第32話 射撃訓練を終えて
すでに訓練用に持ち込んだ弾はもう残りわずかだった。
だが誠の理性の限界を試すかのようなかえでによる銃の構え方の指導は続いていた。銃口を下に向けターゲットに正対して立つ。そして合図とともに銃口を上げてすばやくターゲットに照準を合わせる。その繰り返しがもう100回以上繰り返され、その度に股間や尻をかえでから撫でられるとなれば体力と理性には多少の自信のある誠でもさすがに腕に痺れが来ていたし、股間は張り詰めていた。かなめの口元は怒りに引きつっていた。それを見ながらニコニコ笑うアメリア。カウラは厳しい表情を崩さなかった。誠はさすがにギブアップすべきかと考えながら銃を再び胸の前に構えた時だった。
「どうだい、進んでるか?」
突然背中から声をかけられて誠はびくりと振り返った。
そこには部隊長嵯峨惟基特務大佐がいつものようにタバコをくゆらせていた。
「こー言うところじゃ火気厳禁じゃねーんですか?」
「厳しいねえ、さすが鬼教官殿だ」
ランの注意に仕方がないというように嵯峨は咥えていたタバコを落として踏みしめた。
「こう言う事もうちのお仕事だからさ。神前にも一応体験しておいてもらわないとね。それとかえでよ、俺はお前さんの義理とはいえ父親なんだ。そんなにあからさまにセクハラをされると俺としても困るんだわ、やっぱり。俺もどちらかと言うとスケベな方だからランみたいに婚前交渉は絶対認めないと言うわけでも無いんだが、ここは職場だ。俺にはその職場の環境を守る責任が有るんだ。そこんところ分かってくれると嬉しいな」
嵯峨はタバコをもみ消すと苦笑いを浮かべながらそう言った。
「義父様これはセクハラではありません『許婚』としての愛の奉仕です」
かえでははっきりとそう言い放つと嵯峨をにらみつけた。
「かえで、テメエは何かって言うとその『許婚』ってことを持ち出すんだな。神前も嫌がってんぞ。まあアタシとしてはかえでのセクハラの対象が神前に移ってホッとしてるんだがな」
皮肉を込めた調子で叔父である嵯峨に向けてかなめはそう言い放った。
「本当にそう思ってるの?かなめちゃん。さっきから歯を食いしばって誠ちゃんの方をにらみつけながら射撃の最中も気もそぞろだったように見えたんだけど……誠ちゃんを取られたことがそんなに悔しいの?まあ、私も悔しいし、まだ勝負はついてないわよね。かえでちゃんは性欲では誠ちゃんを手に入れたかもしれないけど心までは手に入れていない。その点に私達の付け入るスキは有るかも」
アメリアは引きつった笑みを浮かべているかなめの表情の変化を見逃さなかった。
「ここは銃の訓練場だ。色恋の話をする場所じゃねー!……じゃあとりあえず装填」
ランの言葉に誠はテーブルの上の箱から一発ずつショットシェルを取り出すと銃の下のローディングゲートから装填を始めた。
「もっと入れる時は丁寧にするんだと言ってるだろ?僕に入れる時は少し乱暴なくらいだと嬉しいのは確かだけど」
装弾する誠の耳元で相変わらずそう言いながらかえでは誠のいきり立った股間をさすってくる。
「何度も言うがどの銃でも基本は同じなんだ。狙って標的に当てる。簡単だろ?それと日野少佐。銃の指導以外で不用意に神前に触るのは止めていただきたい。見ていて不愉快な気分になる」
カウラの教えも射撃にコンプレックスを持っている誠には逆に堪える言葉だった。
「ベルガー大尉も嫉妬かい?さすが僕の『許婚』である以上女性は惹かれて当然か……だって僕がこんなにも神前曹長に惹かれているのだから……神前曹長。じゃあ射撃準備だ」
誠はようやく誠に纏わりつくのをやめたかえでから解放されると静かに冷静にと自分にそう言い聞かせながらフォアグリップを引いて弾を薬室に叩き込んだ。
「ボスン」
引き金を絞ると何とか25メートル先の標的が銃撃を受けて揺れた。
「なんだよ当たるじゃねえか。かえでのやってたことはセクハラだけかと思ったらちゃんと指導もしてたんだな」
嵯峨はかえでの得意げな表情を見ながらそう言って笑った。
「叔父貴。そりゃあ止まっている的だからな。これで外したら間抜けとしか言えねえぞ」
興味深げに標的を見る嵯峨にかなめはそうつぶやいた。
「でもさっきは外したな」
再びのカウラの言葉にがっくりと誠は肩を落とした。誠は脳内はかえでの送ってくる無修正動画に移る快感に身もだえる全裸で屋敷に住む使用人達に穴と言う穴を責め立てられるかえでの姿で一杯になりながらこんな苦行のような訓練を続けることに苦痛を感じていた。
「叔父貴。何しに来たんだ?」
元々かなめの生家である甲武大公西園寺家の三男から大公嵯峨家へと養子に出された嵯峨惟基。戸籍上はかなめの叔父に当たるのは誰もが知るところだった。