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第11話 警備任務の引き継ぎ

「結局こうなるのね……」 


 アメリアはそう言いながら不機嫌そうに紺色の長い髪をとかした。東都の下町の誠の実家で破れた晴れ着を誠の母、薫がもったいないと丁寧にたたんだ。父、誠一は無事でよかったと笑っていた。彼等と今回の火事の鎮火にいかに自分が必要だったかをアメリアは大げさに話した。


 そんなところに誠達と同じ司法局の直属捜査部署である法術特捜主席捜査官の嵯峨茜警部から今回の事件の目撃者として警察署に出頭するようにとの連絡があり、とりあえず時間をもらってシャワーと着替えだけを済ませてこうして東和東都南城警察署の取調室へとたどり着いていた。


「あんなに泣いてたら取調べにならないだろうが……」 


 かなめはそう言いながらマジックミラーの向こうを眺めていた。そこには振袖姿の少女が取り調べの警察官の前で知らないと連呼しながら泣きじゃくっていた。


「でも彼女以外パイロキネシス能力の適正のある人物はいなかったんだから……ああ、かなめちゃんが口から火を吹いたと言う線もあるわね。サイボーグなんだからそのくらい出来てもおかしくないかも」 


 一番ここに来るまでのカウラの『スカイラインGTR』の車内で愚痴を垂れていたアメリアが挑発するようにつぶやいた。思わずかなめがにらみつけるがアメリアは手にしたコーヒーの香りを楽しみながらまるで気にしていないという表情で歩き始めてしまった。取調室ではほとんど質問を諦めたという表情の捜査官を見ながらカウラも仕方なくコーヒーをすすった。


「拘束した者の他にもパイロキネシストいる可能性はあるな。それと適性検査自体もまだ技術的に確立されたものではないからな。資料に無くても思念発火が出来る人物がいた可能性もある。西園寺、法術適正のあった連中は一通り身元は確認したんだろ?」 


 カウラはコーヒーを飲むかなめにそれとなく声をかけた。


「そりゃあまあ……でも能力適正が低い人物は簡易検査じゃ引っかからないからねえ。あの程度の火事を起こすくらいの力なら他の適正で引っかかった奴の犯行の可能性も捨てきれねえな」 


 かなめはそう言うと珍しくおとなしく手持ちの携帯端末から伸びるコードを自分の首筋のジャックに挿して情報収集を開始した。


「感覚的には……この子じゃないと思うんですけど……」


 誠は直感的にそう口にしていた。かなめ、カウラ、アメリアの顔が一斉にぼんやりと思いをつぶやいただけの誠の顔を射抜く。 


「は?『あんなかわいい女の子が犯罪者のはずは無いです!』とか言い出すつもりか?ばーか」 


 かなめの馬鹿にしたような口調に誠は何も言えずに自分のために入れてもらったコーヒーを手に取った。


「そう言う意味じゃないですよ!だって法術適正反応が出るといろいろ面倒な話を聞かされるらしいじゃないですか。わざわざそんな能力があるのを自覚している人間があんなところで放火なんかすると思いますか?」


 誠はかなめの言葉に馬鹿にされたと感じて感情的にそう言い返した。


「そうね、まず最初に市役所での法術発動封印の誓約書を書かされて、そのあと警察署で法術に関する諸法の講習。それに能力ごとに消防署だとか陸運局だとかに提出する書類があって……いやでも自分がいつ放火魔に仕立て上げられても文句が言えなくなる……それが分かってて力を使うなんて普通は有り得ないわね」 


 誠の話をアメリアが引き継いだ。その言葉を聞きながら再び誠は取調室の中を見た。相変わらず少女は泣くばかりで事情聴取はまるで進んでいなかった。


「法術の発動については何も知らない……気がついたら火が目の前に広がっていた……となると」 


 カウラは顎に手を当てながら難しい表情でそうつぶやいた。


「能力の暴走の線が有力ですわね」 


 後ろから声をかけられてかなめは驚いて座っていた机から飛び降りた。そして彼女の後ろには見慣れた東都警察の制服を着た女性が腕組みをして立っていた。それこそ、最近は司法局本局への出頭が多く、司法局実働部隊のある豊川で顔を合わせることが少なくなった法術特捜主席捜査官嵯峨茜警部だった。


「今頃出てきやがって……人を呼び出して何してた?デートか?」


 冷やかすような調子で笑顔のかなめは茜に声をかけた。 


「いいえ、かなめさんとは違って昨日から徹夜ですの。法術に関する捜査マニュアル。すぐにでも必要になるのに……なかなか思うように行きませんわね」 


 上品そうにそう言うとそのまま取調室が見えるガラス越しまでやってきて中を覗き込んだ。


 かなめの従妹で誠達の所属する司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐の娘である同盟司法局法術特捜の主席捜査官嵯峨茜警部だった。いつもどおりに表情を変えずに中を一瞥した後ついてきた補佐官のカルビナ・ラーナ巡査が手にした捜査器具を取り出した。


「なんだそれ?」 


 かなめの質問にラーナは顔を上げるがまるで興味がないというように視線をおろして取り出した器具の制御をする為に端末にコードをつないだ。


 無視されて冷静でいられるほどかなめは人間ができていなかった。そのままつかつかとラーナに近づいて懐から取り出したコードを自分の首のジャックとラーナの端末に接続した。


「西園寺大尉!困るっす!」


 勝手なかなめの行動にラーナは困惑したように顔をこわばらせた。ラーナから見てもかなめは凶暴で手を出せば何をされるか分からない存在に見えていた。 


「うるせえ!平の巡査は黙ってろ!」 


 茜は一瞥して困った顔のラーナにうなずいて見せてかなめの情報収集を黙って許した。



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