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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第十三章 寮から始まるいつもの一日
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第70話 法術師に部屋を貸す馬鹿

「勘違いするんじゃねえ!賃貸契約の全容を把握するんだよ!もし今回のホシがこちらに拠点を移したとなれば部屋でも借りると考えるのが自然だろ?今のご時世、法術師の入居はいろいろ面倒が付きまとうはずだ。当然、法術師に部屋を貸す不動産屋なんてまともなところがあるはずがねえ。だから、そこから足取りを探る……良いアイディアだろ?」 


 かなめはそう言うと今度はポケットからコードを取り出し自分の後頭部のジャックに差し込んで端末とつながった。意識が途切れたように首が折られるがそのまま画面には検索モードの様子が映っていた。そしてそれを見てカウラが手を叩いた。


「そうか。法術師が部屋を借りる。貸してくれる大家は限られるしうまくいけばどこかで足が付くか」 


 カウラも珍しくかなめの妙案が気に入ったようで、笑顔で画面に目をやった。


「そう?検査なんて東和は任意じゃないの。法術適正を受けている人間が犯人と決まったわけじゃないでしょ?」 


 アメリアは半分期待はしていないと言う感じだが、その視線は明らかにかなめの検索の模様を眺めているものだった。


「法術適正を受けている人間の犯行だと僕は思いますよ。人の能力を横取りして発動させるんですから。法術に興味のない人物の犯行だとはとても思えないですから」


 誠もかなめの思い付きに賭けてみることにした。


「でも最近東都の都心からこちらに引っ越してきた人間なんて山ほどいるじゃない。いちいち調べるの?いくら少ないとはいえこの時期に異動した法術師の数なんて相当な数だと思うわよ……全部ついて回る気?」 


 明らかに乗り気でないアメリアは面倒くさそうに頭を掻いた。


「しかたねえだろ……235世帯か……所帯持ちは外しても156件」 


 かなめの言葉にうんざりしたと言うような顔のアメリア。だが彼女の肩をカウラが叩いた。


「何万人と言う豊川市の人口から比べればわずかなものだ。四人で見回れない数じゃない」 


 カウラはそう言うと信号が変わったのを確認してギアをニュートラルからローへと叩きこんだ。


「でもその中に犯人がいると言う保障はあるの?そもそも法術適正検査は匿名で行なわれてるのよ。その156人だって一人も法術師がいないかもしれないじゃない。いたとしても嘘をつかれれば……どうせ捜査令状は下りないんだから」 


 そんな言葉を吐くアメリアをケーブルを首から外したかなめが哀れむような目で見上げる。


「なによ……かなめちゃん。その目。そんなに私の行ったことおかしかった?」


 アメリアは不満げにじぶんに憐みの視線を投げて来るかなめにそう言った。 


「お前。馬鹿だろ」 


 かなめの言葉に容赦は無かった。


「馬鹿はかなめちゃんでしょ?それは前から知ってたけど」 


 いつもの挑発合戦にうんざりした顔でカウラと誠は見詰め合った。


「アタシ等はこの豊川に犯人が来ていたときにそうすることが意味があるから出向してきたんだ。そして今はアタシ等は豊川署の署員だ」


 かなめはかみ砕くようにそう言って見せた。 


「そうよ。当然じゃないの。私達は今は本当のお巡りさん。地域の住民の安全を守るのがそのお仕事。それがどうしたの?」 


 アメリアの典型的な模範解答にかなめはあきれ果てたように頭を抱えた。


「はー……なんでこんな当たり前のことが出てこねえかなあ……」 


 アメリアはまだ分からないと言うような表情をしていたがその曖昧な顔が突然ゆがんだ。明らかにアメリアもかなめの言いたいことがよく分かったようだが彼女がかなめに頭を下げるつもりがないことは誠にもよく分かる。


「その為にわざわざ出向してきたのよ。もしこの町に犯人が転居してきたのならそいつを捕まえなきゃ意味がないんじゃないの」 


 アメリアは一向に自分の考えていることを話さないかなめを非難するようにそう言った。


「犯罪抑止が最低任務であって、逮捕は私達の仕事の範疇(はんちゅう)じゃない」


 豊川署に向う大通りに車を進めながらカウラはそう言った。 


「カウラちゃんは黙っていて!」 


 八つ当たりを食らったカウラが口をつぐんだ。誠は噴出しそうになりながらいらいらしているアメリアを眺めていた。


「なんだよ。別に戸別訪問をしようというわけじゃないんだ。すべての転居に関わった不動産屋を訪ねて回れば自然と犯人のめぼしはつく。容疑者を限定できればそいつをはっていれば事件にたどり着く。そしてそこを現行犯逮捕ってシナリオだ。なんでそんな簡単なことが分からねえかなあ」 


 かなめはここでようやく自分の思いついたグッドアイディアを口にした。


「そんな……相手の不動産屋さんはド素人よ。犯人らしい人物かどうかなんて分かるわけ無いじゃないの。それに一応不動産業者も個人のプライバシーに関することについては……」 


 そう言いながらアメリアは頭を掻いた。元々そう言う任意の捜査においてはかなり高圧的に対応して結果を残すのが得意なかなめである。プライバシーとか守秘義務などという一般社会の常識はかなめの捜査にはありえなかった。それに他に何か捜査の方法があるのかとかなめに聞かれれば思いつく方法はアメリアには無かった。


「おう、抗議するんだろ?さっさと言えよ」 


 やる気に満ちて目を光らせているかなめを止める勇気を持つものはこの車には乗っていなかった。


「むー……」 


 膨れるアメリアだが、カウラの携帯端末が着信を注げたことで誠達の興味はそちらに移った。


「はい、ベルガーですが」 


 端末に出たカウラ。かなめは卓上の画面を操作して相手の画面を映し出した。そこには先日この部屋に誠達を押し込めた杉田という刑事の顔があった。


「今度はパイロキネシス暴走です。場所は……」 


 誠達は顔を見合わせた。捜査の手がかりを探す段階は過ぎていた。


「とりあえず文句は後だ、現場に行くぞ」 


 かなめはそう言うと運転するカウラの肩を叩いた。アメリアも渋々バッグに手をやり県警の制服が入っていることを確認した。


「事態は動いているんだ。私達の想像以上に早くな」 


 端末を終了して立ち上がるカウラの言葉を聞いて改めて自分達が明らかに後手に回っている事実に気づきながら誠はダッシュボードからパトランプを取り出したアメリアからそれを受け取り、そのまま緊急車両モードで現場へと車を加速させた。



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