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第73話 やくざ者の経営する不動産屋

「そこの横丁を曲がるんだ」


 かなめは確信を込めた調子でそう言った。 


「西園寺。私が知らないとでも思っているのか?」 


 カウラはやけになって左にハンドルを切った。大きく車体は傾き、カウラのエメラルドグリーンのポニーテールが揺れた。とつぜん現れた近代的な建物。誠にもそれがどうやら不動産屋の店舗だと言うことが分かった。カウラはそのまま車は駐車場に乗り付けられ再び思い切り急停車した。


「カウラちゃん……運転はもっと丁寧に」 


 ドアにしたたか太ももをぶつけたアメリアは自分の紺色の長い髪を掻き揚げながら苦笑いを浮かべた。その座席を後ろに座るかなめが蹴り上げた。


「まったく西園寺は……他人の車だと思って……」 


 ため息をつくとカウラはドアを開けて外に出る。アメリアもつられるように出て助手席のシートを倒す。何とかかなめ、誠が狭い後部座席から降車した。


「ここが一番か。こんな裏通りで商売なんかできるのか?」 


 カウラの言葉にかなめは苦笑いを浮かべながらうなずいた。


 周りの家々がどう見ても建て替えの費用が無くて修理に修理を重ねて住み続けているという平屋ばかり。そのなかでコンクリート製の築一、二年と言う二階建ての店構え。しかもどんと立つ店の看板は磨き抜かれたように光沢すら放っていた。


「カウラさんの言う通りですよこんな裏小路に入ったところで商売ができるんですか?普通お店ってのは大通り沿いに看板とか出しとくもんですけどそんなものもありませんでしたよね……なんでこんなに羽振りが良いんだろう?」 


 誠は半分呆れながら白地に金の字で『豊和不動産』と書かれた看板を見上げていた。


「まともな営業をしている不動産屋ならな。でもまあ……その筋の人間なら話は別だ。それに後ろ暗い法術師が住処を探すならこう言うところのほうがぴったりだろ?」 


 そう言うかなめの視線の先には黒塗りの大型高級車が止まっていた。


「まるで明石中佐の車ですね。典型的なやくざ屋さんの車」 


 誠はそういいながらこの不動産屋がかなめ担当のその筋の人間の経営するものであることがわかった。


 誠の言葉に一度ほくそえんだかなめはそのまま自動ドアの前に立った。


『いらっしゃいませ!』 


 店内に声が響いた。店員達が一同に立ち上がり誠達に頭を下げている。民間企業での仕事の経験などは学生時代に工場で鉄板を並べていたくらいの誠には異様な光景に見えて誠は思わず引いた。


『あんなあ。その筋の絡んでる店ってのはみなこんなもんだぜ。妙に愛想が良くて……ああ、あそこを見な』 


 小声でかなめがつぶやくその視線の先には大きく張り出されたスローガン。『負け犬は死ね』と言う筆で書かれた文字が壁に張り出されていた。


「あの……」 


 入ってきたかなめの着ているのが千要県警の制服だったことに気づいた受付の女性が一番声がかけやすそうに見えたアメリアに語りかけてきた。誠も声をかけた小柄な長い髪の受付嬢の化粧が一般のOLのそれより明らかに濃いのが目に付いてなんとなくかなめの言いたいことが分かったと言うようにアメリアに目をやった。


「ああ、お仕事の邪魔かもしれないけど……ちょっとお話を聞きたいの」 


 明らかに回りに聞こえるような声でアメリアが口を開いた。その様子におどおどと受付の女性は背後の事務所を見た。そこにはどう見ても回りの緑の制服を着た事務員達とは毛色がまるで違う黒い背広の恰幅のいい男の姿があった。


『やっぱりこれは西園寺さんの担当だな』 


 男が仏頂面で立ち上がるのを見て誠も納得した。以前の誠ならその男の威嚇するような視線におびえて足が震え始めるところだったが、この男と同類の司法局調整官の明石清海中佐が同じような格好をしていたのでとりあえずかなめ達を盾にして後ろで男と目が合わないように天井を見上げる程度で落ち着くことができた。


「申し訳ありませんね。うちは……個人情報の遵守をモットーにしてますから……見てください」 


 男は受付にたどり着くと背後のついたてを指差した。不動産業の営業許可証の隣には個人情報保護基準達成の証書が飾られている。だがかなめはまるで臆することはない。彼女が得意な腕っ節でなんとかなる相手に遭遇した時独特の笑みを顔に浮かべて受付に手を着いた。


「そりゃあ殊勝な心がけですねえ……まったく頭が下がる納税者さん。応援していますよ……納税者さん」 


 かなめが二回『納税者』という言葉を続けるとなぜか悪趣味な背広の男はこめかみに手をやって誠達を一人一人値踏みするような視線を向け始めた。



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