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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第十三章 寮から始まるいつもの一日
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第67話 お呼びのかからない整備班長

「今回は俺の出番は無いんですかね……」 


 明らかに不満そうに声をかけてきたのは技術部特機整備班長の島田正人准尉だった。


「なにか?普通じゃ死なないって言うだけで捜査に参加できると思うなよ。オメエは馬鹿だから今回みたいに頭脳戦になる捜査には向いてねえんだ。自分の能力の向き不向きぐらい考えてからモノを言え」 


 かなめの一言に明らかにカチンと来た様に島田は頬を膨らませた。彼は純血に近い遼州人であり、意識で体細胞の再生を行なうことができる再生系の法術適正の持ち主だった。


「そんなことは分かっていますよ!ええ、俺は馬鹿ですよ!電大だってカンニングだ入りましたよ!卒業だってほとんどが出来の良い奴に代わりに卒業試験を受けさせたのと、卒論は実験室の教授と意気投合して良く飲みに行ったおかげで卒業できただけで大卒なんて言えたもんじゃないことくらい分かってますよ!」


 島田は完全に自棄になったようにそう叫んだ。 


「おい、その面は『俺は厚生局事件の時も付き合ったんですよ!今回だって!』とでも言いたいのか?あ?」 


 ニヤニヤと笑いながらかなめのたれ目が島田を捉えた。我が意を得たりと島田はうなずいた。そしてそこに司法局実働部隊副長クバルカ・ラン中佐が当然のように現れたので、おっかなびっくり島田はランに敬礼した。


「おっと、ずいぶんシリアスな展開だったみてーだな。菰田、今日は粥か?」 


 どう見ても小学生にしか見えないランを見ると喜んで菰田のシンパの一人が厨房に駆け込んでいった。その様に呆れたと言うようにため息をついた後、平然とランは誠の向かいの椅子に腰掛けた。


「島田。アタシの判断が不服みてーだな」


 厚生局の事件で自分の部屋を手にしたランはこうして自分達が指導する部下が真の『漢』に育っているかどうか監視をするために泊ることが有った。今日もそんな一日だった。 


「不服と言うか……今回は俺はより重要な任務の遂行がありますので。一応、自分にはシュツルム・パンツァー整備班長としての責任がありますから……」 


 ランには頭の上がらない島田にはそれ以上の事を言う勇気は無かった。


「おー。それが分ってりゃいーんだがね」 


 そう言うとランは七草粥を受け取り静かに食べ始めた。その様子に菰田の取り巻きの一部にある秘密結社『エターナル幼女同盟』の会員達が萌える瞳でその様子を眺めていた。


「島田よー。アタシ等の仕事の目的はなんだ?」 


 ランは島田を試すようにそう言った。


「市民の安全を守ることです!武装警察の仕事の第一の目的はその一言に尽きます!」 


 即答する島田に満足げな笑みを浮かべてランがうなずいた。彼女はそのまましばらくスプーンを握りながら考えるようなポーズをとった。


「おい、そこ。写真を撮ったら金よこせよな」 


 密かにランの萌えるポーズを写真に撮ろうとした菰田の隣の技術下士官にランは鋭い目つきを送る。


「すいません!すぐ消します!」 


 メガネの整備班員が携帯端末の画像を消す動作をした。


「消すくらいなら最初から撮るんじゃねーよ」 


 苦笑いを浮かべながらそう言うと再びランは静かに食事を再開した。その様子をただ待たされ続けると言うように経ったままランを見下ろしていた。


「一番必要な場所に一番適した人物を配置する。アタシは隊長からその権限を委託されて副隊長をやってるんだ。今回はテメーの出番じゃねーんだ。それにテメーには今、『武悪』の運用データの収集と言う重要な任務がある。そっちの事に頭を使え。もしテメーの力が必要になるようなら他にどんな重要な仕事が有ろうが死にそうな状態でも引っ張り出すからな」 


 ランは余裕の笑みを浮かべて箸を進めた。


「まあ島田は死なないけどな」 


 ランの言葉に茶々を入れたかなめをランは殺気がこもっているかのような視線でにらみつけた。


「ともかく島田。オメーはもらった仕事をちゃんとしろ。それが終わったらアタシが隊長に話をつけてやる。それでいーか?」 


 ランに見上げられれば島田も断れなかった。ただ力なくうなずく島田を見て満足げにランはさじを進めた。


「しかし……次の事件もこっちで起こるんですかね?たまたま気まぐれでこっちで事件を起こしてまた都内に帰っちゃったとか……」 


 アメリアはここ数日例のいたずらが止まっていることが気になっているようだった。


「心配性だなアメリア。それならそれでいーんだよ。アタシ等の管轄の外の事件と言うことになる。茜の嬢ちゃんがこれまで作った隊長のコネを使って捜査一課だろうが本庁法術機動隊だろうが犯人を挙げてくれれば儲けものだな」 


 淡々とランがつぶやいた。そしてその言葉が響くたびに菰田達のボルテージが上がるのが嫌でも見えた。ささやき、つぶやき。その中に『幼女』と言う言葉が混じっているのでいつ爆発するかと誠は気をもんでいた。


「ああ、それと菰田!」 


 みそ汁を飲み終えたランはひたすら食事をするカウラを見つめていた菰田に声をかけた。


「はい!」 


 ランに呼びつけられてシンパに守られながら菰田は立ち上がった。だがその回りの連中は明らかにそんな命令口調のランの態度に萌えていた。


「飯食ったら出勤だろ?ぼーっとしてるんじゃねーよ!」


 ランはあくまで『鬼上司』だった。 


「了解しました!菰田曹長、これより駐屯地へ向かいます!」 


 さすがにランの怒りが爆発するまでに去ろうとするが、Mっ気のある隊員が残ろうとするのを何とかなだめすかして食堂を出て行った。


「アイツ等何しにここに配属になったのかわかってんのかねー」 


 そう言うとランは粥の最後の一口を口に運ぶ。さすがの誠もその姿には萌えを感じざるを得なかった。


「誠ちゃん。私達のフィギュアよりもランちゃんの方が売れそうよね……かえでちゃんのは例外。マイクロビキニの超乳ボディーは昔から大人気のフィギュアだものね。ああ、たぶんかえでちゃんなら誠ちゃんが頼めばすぐにモデルになってくれると思うわよ。全裸で」 


 アメリアはランの人気に嫉妬してそうつぶやいた。


「クラウゼ。つまらねーこと言ってるとはたくぞ」 


 アメリアに向かってそう言いながらランはテーブルの上の粥のどんぶりを持って立ち上がった。


「結果。期待してるからな」 


 そう言って振り向いたランの笑顔はいつもの鬼の副長ではなく無垢な少女の笑顔に見えてつい誠は自分の心がときめくのを感じていた。


「ロリコンが……」 


 カウラはそれを見て大きなため息をつくのだった。



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