第18話 増え続ける法術師
「まあそれじゃーいくらでも法術師は増えるわけだな。あの『駄目人間』が喜びそうな方法で増えるってのがアタシには気に食わねーが」
ランのまとめで次の話題に移る所だが、すぐにひよこは首を振った。
「違いますね。そここそが一番今回現れた犯人の能力である『他能力制御』の肝ですから」
そう言うとひよこはモニターの画面を切り替えた。そこには各能力とその能力がどのように発動するかの図が載せられていた。
「多くの法術は視床下部のこの部分の異常活性化を原因としていると言う説が現在定説ですが、この……」
説明を詳しく始めようとしたところをランが咳払いでそれを遮った。
「御託はいーんだよ。さっきの話の決着つけてくれ」
小さいランの一言に研究者としてのプライドを傷つけられたと言うように大きく深呼吸をするひよこの姿は実に面白くて誠は噴出しそうになるのを必死にこらえた。それはすぐにひよこに見つかり、冷ややかな視線が誠に集中した。
「手っ取り早く言うと法術師の法術発動の際の特殊な脳波は周りの人々の脳波にも影響を与えるんです」
誤解を恐れず端的にひよこはそう簡潔に言い切った。
「で?」
そうつぶやいたかなめはひよこの説明を理解しているとはとても思えないように誠には見えた。
「逆に法術を常に待機状態にしている法術師に同じように脳波での刺激を与えれば法術は本人の意図と関係なく発現します。いわゆる『法術暴走』と同じような状況になるんです。ですが、暴走とは違い、その法術は他能力制御者の管理下に置かれ、その意のままに使用されることになります」
ひよこは法術が法術師を食いつくす現象である『法術暴走』と言う言葉を使ってこの場の一同を不安に陥れた。
「その脳波を発した人物。演操術師の意のままに発現するってーわけか……こりゃー面倒な話だな」
ランの顔が引きつる。
「つまりあれか?ほとんどの能力の乗っ取りが可能なわけなんだな?」
かなめは珍しく真剣な表情を浮かべていた。その問いにひよこは大きくうなずいた。
「再生能力なんかの接触変性系の法術以外は発動可能です」
ひよこはランを一瞥した後、はっきりとそう言った。
「接触変性?」
カウラはそう言うと周りを見回す。
「アタシや島田の再生能力やひよこの治癒能力のことだよ!再生や治療系の能力は直接触ってねーと駄目なの!それと身体強化もそう!アタシの力は他の人には与えらんねー!そんなことが出来るんなら最初からやってる!」
ランはその8歳女児にしか見えない体に似合わぬ大きな声でカウラを怒鳴りつけた。
「ああ、なるほど」
カウラのどこか戸惑ったような言葉が部屋に響いた。
「どうでも良いけどよう。要するに能力を持ってる奴の能力を勝手に使うことができる能力の持ち主がいる……って結構やばいことなんじゃねえの?」
察しが悪かったかなめもひよこの言葉の意味が理解できてきてその視線を誠に向けた。誠はかなめのタレ目に見つめられて反射的に照れ笑いを浮かべた。
「そりゃーそうだろ。だが法術を意識して探査してそれを利用しようとする。法術を知らなきゃ使いこなせない能力だ。元々法術自体が表ざたにされていない状況ではそんな能力を持っている奴も一生法術とは無縁で暮らせたのがこれまでの世の中だ。半年前の神前の能力を見たおかげでそんな面倒な能力に目覚めちゃったってーわけなんだからな……。意外と本人も迷惑に思ってるんじゃねーか?」
ランのまとめにひよこがうなずいた。そしてどうしようも無い重い空気が会議室中に流れた。その空気の意味は誠にも十分分かった。最初に法術を公衆の面前で堂々と使って見せた最初の人間が自分である。それは誠自身が常に自覚し、時に自分を責めている事実だったから。ランもそれに気づいて咳払いをするとなんとか部屋の雰囲気を良くしようと部下達の顔を眺めてみた。