転生
「なんじゃお前、けったいな望みを持っとるのぅ」
気が付くと目の前にツルッパゲで長い髭を生やした爺さんにそんなことを言われた。死んだ筈では……?
「お前、アレじゃな、現代では絶滅したと思っておったほど珍しい仙人の才覚を持っとるんじゃな。おぉ!自己知覚や自己強化なんて才能も持っとるのか。この辺は現代人っぽいのぅ」
俺の混乱を他所に、目の前の爺さんは理解出来ないことを並べて行く。
吐き出される言葉的に……、俺の何かを見ている、のか……?
「それで、あー、虐めのぅ。まぁこれは生物の本能じゃから仕方がないのぅ。しかし早い内から見切りを付けたか、達観し過ぎじゃろ。儂でもその境地に辿り着いたの人間の100歳頃じゃぞ、そりゃあ人間が植物になりたいなんてけったいな望みを持つに到る訳じゃな。普通人間の男子なら1番になりたいとか吸血鬼とか人狼とかドラゴンとかデュラハンとか、そういうもんに憧れるもんじゃろ」
意味がわからない。意味がわからないが、俺は死んだ。そして目の前には爺さんが居て、その爺さんがどうやら俺の経歴を何らかの方法で確認しているらしい。
考えられるとすれば、
「あの、」
「おん?」
「あなた様はもしかして、閻魔大王様、ですか?」
そう聞いたら盛大に笑われた。
何故だ。
「仙人の才能に自己知覚故か、良いのぅ良いのぅ。植物になりたい、のぅ……。良いじゃろう」
返答は返って来ず、しかしそう返されたかと思えば唐突に足下に穴が空いた。
物凄くパニックになりながら落ちてる時、最後に聴こえたのは「任せたぞ~」という呑気な声だった。
そして再び気が付くと、俺は荒野みたいな所で1人立っていた。
見渡す限り誰も居らず、草木も水も無く、荒れ果てるまでは行かないが見るからに硬そうな地面が何処までも続いてそうな岩影なんて物も見当たらない荒野。
そんな荒野の中、足下には明らかに芽吹いて間もない小さな何かの植物の萌芽が在った。
「なん、だ……? ?!」
思わず出た声に驚き、咄嗟に口許と咽の両方抑えるようになってしまって顎に手を当ててしまう。
驚いたのはその声の高さに対して。口許と咽の間の顎に手を当ててしまったのは口許と咽、どちらの事も混乱で考えていたため。
俺は死んだ。天寿を全うした。つまり死んだ筈の俺の元々の年齢は高齢だった。75歳以上だった。そんな俺の声が明らかに昔仕事中に聴こえた小学生ぐらいの子供の声と似た高さをしていたらビックリして当然だと思う。
そこでふと気付く。現状についてである。
俺は仏教の教えである輪廻転生を果たしたのだろう。しかし転生の際に輪廻で洗い流される筈の前世の俺の人間性という穢れは洗い流されず、こうして前世の記憶を持ったまま輪廻転生を果たしてしまったらしい。
輪廻転生を果たしたと認識した途端、様々なことが知識として俺の脳に蓄積されて行った。
どうやら俺は、念願叶い植物に輪廻転生出来たらしい。つまり足下に在る萌芽こそが俺の本体、ということらしい。
しかし俺は前世の記憶が有るため、その記憶に引き摺られる形で俺のままの肉体を産み出せるようだ。 …………どういうことだ?
そう思うと、何やら視界いっぱいに何かの情報が浮かび上がった。前世で学生の頃にゲームデバッグの仕事をしたことが有り、それが何かはすぐにわかった。これはRPG系のゲームでは必ずと言って良いほど重要な『ステータス画面』というヤツだ。
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名前:(この個体を示す名称が存在しません)
種族:雑草
称号:転生者
能力値:生命力―43/100
魔法力―86/100
知力―79
潜在能力―15/20
スキル:自己知覚、自己強化、自己保存
備考:何の因果か神のイタズラか、水も無い生物も居ない大地に生えた奇跡の植物。その萌芽。生えたてであり植物にも関わらず、本来発生しない筈の植物の精霊であるドリアードとしての自我をこの時点で確立しているとても稀有な存在。水不足により近い内に枯れ果てるだろう。
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なんだ、これは……?
書かれている内容があまりにも酷過ぎる。特に備考の部分が。
ただこの備考欄はとても重要な情報残してくれている。
このステータス画面についてや、能力値の部分やスキルとかいうのも1つ1つ丁寧に色々確認したい。しかしとにもかくにも急いで解決しないとならない問題が有った。
水不足。
早急にこの問題を解決しなければ、生まれ変わって早々に死ぬ(枯れ果てる)ことになるだろう。