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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第一章 祭りと何かを誤解している地球人
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第1話 祭りの雰囲気に飲まれて

 にぎやかな祭りの雰囲気に浸っているところにいきなり司法局実働部隊機動部隊第一小隊二番機担当西園寺かなめ大尉が升酒を噴出したので、同じく三番機担当の神前(しんぜん)(まこと)曹長は驚いたように自分の上司の顔を見つめた。


 かなめは何か面白い事でもあったらしく、爆笑を続けているが誠にはその理由が分からなかった。そして、かなめの代わりに酒の吹きかけられた相手に謝るべく、誠はその先を見た。


 酒が吹きかけられたのはどうにも堅気(かたぎ)とは思えない鋭い目つきの出店を仕切っている元締めという風格の男だった。やくざ相手に怯むことも無い元特殊工作員上がりのかなめと違い、誠は普通に育った普通の青年だったので、その相手の悪さに身の毛のよだつ思いがした。


 そんな迫力のあるオヤジがかなめをにらみつけた。赤の地に黄金色の牡丹と蝶をあしらった彼女らしいとても値段を聞けないような振袖姿のお嬢様風の相手である。とは言え、思い切り顔面に酒を吐き出されて顎からぴたぴたと酒のしずくを滴らせている状態で良い顔をする人間などいるはずが無い。二人の間に一触即発の雰囲気が流れたが、かなめはまるで気にする様子も無く、時々思い出し笑いをするような動作を繰り返していた。


「西園寺さん……早いところ謝っちゃいましょうよ。今回は西園寺さんが一方的に悪いんですから。本当にすいません。西園寺さんはこういう人なんで。あと、言っておきますけどこう見えてこの人戦闘用のサイボーグですから喧嘩とかはしない方が良いですよ。怪我しますから」


 誠はそう言ってようやく笑いにも慣れてきたかなめになんとか怒りに震えるオヤジに対して頭を下げさせようとした。


 一方のかなめは謝りもしないで、相変わらず脳内の面白い出来事に夢中のようで、ただ爆笑しながらオヤジを見るだけだった。オヤジはゆっくりと頭に手をやると自分の顔面に酒が吹きかけられた事実を再確認するように手についた酒の匂いを嗅ぐと、かなめではなく誠に視線を向けた。


 明らかに怒りの矛先はかなめでは無く自分に向いていることに誠は気づいた。


 逃げ出したい。


 そう思いながら平然としているかなめを前に誠はただ震えそうになる足を必死になって抑え込んだ。


「どうしたのよ……かなめちゃん。思い出し笑い?まったくサイボーグのすること話理解不能だわね」 


 紺色の花柄模様の振袖が似合いすぎる紺色の長い髪をなびかせる司法局実働部隊運用艦『ふさ』艦長であるアメリア・クラウゼ中佐の言葉に誠も我を取り戻した。軍用の義体のサイボーグであり、東都戦争と呼ばれるシンジケート同士の抗争劇の中心に身をおいていたかなめが迫力は十分とはいえただの高市の香具師(やし)にひるむはずも無かった。事実、誠に向けていた視線が突然にんまりとした笑いになってかなめに向けられた。


「西園寺の姐さん……突然吹かないでくださいよ。まあアタシ等堅気じゃねえ人間の間でもあの『汗血馬の騎手(のりて)』の身内に手を出す馬鹿なんて居ないですから安心して飲んでください。それよりそんなご機嫌とはよっぽど面白い事が有ったんでしょうね」 


 若い衆が差し出す手ぬぐいで酒をぬぐいながら、頭から酒を吹きかけられたオヤジはニコニコと笑って今度は自分の分の升に酒を注いだ。こうして誠の精神を鍛えるかのような宴会が始まったのは着る人によっては着物に着られてしまうようなあでやかな振袖を着込んだかなめのせいだった。


「『汗血場の騎手』ってクバルカ・ランって言う名前の人の事ですか?」


 誠は高市のオヤジがなぜ誠達司法局実働部隊機動部隊長にして実働部隊副隊長のクバルカ・ラン中佐の遼南内戦での二つ名を知っているのか不思議に思った。


「クバルカ先生の名前を知らねえ極道はもぐりの半グレですよ。それこそ先生は鉄火場となると手にした『関の孫六』でカチコミをかけた相手を全員半殺しにするくらいの事は平気でやる御仁だ。その度胸、教養、そして熱い任侠心。この東和で先生を尊敬していねえ極道なんて一人もいませんやね」


 オヤジはそう言うと旨そうに酒を飲んだ。


 誠は以前、ランがやくざの組事務所に居候していると言う話を聞いていたので、ランならそれくらいの大暴れの一つや二つやってもおかしくないと思うと同時に少しオヤジに親近感を持つようになっていた。


「クバルカ中佐ってそんなにその業界では凄い人なんですか?」


 誠は恐る恐る親父に向けて作り笑顔で語り掛けた。


「アンタはあのお方の部下だろ?そんな上司の凄いところを知らねえなんてまったく可哀そうだよ。あの御仁の胆力。見たこと無いねえ……あの小柄な可愛い女の子にしか見えない姿であの眼力でにらみつけられたら、たとえハジキを持ってる鉄砲玉でも震え上がってそれを落とすんだから。アレだろ?あの眼力でいつも怒られてるんだろ?だったらそのすごさくらい分かっても当然じゃねえのかい?」


 尋ねるどころか誠はオヤジに質問されてただ頭を掻くばかりだった。


 確かにあのにらみつけるような鋭い眼光は百戦錬磨で『人類最強』の自信を持っているランならではのものだが、初めての上司があのランだった誠にはそれが当たり前の話になっていた。


「そうですか……凄い人だったんですね……僕の上司は……」


 誠にはそう言うことしかできなかった。


「そう言うことなんだよ、アンちゃん。もう少しお前さんもシャキッとして、胆力を付けないとあの御仁の部下だなんて威張っていられねえよ!」


 謝るつもりが逆に励まされて誠はただ苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。



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