第7話 誠を取り合う女達
「なんですか!いきなり!」
誠はアメリアのあまりに積極的な態度に驚いたようにそう言った。
「何ですかって言うことは無いんじゃないの?せっかくの正月休み。初詣ならもっと明るい気分ですごしましょうよ!カウラちゃんは真面目すぎ!せっかくのお正月よ!2685年よ!もっと楽しまなくっちゃ!『ビックブラザー』の永遠に続く1984年は終わりを迎えたのよ!」
アメリアは誠と手をつないだままそれを大きく振り回した。
「……で?そうすると何でテメエ等が手をつなぐんだ?言ってみろ?理由はなんだ?コイツにはかえでと言う『許婚』がいるんだ。いくらアイツが変態の色魔だとしても泥棒猫は感心しねえな」
明るく誠の手を引こうとしたアメリアの手をかなめは叩いて離させた。
「なによ!なんでかなめちゃんがかえでちゃんの肩を持つの?ははーん、『女王様』としてはあらゆる責めに耐えられる貴重な奴隷のかえでちゃんと誠ちゃんがそう言う関係になるのは嫌なんだ……最近はかえでちゃんに虐められるのも興奮するようになってきたって言ってるし」
かなめに手を振りほどかれてアメリアはムキになってそう叫んだ。
「なによって何だよ!それとかえでの鞭は遠慮がちで駄目だ!リンの非情な鞭がアタシの好みなんだ!それとアタシもかえでがこいつの『許婚』ってことは認めてねえ!あの鬼婆がそう言ってるから仕方なくかえでの奴を立ててやってるんだ!かえでの奴が欲望に抑えきれなくなってこいつに襲い掛かったところをおいしくかっさらう!それがアタシの狙いなんだ!かえでのご主人様としてかえでの所有物を一番食べごろの所をいただくのが当然の権利だろ?」
いつものようにかなめとアメリアがにらみ合いを始めた瞬間、誠は強烈な違和感を感じて立ち止まった。何か自分の頭の中をまさぐられたような不快な感触。もし三人がいなければそのまま吐き気に身を任せて口に手を当てて嗚咽したくなる、そんな感覚が回りに漂っている。
「どうした?」
誠の異変に気付いたかなめが声をかけるが誠の心臓の鼓動は早くなるばかりだった。自分の領域に何かが入ってくる。そして入って来たものの誠の力の大きさをもてあましてどうするべきか迷っているように誠の意識を弄繰り回している誰かの存在がそこにあった。それをかなめに説明しようと顔を上げた。だが不快な感覚が脳をぐるぐるとかき混ぜる状況の中、誠は自分の言葉が出ないことに気づいた。
「おい、大丈夫か……カウラ!神前が変だぞ」
ひざまずいて震えている誠をかなめが何とか助け起こそうとするが誠の意識はかなめもそしてその言葉を気にして近づいてきたカウラやアメリアにも言っていなかった。
圧迫されてゆがむような視界の中、ちょうど人の群れが途切れたところには絵馬が並んでいるのが見えた。人々はそれぞれ手に絵馬を持って和やかに話をしている。だが、その中の中学生くらいの振袖姿の少女が急に足を止めたのを見て誠は頭に衝撃のような何かが走るのを感じた。
「昨日はお笑いフェスで大活躍だったから疲れてるんじゃ……」
そう言ってアメリアがそう言って手を差し出した瞬間だった。