第43話 こういう時は熱いシャワーでも浴びて
先着の人物がいるらしくシャワーの音が響いていた。誠はそのまま静かに服を脱ぐと手前のシャワーの蛇口をひねった。
「神前曹長!」
隣から目だけを出している褐色の顔の持ち主に誠はびくりと飛び上がった。
第二小隊三番機担当のパイロット、アン・ナン・パク軍曹だった。このまだ18歳の小柄な人物が誠の苦手な人物の一人だった。いつもは女子の制服を着ているが、『男の娘』なので男性隊員が少ない時間帯を見計らって男性用のシャワーを使うのが彼の日常だった。
「なんだ……アンか……」
他の男性隊員が居ないことはアンがここに居ることで確認できた。
「僕だと不満ですか?やっぱり僕の身体が男だからですよね……女性に付いているものが無いのは神前曹長には不満ですよね……」
そう言いながら近づいてくるアンに誠は思わず後ずさりする。その少女のような瞳で見られると誠は動けなくなる癖があった。
「神前曹長はいつも僕を避けていますね」
アンはそう言うと悲しそうにシャワーを浴び始める。確かにそれが事実であるだけに誠は頭から降り注ぐお湯の中に顔を突っ込んでそのままシャンプーを頭に思い切りふりかけた。
「そうですよね。僕なんか嫌いですよね。僕みたいに……彼氏持ちのお尻には興味無いですよね」
そこまでで言葉を切るアンに誠は寒いものを感じた。
『おい……もしかして男が好き……なんですよね……なんと言っても彼氏がいるくらいですから。でも、僕はノンケなんでまじで勘弁してください!神様!仏様!』
アメリアの小説を読まされ続けて蕩けてきた脳が妄想を開始する。大体が立場は逆で長身の上官がひ弱な部下を襲う展開が多かったが、一部には逆転している作品もあったのでボーイズラブの世界に落ち込むのではないかと恐れつつ時が経つのを待っていた。
「僕は……」
アンがそういうのとシャワー室の扉が吹き飛ぶのが同時の出来事だった。