にした大きなバッグから携帯端末を取り出すと、手早く立体画像表示システムを起動した。すぐに近隣の交番のデータがオープンになり、その近辺のアパートの状況を表示する画面が映った。


「やはり捜査の基本は地道な聞き込みっすよね。恐らく犯人は年明け前後にこの豊川に転居してると思われるっすから各交番に新規の入居者のいるアパートやマンションを訪問する指示を各交番にするっす」 


 ラーナはこれまで誠達が考え付かなかった捜査方法を提示してきた。


「良いのかよ……簡単に言うけど。アタシ等は捜査会議にも出れない身分なんだぜ。それに訪問するって言ったって用件はどうするんだよ。『あなたは犯人ですか?』とか聞いてまわる気か?」


 パイプ椅子に腰を下ろすと、自嘲気味な笑みを交えてつぶやくかなめにラーナはこともなげに微笑んで見せる。 


「訪問の名目については問題ないっす。防災関係の書類を持たせて訪問つう形をとるっす。それに先程ここに来る前に刑事課に寄ってきたっすからすでに話は通ってるっす」 


 かなめの不安そうな顔に淡々と答えるラーナの顔が面白くて誠が噴出しそうになる。それに腹を立てたかなめは殴るポーズをした。それを無視してラーナは端末の画面を切り替えた。


「現在15万件分のアパートやマンションが対象になるっぽいすけど、犯人が法術適正のある人物と仮定した場合、正直あまりいい物件には出会わないっすから、家族向けや高級マンションは除外するとなるとかなり件数は減らせるっすよ」 


 そう言うとすぐに画面が検索中のものに切り替わった。そして豊川市内の地図に赤い点と青い点が点滅する画面へと切り替わった。赤い点はどちらかといえば駅の周りや旧街道の周りという再開発前の古い町並みの中に集中していた。一方青い点は新開発の公営団地や新しく延伸された私鉄の路線近辺に散らばっていた。


「この赤い点がかつて警察が捜査のために入ったことのあるアパートやマンションす。一方青いのが捜査を受けてねえマンション。青い点の方は正直あまり当たりが無いと思ったほうが良いっす。警邏の担当者も都合があるっすから赤い点から優先的に聞き込みを開始するのをお勧めするっす」


 事も無げに言うラーナの言葉に誠達はただ感心しながら聞き入るしかなかった。 


「あれか……建ててから年数が経ってるとか、駐車場が無いとか……条件が悪くてあまり入居者を選ばない物件の方が当たりを引く可能性が高いということか?」 


 あごに手を当てながら納得しながらカウラがうなずいた。



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