第39話 力なきものの言い訳
「でも……存在が発表される前にも能力はあったんですよね?その時は同じ人間に平気で部屋を貸していたじゃないですか。なんで今は駄目なんですか?」
そんな水島の言い訳に対する店主の反応は冷ややかだった。そんなことは知っているよと言いたげに口を曲げるとそのままようやくデータが映し出された端末に目を移した。
「それはそうだけどさあ……あの『近藤事件』だっけ?あのでっかい刀で戦艦をぶった切る映像を見ちゃうとどこの大家さんも遠慮がちになっちゃうんだよ。あんな事自分の持ち家でやられて気分のいい大家さんなんて居ないことくらい分かるでしょ?あ、これなんてどう?」
親父はそう言うと水島の前の画面に1Kの物件のデータを表示した。
「8畳一間で……キッチンとユニットバス……それで近くのバス停まで徒歩二十分……それで8万は高くないですか?」
水島の抗議にしばらく自分の提示した案件に目を通す店主。
「確かにねえ……でも最近はオーナーの意向で法術適正のある人間は止めてくれっていう話が多くてね……いや、私はそんなことは気にすることじゃ無いって言っているんだけどね……多少条件が悪くなるのも目をつぶらなきゃ。それにここが高いのは新築だから。それとシャワーとかの施設もしっかりしている。お勧めの物件ですよ」
店主のあからさまに気持ちの入っていない言葉がさらに水島を苦しめた。また水島は不愉快と付き合うことになる時間を過ごす自分を見つけることになった。恐らくは法術適正のある人間には多少の無理を言っても聞くだろうと言う計算がアパート経営者の間でも広まっているのだろうと改めて感じた。
海のものとも山のものとも知らない力。そんなものを抱えている人間に部屋を貸すのはギャンブルに等しい。自分にもし力が無ければそう考えたかもしれない。そう思いながら水島はとりあえず考えさせてくれと言うタイミングを計っていた。
「この案件も……法術適正を問わないとなると……すぐ決まっちゃうかもしれないな。明法大の推薦入試の結果は一昨日出たところだからねえ。昨日も親御さん連れて法術適正の書類持った今度明法大に入るって言う高校生が来てね。彼も結構苦労してたよ」
そう言うと店主は顔を上げてニヤリと笑う。
明らかに今決めろ、貴様にはそれしか道は無い。そう言っているように水島には見えた。
「ちょっと……その物件の詳しいことを教えてもらえませんかね」
水島はその彼の言葉に店主の顔は一気に晴れやかな表情になってデータ検索を始める店主の後姿を見つめていた。そしてただ分けも無く自分を取り巻いている周りの環境に対する恨みをまた一つ腹に抱え込んだ。