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第44話 乱入してくる人

「神前!いい加減に出て来いや!いつまで待たせんだ!姐御が神前はまだかって怒ってたぞ!」 


 怒鳴る、そして壊す。これは西園寺かなめの十八番である。男子シャワー室に一応女性のかなめが乱入してくるマナー違反よりこのままアンと二人きりで時を過ごすことを想像していた誠にはありがたい出来事だった。


「もう少し待っててくださいね……なんとかしますから」


 弱々しい誠の声を聞いたかなめが近づいてくるのが分かる。だが何か入り口の辺りで衣類をかき回すような音が誠の耳にも響いてきた。 


「おう、アンと一緒か……もしかしていやらしい事でもしてたのか?」


 しばらく沈黙が支配する。誠は息を殺して立ち尽くしていた。その隣では不安そうにちらちら誠の顔をのぞき見るアンの目が動いているのが見えた。


「……もしかして……」 


 背中にシャワーを浴びながら誠は立ち尽くしている。周りは見えないが明らかにかなめの気配は近づいている。しかしその様子がぴたりと止まった。誠が隣のシャワーを見るとアンの姿が消えていた。


「なんだよアン?」 


 かなめは元々、元少年兵と言う経歴のアンを信用していなかった。明らかに見下すような視線をかなめはアンに向けた。


「西園寺さん!非常識ですよ!」 


 どうやらアンがシャワーを出てかなめの前に立ちはだかっているようだと言うのが目をつぶっていても分かった。誠は全身全霊をかけてアンに言いたいことがあった。


『変なことは言うなよ』

 

 だがそんなアンにかなめがひるむわけも無かった。


「なんだ?上官に意見か?いい度胸だ。そして付け加えると前くらい隠せ」 


 それだけ言うと明らかにかなめの足音は遠くになって行く。続いて蹴って外れた外の扉を直している音が響いてくる。誠はとりあえずの危機を脱したと大きく深呼吸した。


 だが安心は出来ない。しばらく誠は沈黙していた。


「大して汗もかいてねえんだろ?ちゃっちゃと汗流してとっとと上がれよ」 


 扉を直しているかなめの叫び声が響いた。好奇心に負けて外をのぞいて見ると目の前で食って掛かるには相手が悪すぎるとうつむきながら自分の個室に戻るアンがいた。彼の視線が責めるように誠に突き刺さった。それにどう答えるか迷っているうちに扉を抱えているかなめと目が合った。


「でも……西園寺さん。非常識ですよ。男子用シャワー室に乱入なんて」 


 誠はここは先輩らしく部隊最年少の後輩であるアンをなんとかかばおうとした。


「は?いつも飲むたびに股間の汚えものを見せ付けて見せびらかしてる奴のいうことか?」 


 その言葉に誠は何もいえなかった。酒は弱くは無いが飲むと記憶が飛んでしまう誠の無茶な飲み方はどうにも治る気配が無かった。そして気が付くと全裸と言うことが何度も繰り返されていた。何も言い返せなくなった誠はレールに扉を乗せようと動かしているかなめを一瞥するとそのまま蛇口を最大にひねって無駄にお湯を出すと髪を激しい水流で洗い流した。


「僕は確かに理性が跳ぶと脱ぎますけど、今は理性が有りますんで」 


 誠はシャワーの水を止めると背後で誠のことを見つめているかなめに向けてそう言った。


「そうか、アンのケツでも掘ってるのかと心配したがその必要はねえようだな。かえでの奴が日に日に生意気になっていく中でオメエまで勝手なことをされるとアタシとしても我慢ならねえんだ。機動部隊はランの姐御がトップでその次に偉いのはアタシなんだ。カウラはそう言うことは興味ねえし、かえではアタシの性奴隷だからな!」 


 かなめが苦々し気にそう言うのを聞きながら誠は身体をタオルで拭った。だんだん体中の石鹸の成分が抜けていくような感覚がなぜかいらだった気分を切り替えてくれていた。


「おい、終わったからな外で待ってるから」 


 そう言うと扉を取り付けなおしたかなめはドアを閉めた。しばらく隣でシャワーを浴びているアンの立てる水の音だけが部屋に響いた。


「よしっと」 


 誠はタオルで身体を拭き終わるとそのまま廊下に出てあることに気づいた。


「あ……勤務服は更衣室だった」 


 その一言に待っていたかのようにアンがシャワーの上から顔を出した。だがドアの外にはさらに耳に自信のあるサイボーグのかなめがいた。


「おい、取ってきてやるからそこにいろよ。ロッカーのバックの中か?」


 かなめは気を利かせるようにそう言った。 


「ええ、勤務服は吊るしてありますから」 


 かなめの気配がドアから消えた。



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