54日目その2
上で大きくなっていく音を聴きながら、その少し下にある作物について考える。
1番手っ取り早く確実なのは彼等がそうと気付かない、彼等が居ない間にドリアード体を出して実を茎から切り離し、地中から本体の根本まで運んで、光魔法で実を消し炭にするのが確実だろう。地中から運ぶことで地上には掘り返した形跡無く外敵を排除出来るし、ここで実が育たないとわかれば彼等もここで生活しようなんてしないだろう。数度開墾出来ないかと試される可能性は有るが、実が出来る度にその実を消してやればその内諦めることだろう。
前世の世間様は俺のこの計画を知れば共存の道は無いのかと言い出す奴が絶対現れるだろう。だがここはあの利己主義と資本主義の社会の地ではなく弱肉強食の地。山奥で世捨て人生活をしていても訪れるセールスマンや税金がどうのの場所ではなく、生きるか死ぬかの原始の地だ。新参に自分の栄養を明け渡す筈が無い。新参に自分の今後の栄養を分け与える筈が無い。
しかし何故だかそれは悪手なような気がする。この悪寒にも似た勘の根拠を前世で経験している気がする。いったいなんだったか。
彼等が言い合いをしている間、俺は俺で地中で必死に頭を捻らせた。確実に俺は、この直感の根拠を経験している。
彼等が言い合いを終え姿を消した後も、その日はずっと考え続けた。
考えに考え考え続け、太陽が地平線に沈み始めた頃、ようやくなんなのかを思い出した。
アレは中学3年の文化祭の終わり間際のこと、地味に中学3年間ずっと同じクラスだった女子に少し離れた所に呼び出された時のことだ。
呼び出された用件は、内容だけを言ってしまえば告白だった。実は1年末の頃から気になってて、付き合いたい、一緒の学校に行きたいから勉強を教えてほしい、とかそんな内容だった気がする。
当時既に人と関わるのがかなり億劫だった俺は、しかし年相応の性欲も有ったし、対人経験も彼女よりも断然少なかっただろうこと、彼女が割と好みの顔だったことも有りかなりキョドってその告白をOKしようかと考えた。
ただ、人と関わるのが億劫なことと、自分に自信が無かったことと、そんな自分が彼女を一緒に居て後悔させない自信が無かったことも有り、結局は断るという決断をした。
蓋を開けてみればその告白はただの仲間内での罰ゲームだった上に、OKしていれば恐らくその事をネタに更に虐められるネタにされたんだろうし、断ったから俺はその翌日の日からその女子に性的に襲い掛かったクズということにされた。
OKしても嫌な未来になり、断っても嫌な未来になった。つまり決断をした結果、より酷い未来に向かうということなのだろう。
今回のことで言えば反応したら終わりな気がする。
その時が来るまで保留するのが正解、のような気がする。
わからない。そういった経験が乏しいのはそうだが、何よりも彼等やこの芋達が俺にとって未知数過ぎて何が正解なのかもわからない。しかし山で暮らすようになってから学んだこともある。時には何かを選ばなければ痛い目を見るということだ。
具体的な経験を言えば、悩んだ末に対応が遅れて庭の野菜が全部猪と複数のうり坊に食い荒らされて、育つまでの間は肉と保存していた野菜しか食べる物が無かった時期がある。
即断即決が時に重要な時が有る。
…………なら。