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第76話 誠をとらえて離さない感覚

「こんなに……法術師が嫌われていたなんて……」


 誠は自分達『法術師』の置かれた状況の絶望に絶句していた。 


「そんなもんよ、世の中なんて。頼れるときは頼って、邪魔になれば捨てられる。すべての英雄の行き着く先なんてそんなもんよ」 


 アメリアの言葉に自分がしばらく敵意の視線で男を見ていたことに気づいて誠はうつむいた。


「いつも言ってるだろ?下手な力の有無は敵意を生むだけだって……なあ」 


 かなめの言葉におびえるように男はうなずいた。確かにこうしておびえられるに足る力を自分が持っていることを誠も自覚していた。


「でも……お兄さんが顔色変えたくらいじゃ法術師かどうかなんて分かりませんよ。俺だって知らなかったらつい貸しちゃうかも知れないじゃないですか」


 不動産屋に足を踏み入れたことの無い誠は何も知らずにそう言った。 


「そうか?なんでも一部の同業者が入居の条件に法術適正試験の受験を課しているそうじゃねえか。同業者だろ?知ってるんじゃないか?たとえばさっき言ってた社長とか」 


 そうかなめに詰め寄られると男はただ静かにうつむいてタバコをくゆらせるほかはなかった。


「……」 


 男が黙るのを見てかなめの顔はサディスティックな笑みにゆがんだ。その様子はカウラも察したようですばやくかな目の前に手を出してきた。


「安心しな……じゃあどこなら法術師の客を扱うことになる?」 


 かなめは怒りの前と言うような大きな深呼吸をする。アメリアもいつかなめが暴走しても良いようにと鋭い目つきで彼女を見つめていた。


「駅前の三件は法術師の適性検査の陰性が紹介の条件です。それ以外だと……菱川以外の大手ですがそこも担当によっては大家が法術師嫌いだったりすると適性検査を強要するような話もありますし……」


 男は言い渋るかのように話を長引かせた。


「不動産屋の現状を調査に来たわけじゃねえんだ。結論言えよ」


 いらだつかなめ。男はさらにうつむいて話し出した。


「規模の大小に関わらず担当者に恵まれるまで何度も通うしかないんじゃないですか?まあ小さいところは親父一人でしょうからそこは一発で分かるかもしれませんが」 


 明らかに殺気を帯びているかなめに少し驚きながら男は静かにそう言った。その言葉を聞くとかなめは立ち上がった。


「お嬢……」 


 明らかに自分の言葉に不機嫌になったかなめを見て男は表情を変えてそう言った。


「分かった。とりあえずお前が知ってる法術師に部屋を貸しそうな業者のリストをあとでアタシのところまで送れ」 


 かなめは半分諦めたような調子でそう言うとそのまま部屋から出て行こうと立ち上がった。


「ホントなの?担当者次第ってことは全然絞られなかったってことよ!かなめちゃん全部見て回る気?それに大手なんかだとプライバシー保護が……」 


 アメリアが文句をつけるのをタレ目でにらみ付けで黙らせた。


「仕方ねえだろ!足が資本だぜ、捜査ってのは!」 


 そう言うとかなめはそのまま一人で出て行く。誠は男に頭を下げるとそのままかなめを追った。


「西園寺さん!待って下さいよ!」 


 誠の言葉を無視してかなめはそのまま階段を駆け下りる。誠は一階のロビーにたどり着くとそのまま全員が立ち上がってかなめを送り出す様に遭遇し違和感を感じながら外に出た。


「畜生!」 


 かなめが空を見て叫ぶ。


「仕方ないじゃないですか。狙いは良かったんですから……なんなら安そうなアパートを全部回って……」 


 かなめはキッと誠を振り向いた。明らかに自分に対する怒り。危ない橋をわたっている人間を追い詰めることには慣れてきた自信が有るだけに今回の法術師を紹介する不動産屋を絞り込むと言う策には自信があったのだろう。


「そんな問題じゃねえよ!今でも犯人の野郎はどこかでニヤニヤ笑ってるんだぞ!そう思うと……」 


 そう言いながらかなめはようやく店から出てきたカウラにドアの鍵を開けるようにと指差した。


「慌ててどうなる」 


 カウラは自分の思惑通りいかなかった捜査に納得がいかないかなめを慰めるようにそう言った。


「悠長にしているほど人間できちゃいねえんでな」 


 カウラの言葉にかなめは自嘲気味に笑った。


「仕方が無いわね。乗りかけた船だもの。付き合うわよ」 


 アメリアは助手席のドアを開けながら微笑んだ。かなめは自分が許せないと言うように無表情を装いながら車に乗り込んだ。



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