第3話 いつも通りの喧嘩
「痛いじゃないの!まったくこの酔っぱらいはどこまで人に迷惑を掛ければ気が済むのよ!いい加減にこの騒動の原因を話なさいよ!」
叫ぶアメリアに少しばかり酔っているのか印象的なタレ目でかなめは長身のアメリアを見上げた。
「痛くしてるんだよ!痛いだろ?かえでみたいに喜んで見せろ!アタシも最近は痛いので気持ちよくなれるようになったんだ。自分の可能性が広がってそれだけ豊かな人生が送れるようになるぞ!ほれ!ほれ!もっと痛くして気持ちよくしてやる!」
そう怒鳴るかなめをカウラが押しとどめた。かなめの手が離れてアメリアは何とか呼吸を整えた。そして誠はいつの間にか待合室の透明のビニールのシートの向こう人垣ができているのに気がついたが何が出来ると言うわけもなかった。
「それより西園寺。突然酒を噴出す原因くらい教えてくれてもいいだろ?貴様の電子の頭脳はネットと直結している。何か面白いニュースでもあったのか?一人だけ独占しているなんて不公平だ。私達にも知る権利がある」
カウラは肝心の話をしようとしないかなめに耐えかねてそう言った。一応、かなめと誠を部下としている人型機動兵器、シュツルム・パンツァー部隊の隊長を務めているだけあって落ち着いて原因を突き止めることに決めたような鋭い調子で言葉が放たれた。
「そりゃあ……まあ……ちょっと待てよ。こんなこともあろうかと良いもんを持ってきてたんだ。二十世紀末で行くことに決めている東和じゃご禁制の品だが仕方がねえや」
かなめはそう言うと手にしていた巾着を開いた。中からここ東和共和国では国内販売が禁止されている携帯端末の画像投影用のデバイスを取り出し、それから伸びるコードを首筋のジャックに差し込んだ。
「便利ね。さすがテレビ付き人間。これでいつでもテレビが見られるのね。今度、出動中に深夜アニメの放送時間になったら呼ぶからそん時はよろしくね!」
サイボーグの体を気にしているかなめに言ってはいけない暴言を言うアメリアだが、とりあえずカウラと誠、そして周りの野次馬達の目も有るので、かなめはにらみ付けるだけで作業を続けた。