第74話 かなめの本領発揮
「あんたら本当に警察の人?そこのねえちゃんなんかもろにホルスターぶら下げて臨戦態勢で……警察の人は普通拳銃は隠すもんでしょ?」
真顔でかなめに向けて聞いてきた男の視界から突然かなめが消えた。誠も黙っているうちに男はそのままかなめに組み敷かれて床に転がっていた。
「おう、良かったな。アタシ等は現在千要県警に出向中の司法局の実働部隊員だ……まあアタシの籍は今でも甲武陸軍の非正規部隊にあるけどな……なんなら試してみるか?その右腕辺りで。身分は警察官だが本業は非正規部隊で暗殺やら爆破やらをやるのがアタシは得意なんだ。何ならこの店ごと奇麗に消し飛ばしてやろうか?」
その言葉。そして生身とは思えない動きと重さで口をかなめに押さえつけられている男がうめく。その顔を見てかなめの表情がさらに残酷そうな笑みにゆがんだ。
「ほう……アタシは何度か租界でテメエの顔を見てるけど……出世したもんだなあ。鉄砲玉君。テメエみたいな馬鹿の処理もアタシの仕事だった事が有るんだ。良かったなあ、そん時にお目にかからなくて」
かなめの立て続けの言葉に男は何かを思い出したように動きを止めた。明らかにかなめを見るその顔は驚きと恐怖が男を支配しているのが分かる。かなめは納得したように立ち上がりスカートの裾をそろえた。
「なんだと思ったら……西園寺のお嬢ですか……噂はかねがね。そうならそうで……って納税?」
男はかなめの『租界』内部での工作活動時の顔見知りの様にかなめと知るとすぐに卑屈な笑顔を浮かべてかなめのご機嫌を取るような姿勢を取った。
「そう!アンタ等が今年の純利の約40パーセントを金に変えて租界に運んで……」
かなめはかつて男がしていた裏の仕事の内容をペラペラとしゃべりだした。
「お嬢!勘弁してくださいよ!何が目的ですか?なんか事件でも追っているんですか?甲武の官派の残党狩りですか?うちでも後ろ暗い外国人には物件を紹介してますが、甲武浪人はヤバいってんで断ってるんですよ!」
泣き出しそうに跪く男に誠は哀れすら感じた。恐らくかなめはこの不動産屋の裏帳簿をネットで拾って脱税の記録でも見つけたんだろう。さらにまともな不動産屋のすることではない違法な活動の証拠も握っているかもしれない。彼が振り返るとカウラもアメリアもかなめのすることがはじめから分かっていたようににんまりと笑みを浮かべている。
「じゃあ、オメエの事務所。そっちで話そうか。ここじゃあ拙い話も出てくるんだろ……あ?」
とても遼州一の名家の令嬢とは思えない顔つきでかなめは男をにらみつけた。男も仕方なく立ち上がると事務所の職員が失笑を浮かべているのにいらだちながら立ち上がった。
「じゃあ……二階で」
そう言うと男は静かに横にあるドアを開いた。かなめが誠達を振り返りにんまりと笑うとそのまま付いて二階に上がった。カウラとアメリアも誠を引き連れてその後ろについてあがった。