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第51話 酔ってもいられない事態

「ちょっと待ってくださいね」


 そう言うと茜は周りを気にするようにして立ち上がりそのまま店の奥のトイレへと消えていった。あまりに突然で自然だった。あれだけ飲んでくだを巻いていた茜が一瞬で酔いを醒まして見せたのかと呆れて誠達は顔を見合わせた。


「どうした……事件か?」 


 そんな中でかなめは一番に正気を取り戻していた。そして手にしたショットグラスに満たしたラムをあおった。


「まあ法術特捜の本局付きの捜査官はほとんどは見習いばかりで使えるのはいまだに嵯峨警部一人だからな。代わりがいないのはつらいんだ」 


 カウラの言葉に誠もうなずいた。同盟司法局と東都警察の関係は決して良好とは言えない。三年前に設立されたばかりのよそ者の司法局の面々がうろちょろしていることを同業者がいい顔をするはずが無いのはどの業界でも同じことだった。だがこれまでは東都警察もこと『法術』に関しては法術特捜など司法局貴下の組織に一日の長があることを認めていた。


 法術に関して遅れをとっていた警察も、ここ半年で各警察署に署員の法術適正検査を行って適正のあるものに片っ端から召集をかけて独自の法術犯罪対応部隊を設立していた。さらに先月には一般からの法術師の応募にまで踏み切っていた。法術犯罪のノウハウはほとんど無いが人間の数は揃えた。自慢に捜査は任せろと言わんばかりの東都警察の上層部が、法術師を同盟司法局に出向させてくれることなど夢のまた夢の話だった。


 捜査には慣れているが人の足りない司法局。頭数は多いが捜査方法に関してはずぶの素人もいいところの東都警察。お互いの足の引っ張り合いは司法局の一員である誠から見てもあまりに無様だった。


「でも茜ちゃんだからいいのよね。私なんかあんなに飲んだら倒れちゃうわよ」


 戦闘用人造人間で薬物への耐性強化のために肝臓はやたら強く設計されているはずのアメリアから見てもあの茜の飲み方は異常だった。 


「ありゃあ特別な血族だからな。叔父貴も酒はいくらでも飲みやがる。まあ、アレは不死人だから当然と言えば当然か」 


 かなめの言葉にさすがのアメリアも同意するようにうなずいた。


 トイレから出てきた茜の表情はほとんどしらふといっていい状態だった。


「すみませんけど豊川警察署までのタクシーを手配していただけません?」 


 そのあまりの変わりように再び呆れる誠達だが茜の真剣なまなざしがすでにおちゃらけた言葉を吐けるような雰囲気を抹殺してしまっていた。


「普通のタクシーでいいんですか?できれば助手とかになってくれる人も乗れるような車のあてならありますよ」 


 アメリアがそう言うと後ろの椅子においてあった自分の黒いポーチに手を伸ばした。すぐに端末を取り出すと耳にあてがい相手が電話に出るのを待った。


「またパーラか……アメリアは困ったときはいつもアイツを便利な足代わりに使いやがる。かわいそうだな」 


 かなめが同情するのも当然だった。運用艦『ふさ』艦長のアメリアのお守り役の副長のパーラ・ラビロフ大尉。アメリアやカウラと同じ戦闘用人造人間の『ラスト・バタリオン』として生を受けた彼女の一番の不運は司法局実働部隊設立時からアメリアといつでも行動を共にすることになったことだった。


 趣味に関してはいくらでも暴走する。問題を起こしても要領よく一人だけ切り抜ける。そして徹底的に人使いの荒いアメリアとの腐れ縁は隊員達の多くが同情するところだった。


「いいじゃないの。あの子の車だって島田君の今度用意してくれた車が車庫に眠ってるなんてかわいそうでしょ。車は走って何ぼでしょ?……ああ、パーラね!今どこ?……」 


 さも車をパーラの運転で借りることが当然というような顔でアメリアはパーラに現在の居場所を尋ねた。時間からしてもう普通の人なら眠りについている時間である。誠達は何も知らないパーラがまた慌てて自分の『ランサーエボリューション』に走るのを想像して同情の笑みをこぼすことしか出来なかった。


 電話でのアメリアのやり取りを見ながら茜は深呼吸してアルコールを抜こうとしていた。



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