第41話 こういう時会いたくない人
そこで誠は大きなため息をついた。目の前には紺色の長い髪の少佐の勤務服を着た女性士官。一番この手の本を手にしている時に出会いたくない上官のアメリア・クラウゼだった。
「誠ちゃん元気が無いじゃない」
アメリアは悪い人では無いのだが、とりあえず面倒くさい人物であることだけは間違いなかった。『面白ければ全てよし』の人生訓で生きている彼女に他人の時間を大切にすると言う概念は無かった。
「別にそんな……休みが終わってちょっとぼけてるだけですよ」
とりあえず一刻も早くランの仕事を片付けたい誠は絡んでくるアメリアをなんとか追い払いたかった。
「だって冬なのにそんなに汗をかいて……」
相変わらず何を考えているのか分からない笑みを浮かべてアメリアは歩み寄ってきた。誠は嫌な予感がして一歩後ずさった。
「分かった!かえでちゃんとエッチなことをしてたんでしょ?」
アメリアの言葉は誠の想像の斜め上を行く言葉だった。
「は?何を言ってるんですか!僕はいつものランニングメニューをこなしていただけです!」
赤くなって反論する誠の言葉をアメリアはまるで聞いていなかった。
「良かったわね、童貞喪失出来て……まあそうするとかえでちゃんと結んだ『協定』により次は私の番と言うことになるんだけどね」
アメリアが誠がランニングをしていたことを知らないわけがない。第一、ジャージを着てランニングシューズを履いていることを見れば誰にでも想像がつく話だった。