第14話 役所にありがちな間違い
「先月の末だ。厚生局からの通知があったんだが……法術適正の検査基準に間違いがあったそうだ」
ポツリとつぶやくように小さな上官から出された言葉に誠達は唖然とした。
「間違い?そりゃあ大問題だぞ!下手したら……」
違法実験で解体された厚生局を引き継いだ新厚生局は発足したばかりで混乱していた。手違いの一つや二つあったところで不思議では無かった。
「西園寺。落ち着け、それで?」
大声を上げたかなめを制してカウラがランの幼いつくりの顔を見つめた。
「確かによー空間干渉や炎熱系なんかの派手な法術の適正は脳波のアストラルパターン分析でその能力を特定できるんだが……」
ランはそこまで言って言葉を止めた。
「演操系の波動は特定できないと言うことかしら?」
アメリアの問いに静かにランは首を縦に振った。
「マジかよ……じゃあ手がかりなんて何も無いじゃないか!そもそもその検査だって東和じゃ任意だ。それを通っても黒か白か分からないなんて言ったら」
あきれ果てた厚生局の失態にかなめは暗い表情を浮かべた。
「このまま発表すれば同盟議会の議長の首が飛ぶだろうな」
叫ぶかなめをなだめながらカウラはそうつぶやいていた。
「ザル検査じゃない!やっぱり人員刷新で西モスレムが仕切り始めた厚生局はあてにならないのよ。もしかしてわざと演操系だけ引っかからないような装置を作るように西モスレムが頼んだんじゃないの?遼北の軛から解き放たれたと思ったら今度は西モスレムが騒動を起こすの?勘弁してよ本当に」
アメリアまでもムキになって新生厚生局の非難を始めた。
「クラウゼよー。そこまで厚生局を悪者にすることねーんじゃないのか?誰にだって間違いはあるもんだ。役所だって人間が運営してるんだ。間違いの一つや二つあっても仕方ねーだろ?」
落ち着いた様子でどっかりとランが腰を下ろした。つられるようにアメリアも誠を囲んで座り込んだ。
「いわゆる演操系の能力には二種類のパターンが存在するんだ。そしてその研究が始まったのはつい最近なんだ」
仕事熱心なカウラは法術に関する知識はこの中ではランに次いで多かったので自然とそんな言葉が口から出ていた。
「へえ、アメリカさんとかは遼州入植以来の研究でずいぶんたくさんサンプルを収集してたはずなんだけどな」
かなめは非正規部隊時代に米軍とは何度も銃火を交わした事が有るのでアメリカの印象は良いものでは無かった。
「かなめよー、それはあくまで推測だろ?それにあそこは世論が基本的に保守的だからな。表向きはヒトゲノムの解析は一切やっていないことになってたはずが……とかいろいろ事例はあるからな。どこまであの国が法術について知っているかは大統領になって引継ぎでも受けなきゃわからねーだろうな」
話の腰を折られて口を尖らせながらランは話を続けた。
「演操系って言うとよー。どうしても操る相手の意識そのものに介入して動きを制御すると思うだろ?確かにそう言う能力の持ち主の割合は高けーんだけど……」
ランの言葉にアメリカと言う国を信用していないかなめは今一つ納得がいかない表情を浮かべていた。
「なんだよそれは?操るんだから意識も乗っ取るんだろ?それともあれか?意識はそのままで体だけ動かすとか」
ふざけた調子でそう言うかなめの目には悪意が籠っていた。
「かなめちゃん!その能力欲しい!そして……」
突然叫んだアメリアに誠達は冷たい視線を投げた。仕方が無いと言うように口を押さえてアメリアがそのままうつむいた。