第8話 突然の法術発動
一瞬、誠の意識が飛んだ。そして次の瞬間に参拝客が眺めていた絵馬の奉納されていた一隅に一瞬で火が回った。乾燥した木の燃え上がる炎に人々が驚いたように悲鳴を上げた。
「なんだ!放火か!こんな目出たい日に罰当たりな奴だ!神前!とりあえず消火だ!」
かなめが驚いて振り返った。カウラはあたりを見回し防火水槽を見つけて走り出した。
「ちょっと!何よ!テロ?テロなの?」
アメリアはしばらく叫んだ後、火の粉が移った人達に近づいて自分の紺色の振袖を振り回して火を消そうとしていた。
「おい、神前!オメエも法術師だろ!何か分かったか!分かったこと全部言ってみろ!」
かなめは青ざめて座り込んでいる誠に向けてそう叫んだ。
「パイロキネシスト……発火能力者です!この近くに居ます!気を付けてください!」
「そんなの見りゃわかる!他に何かわかったことはねえのか聞いてるんだ!」
誠はようやく何物かの介入が止んで力が入るようになった膝で参道の中央に立ち上がった。そしてその誠の様子を確認するとかなめは慌てて駆けつけてきた警備の警察官に自分の身分証明書を見せた。
「司法局?これは法術事件ですか?パイロキネシストによる放火ですかね?」
驚いた太り気味の警察官はしばらく唖然とした後、周りを見回した。防火用水の隣のポンプを使ってカウラが近くの客達に助けられながら放水を開始していた。
「法術犯罪の可能性がある。すぐにこの場にいる人物の身柄の確保を始めてくれ。一人も漏らすんじゃねえぞ。もし東和に恨みを持つ東モスレムのイスラム教テロ組織なら人ごみに紛れて逃げ出すなんて十八番なんだ!連中はテロのプロだ。人っ子一人にがすんじゃねえ!」
かなめの言葉に警察官と飛び出してきた町会の役員達が大きくうなずいて走り始めた。その中には先ほどの顔役の姿もあった。皆ただ突然の惨事に驚いて慌てて走り回るだけだった。誠は大きく息をしてしばらく立ち尽くしていた。だが火が大きく揺れて一気に逃げようとする参拝客に襲い掛かろうとしたところで自分が司法機関執行官であることを思い出してそのまま消火活動中のカウラに向かって駆け出していった。
「神前!ホースを!」
放水の為にポンプを起動している町会の役員達と共にカウラが叫んでいた。その振袖には火の粉がかかり、一部が焼け焦げているのも見えた。誠はカウラからホースを受け取るとそのまま延焼し始めた祠にホースを向けた。
「行けます!放水開始!」
誠はじっと筒先を構えるとすぐに大きな反動が来てその先端から水がほとばしり出でた。周りの人々が逃げる先には警察官に混じってちぎった袖で誘導をしているアメリアの姿もあった。誠はそれを確認すると安心して燃え盛る祠に放水を続けた。
「大丈夫か?」
応援の警官隊の配列を終えたかなめが何とか慣れない放水をしている誠に手を伸ばしてきた。