第202話 初めての怒り
「それにしても何なんですか!」
月島屋でビールを飲み干した誠は隊に配属になって初めてかなめを怒鳴りつけた。
「そうカリカリしなさんな……はらわた煮えてるのはアタシも一緒だ」
かなめはそう言いながらキープしてあるラム『レモンハート』をショットグラスに注いだ。
「これが組織って……国家ってものよ。法術師の存在自体誠ちゃんが『近藤事件』で使用するまで伏せられていたくらいですもの。水島の身柄と引き換えに東和政府か同盟政治機構が何か取引でもしたんじゃないの?」
怒る誠に対してアメリアは冷静にそう言って一口ビールを飲んだ。
「今回一番貧乏くじを引いたのは我々じゃない……ラーナだ。彼女が居なければ水島の存在には我々は気づかなかった。それがすべてなかったことになったんだ。今回の事件の解決の暁には茜は巡査長への昇進を上申していたらしい。それもすべて駄目になった。一番の被害者だな」
カウラはそう言うと店の看板娘の家村小夏から焼鳥盛り合わせを受取った。
「そうだぜ……ラーナは法術がいつ公表になるか分からない段階から訓練を受けてきてせっかく回ってきた晴れの舞台だって言うのに事件自体が無かったことになったんだ……察してやれよ」
そう言ってかなめはネギまを口に運んだ。
「ですけど……」
誠は怒りの持って行き場も無いというように静かにジョッキを置いた。
「それにしてもみんな大好きイーグルサムは何が狙いなのかしら……『武悪』を監視してたり特殊な法術師を司法取引で引き受けたり……」
砂肝を食べながらアメリアは首をひねった。
「知るかよ……いや、誰も知らねえのかもしれねえな……国家なんてもんは一人の指揮命令系統で動いているもんじゃねえ……誰かの思惑なんて関係なく物事が進むことはよくある話だ。工作員時代にうんざりするほど味わったよそんなこと」
かなめはラムを飲むばかりで焼鳥に手を伸ばさなかった。それはかなめが今回の件が心底頭にくる事件だったことを意味していた。
「それじゃあ今回の件は大統領とかも……」
仕方なくボンジリに手を伸ばしながら誠はそう言った。
「知らないだろうな……自由と民主主義の脅威となる芽を一つ詰みましたって補佐官が報告してそれで終了。あとは研究機関が水島の研究に突き進む……それで終わりだ」
カウラはそう言ってため息をついた。
「これからもこんな事件ばかりなんでしょうか?」
ため息交じりに誠はそう言って小夏が運んで来た追加のビールを受取った。
「今回の件は特別だろ……叔父貴が言った通り他人の能力を乗っ取るなんて言う法術師は不死人よりレアだ……アメリカさんももう一通りサンプルは取り終えたころだろうよ」
かなめはそう言ってラムを口に運んだ。




