第40話 トレーニングの名を借りたパワハラ
「平日だねえ。アメリアのおかげで長い連休になったがこうなると身体が鈍って仕方がねえ」
かなめはそう言うと自転車を漕いだ。隣を走るのはカウラと誠。二人とも毎日夕方の8キロマラソンのラストと言うことで疲れを見せながら冬の空の下で走り続けていた。
「いつまでも……正月……と言うわけじゃないだろ?しかし、西園寺が言う通り体が鈍っているのは事実だ。神前の家での朝稽古だけでは体力を維持するのがやっとだった」
カウラはそう言うと目の前に見え始めたゲート目指してスパートをかけた。誠にはそれについていく体力は無かった。そのままカウラはゲートの向こうに消えていった。
「オメエも根性見せろよ。男だろ?」
かなめはそう言って自転車を悠々と漕いだ。彼女は脳の一部以外はすべて人工的に作られた素材を組み合わせたサイボーグである。そもそも体力強化のランニングに付き合う必要は無いのだが、最近は気分がいいようでこうしてその度に自転車をきしませながらついてきた。
「ベルガー大尉……みたいには……いきませんよ」
誠はいつもはランニングでは先頭を走るほどの体力の持主だが、気が向いた時のカウラ達『ラスト・バタリオン』の体力に付いていくことは出来なかった。
「そうか?じゃあアタシは先に行くから!待ってるからな!早くしろよ!」
かなめはそれだけ言うと一気に力を込めてペダルをこぎ始めた。すぐにその姿はゲートへと消えた。
「がんばれ!あとちょっとだ!」
ゲートの手前でコートを着た士官が叫んでいるのが見えた。第二小隊小隊長日野かえで少佐だった。彼女の登場に誠は苦笑いを浮かべながら足を速めた。
「おーい。何ちんたらしてるんだ!もっと本気出せ!それ以前に報告書終わってねーぞ!今日中に提出だからな!」
そう叫んでいる8歳女児にしか見えない制服姿の上級女性士官はゲートを通り抜けた誠の目の前でサラに駆り出されて大根を一輪車に載せて運んでいるクバルカ・ラン中佐だった。彼女はそのかわいらしい姿から隊員から『小さい姐御』と呼ばれるのが一般的だった。
「わかって……ますよ」
なんとかゲートまでたどり着いた誠は息を切らせながらそう反論した。ランに指摘されるまでも無く誠の脳裏にはその仕事が残っていることは分かっていたので誠はふくれっ面でそう言い返した。
「分かってるならシャワー浴びて来い!そして報告書を仕上げろ!大至急だ!オメーに休んでいる時間なんてねーんだ!今は仕事中だ!急げ!」
ふらふらの誠に向けてそう言うとランはそのまま一輪車を押してハンガーに向かった。誠も仕方なくそのまま正門へ向けて歩き始めた。
「じゃあ西園寺さん、シャワー浴びてくるんで」
誠は疲れ果てた体に鞭打って余裕の表情を浮かべるかなめに向ってそう言った。
「そうしろそうしろ!ちっちゃい姐御は怒らすと怖いかんな」
かなめはそう言うと誠に向こうへ行けと言うように手を振った。