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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第二章 些細に過ぎる事件の始まり

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第13話 面倒ごとの後の帰宅

「ふう……」 


 警察署から見慣れた司法局実働部隊の寮までの間、かなめはひたすら所轄の悪口を言い続けた。それに相槌を打ちながらアメリアはさらに火に油を注いだ。そしてかなめが激高して車を壊されるのを恐れながらカウラはハンドルを握った。三人の繰り広げるどたばたから開放されて自分の部屋に帰ってくると誠は荷物を放り出して横になってそのまま眠っていた。


 夢は最後はどたばたになってしまったけれどクリスマスから正月にかけての実家でのかなめ達との馬鹿騒ぎが次々と走馬灯のように現れた。こうして早朝の光の中でいろいろと馬鹿なことをしたことばかり思い出しながらうだうだしていると自然と笑みが浮かんできた。そしてそのまま誠は寝返りを打った。そんな彼もドアの外で何かの気配を感じることくらいはできた。


「おい、いいか?」 


 声の主はカウラだった。


「どうぞ、開いてますよ」 


 誠が起き上がるのを見ながらカウラが入ってきた。その細い体と特徴的なエメラルドグリーンのポニーテールが誠のアニメ関係のグッズが並んだ部屋に違和感を与えた。誠はその違和感に耐えながら作り笑いで神妙な顔つきの上官を迎えた。


「ああ、とりあえずお茶でも飲もうと思ってな……」 


 カウラは手にしたお盆から急須と湯飲みを並べた。元々そういう気の回りに縁がないカウラの行動が誠には不自然に思えた。何か言い出したいことがあるならこちらから気を利かせないと言い出せないところがある。そんな彼女の癖が分かってきた誠はそれとなく口を開いた。


「演操術師を見つけられなかった件ですか?」 


 誠がそう言うとカウラは視線を手元の茶筒に落としてしまう。


 演操術。他人の意識を則り操るこの地球の植民惑星『遼州』の先住民『リャオ』に見られる特殊能力である。誠も先日地元のデパートでの通り魔事件でその力の恐怖を味わったばかりだった。そして誠自身も『リャオ』のほぼ純血種だということも分かっていた。それを察してかカウラの頬がこわばった。


 気分を変えるように誠のフィギュアのコレクションを見ながらカウラが話し始めた。


「とりあえずあの時間に参道にいた人物の内、足取りがつかめたのが約三百人だ。据え付けられた防犯カメラとか、目撃者情報を求めてはいるが……これ以上は分からないだろうな。確認できた中にいた法術適正者には演操術の使い手はいないらしい……しかも万が一に備えて境内に配置されていた法術発動を探知する簡易アストラルゲージの方だが……」 


 結局何も分からなかったことだけが分かったことを報告するカウラの表情は硬かった。


「反応が微弱で測定不能。増幅しても不明と言うところですか。法術の専門家のひよこさんもお手上げですか」 


 カウラに湯飲みを渡された誠は静かに茶をすすった。司法局実働部隊は誠の配属以来法術系犯罪を追うことが主任務になりつつあった。『りゃオ』の血を濃く引く誠と部隊長の嵯峨惟基がいる以上、どうしても司法機関の手に負えない法術関連事件は司法局に押し付けるのが当たり前のように思われていた。


「でもそうするとあの容疑者扱いで捕まった娘は……」 


 誠が気にしていたのは明らかに放火の犯人ではない少女の事だった。


「一応彼女の能力を誰かが利用していることがはっきりしない限り釈放はできないだろうな。しばらくは拘留だろう」 


 カウラの言葉に誠は肩をおろした。


「でも……」


 同じ法術師としていつあの少女と同じような目に遭うかもしれないという思いが誠の心に去来した。 


「演操術師と言えば先日の通り魔の時にも出てきた。今回も同じ人物が訓練気分で実行したのかもしれない……」 


 力の無いカウラの言葉を聴きながら瞬時に燃え広がる絵馬堂の光景が目に浮かんでくる。


「訓練気分でやることですか?あんなことを……」


 誠は法術を突然使えるようになり、そこからすぐにランに徹底的に制御の訓練を受けていた。それに法術特捜の主席捜査官である茜が加わり、第二小隊が設立されるとかなめの妹で第二小隊小隊長の日野かえで少佐が加わった。


 つまり誠は正規の訓練しか法術に関しては受けた経験が無かった。 


「やる奴はやるだろ?法術なんて言う物は本来は感覚で発動し、感覚でその使用法を覚えるものだ。貴様は例外なんだ」 


 突然のハスキーな女性の声に誠は握っていた湯飲みから視線を上げた。当然のように冬だと言うのにタンクトップと半ズボンと言う姿のかなめがそこに立っていた。


「寒くないのか?西園寺は」 


 呆れたようにカウラがつぶやいた。軍用の義体の持ち主で零下30度の中でも短時間なら耐寒装備無しで活動できる体の持ち主に向けてつぶやくには不用意な発言だった。カウラも少しばかり緊張気味にかなめの反応を見るが、かなめは気にしていないというようにそのまま誠の隣に腰を下ろした。


「鍛え方が違うんだよ」 


 そう言いながらかなめは無遠慮に周りを見渡した。そんな彼女の視線が開けっ放しの扉のところで止まった。


「鍛えたも何もテメーの体は特注品の軍用義体じゃねーか」 


 小さな女の子が扉の入り口に手をかけて突っ立っていた。その後ろにはにんまりと笑うアメリアの姿もあった。


「クバルカ中佐」 


 司法局実働部隊副長のクバルカ・ラン中佐の登場にカウラは座りなおして敬礼をした。小柄と言うよりどう見ても小学生低学年くらいに見えるランだが、その自信に満ちた態度は誠達を束ねている実働部隊副長の貫禄を感じさせていた。


「おー。別に気にすんなよ。ここじゃーアタシもただの隊員だ」


 そう言いながらランが扉から手を離して誠の隣へと進んだ。そんなランにぴったりとアメリアが付き従った。 


「そう、じゃあよい子ね」 


 急にそれまでのかしこまった態度を変えて長身のアメリアはランを見下ろした。


「頭なでるな!クラウゼ!」 


 アメリアはいきがるランの頭をなでた。まるでここが準軍事組織の寮だとは思えない光景が展開した。いつもの見慣れた光景だが、実家から帰って久しぶりに見るとおかしさが再びこみ上げてきて誠は必死になって笑いを堪えた。


「で、ちび中佐の言いたいことはなんすか?」 


 どっかりと胡坐をかいて居座る気が満々のかなめがランをにらんでいる。その様子があまりにも敵意むき出しなので誠ははらはらしながら二人を見つめていた。


「実は……内密な話なんだけどな」 


 ランはそう言うと後ろで立っているアメリアに目をやった。アメリアもその様子を悟って開いたままのドアを閉めた。



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