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第57話 弱者の視点、強者の視点

 それからと言うもの同じように水島の心の中に『引っかかる』何かを持つものが山といることが分かってきた。街を歩けばそんな『引っかかり』、世に言う『法術』の使い方も分からずに力を持ち腐れさせている多数の人間に出会った。そして何度かその能力を使ってやるうちに、そんな自分の行為が自分に与えられた義務ではないかと思い始めていた。パイロキネシストがいれば近くのごみ置き場に火をつけてやった。空間干渉能力があれば近くの立ち木を切断して見せてやった。


『みんな色々できるんだぜ……俺達を見限った連中に一泡吹かせるくらい楽なもんだ』 


 にやける頬を引き締めながら水島はいつも思っていた。


 この世界は力の無いのと力のあるものがいるというのは不完全な認識だと彼は考え始めた。


『力があっても使わなければ意味が無い』 


 そう言う訳で司法大学院の勉強の傍ら町を徘徊して彼等の力を使った。ボヤ程度で十分だった。ちょっとした車のタイヤを割ることで納得できた。


 この世界が法術師を生んだのならそれにふさわしい待遇が必要になるはずだ。能力の上に眠るものに何の権利も無い。そう思いながら日々散歩を繰り返していた。


 ただ最近は警察の目が気になり始めていたところだった。司法試験を目指すだけあって警察が単純に違法な能力者の摘発だけをしているうちは安心できた。


 正月前、テレパシー能力のある暇そうな警邏隊員の思考を読み取ってみれば『法術機動隊』だの『法術特捜』だのという単語が浮かんでいるのに気がついた。


 例の法術と言う存在を知らしめた外惑星での軍事衝突以降の法術の認知の広がり。それを考えると水島も法術の研究が自分の思う以上に進んできていることを実感していた。恐らくこのまま行けば自分の能力が特定されてきても不思議ではない。瞬間的な恐怖が水島を支配した。しかし、今のささやかな楽しみと化している通行人の『能力の解放と言うボランティア活動』は麻薬のように水島を虜にしていてもう止めることができなかった。


 幸い水島は豊川市の司法大学院に入学することができた。これで田舎の自分の力を知らない連中だけを相手にすれば良いとなると気が楽だった。


『さて、次は何をしようか』 


 部屋の中で大の字に寝転び天井を見上げながら湧き出す笑顔に耐え続けた。


『そう言えば豊川といえば司法局実働部隊……法術を最初に使った空気の読めない馬鹿がいたな』 


 そんなことを思い出すと近くに寄ってみたいというような酔狂な気分になる水島だった。


『きっといろんな力が眠っているんだろうな。待ってろよ。起こしてやる。俺の力はあの巡洋艦を撃沈した力さえ自由に操れるんだ。これ以上無い位はっきりとこの俺が無力な中年男ではないことを思い知らせてやる』 


 笑いの堰は切れてそのまま水島は声を張り上げて部屋の中で笑い転げた。



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