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第36話 まずは恋人同士から

「下らねーことしゃべってんじゃねー!オメー等!仕事中だ!席に就け!それとアメリア!オメーの居場所はここじゃねー!オメーには運航部部長としての責任感と言うものはねーのか!」


 いつもの機動部隊長の机の上で将棋盤とにらめっこして怒りの表情を浮かべながらこの様子を黙って聞いていたランがそう叫んだ。


「だってよう、姐御。こいつのイカレタ世界に神前が呑み込まれようとしてるんだぜ……黙って見てられるか?そんなの上司としての当然の責務じゃねえか」


 かなめは珍しく上官としては正しいことを言った。


「そうよ!もし誠ちゃんがかえでちゃんと結ばれたらかえでちゃんとリンちゃんと残りのかえでちゃんの屋敷に居る使用人4人の相手を毎日のようにさせられて搾り取られ続ける生活を送ることになるのよ!そんなことになったら誠ちゃんはあっという間に腎虚で死んじゃうわよ!」


 アメリアまでもが誠擁護に立ち上がったことでランはそれまでの詰将棋を止めて立ち上がってかえでの席に近づいて行った。


「神前!オメーも来い!」


 かえでの席にたどり着いたランはそれまで何も聞こえないふりをしていた誠を呼びつけた。


「アタシも日野の神前への接し方はおかしいとは思ってる。まず言っとくとあの『鬼姫』が『許婚』と認めたことに関してアタシは正直不満だ。『鬼姫』の実力が『人類最強』であるアタシに匹敵するものでなかったら力任せでそんな話を無かったことにしてーくらいだ」


 ランはそう言ってかえでをにらみつけた。かえでは余裕のある態度でそんなランを見つめていた。


「日野。ここは貴族同士の(ただ)れた愛が日常的にある甲武国とはちげーんだ。ここは国民の70%が一生彼氏彼女無しで過ごす国東和だ。そんなところでオメーみてーなボディータッチは刺激が強すぎるんだ。分かるか?甲武と違って18になったら国民の9割は結婚するわけじゃねーし、遊郭も岡場所もこの東和では非合法なんだ。場所をわきまえろ」


 ランはあくまで冷静を装いつつそう言った。


「そうなんですか……ではなおの事、僕はこの愛の無い国、東和に産まれてしまった不幸な神前曹長に『愛の伝道師』として愛を教える責務がある。神前曹長……君にも愛が生まれる日が来るのを心待ちにしているよ。僕の心と身体をすべて捧げて君に愛のすばらしさを理解させてみせる。僕にはその自信がある」


 頓珍漢な理解をしているかえでにランの堪忍袋の緒が切れた。


「日野!オメーは仕事のことじゃ一を聞いて十を知る理解力なのに色恋となると人の言うことを何にも聞いてねーんだな!そんな色ボケのオメーは神前にちょっかいを出すのは禁止!『愛の伝道師』?そんなもんは必要ねえ!愛など不要!世の中義理と人情さえあればいーんだ!義理と人情のはざまで悩むのが人生!愛はそのついでに産まれるもんだ!愛なんて言うモノは人生の添え物でたまたま偶然生まれる稀なもんなんだ!特にこの東和ではそうなんだ!そのことをちゃんと理解しろ!」


 ランのこれまた過激な思想にさすがの誠も驚きを隠せなかった。


「そんな……僕達は『許婚』なんですよ!それに僕の愛は力では抑えきれない絶対的な物なんです!それに愛と言うものは人情の一部ですよ!人情を大事にするクバルカ中佐ならそれくらいの事は理解していただけると思うのですが!人情とはすなわち愛!人は愛なしには生きていけない生き物なのです!」


 立ち上がって悲壮感を込めた顔でランを見つめるかえでにかなめとアメリア、そしてカウラは冷ややかな視線を送った。


「ああ、アタシが今熱くなり過ぎたのは事実だから詫びる……しかし、オメーの態度は上司として看過できねえ。日野。オメーはまず神前の『恋人』になることから始めろ。オメーの今の態度は嫌がる部下に嫌がらせをしているセクハラストーカー上司以外の何者でもねー!そんな態度を取っている人間に人情という言葉を穢されたくねーんだ!それと勤務中に股間に変なもんつけるのも禁止!オメーがリンと例の女子トイレで何してるかを不問に付す代わりに当然のことだ!オメーは出撃中にもそんなもん付けて出撃するつもりか!戦闘中でも変なこと考えながら戦うのか?やんねーだろ?だったら変なもん股間に付けて出勤するのは今日が最後だ!」


 ランは妥協点を探るかのようにそう言った。


「恋人ですか……僕達は将来を約束された関係なんですが……」


 引き下がるまいとランの鋭い眼光に何とか耐えるかえでにランは続けた。


「アタシが見る限り、日野のライバルはこの部隊には他に数名いる。そのライバル達をなんとかして、誰から見てもオメーと神前が引き離すことは出来ねー存在だとアタシに分からせるようになったら今のようなボディータッチでも肉体関係でも認めてやる。それまではそんな淫らな関係は禁止だ。手をつなぐ。デートに行く。キスをする。ここまでがアタシの妥協点だ。アタシは見た目が8歳児!8歳のお子様が見ても仲良しさんだと理解できるくらいまでの接触以外は一切禁止する!」


 ランはかえでのかたくなな態度に折れてそう言った。



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