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幻影のパリ

1人目のイケメン眷属ゲットです!

第3章


 1895年のパリ、ベルエポック、ガス灯に混じって電灯が華やかな光の波で町を照らし、たくさんの電球を用いた電飾看板(アンセーニュ・リュミヌーズ)がキャバレーや大店を飾る。夜になっても行き交う人々は絶えない。パリは1890年に万国博覧会を開催し、イルミネーションの技術やさまざまな光の演出が発達し、まさに「光の都市(ヴィル・ド・リュミエール)」と呼ぶのにふさわしい、20世紀を先取りする夢の街だった。


挿絵(By みてみん)


「さて、どうしましょうかしらね。この町は芸術の香りが濃厚ね。ミューズに愛された男の血はどんな味がするのかしら。」ジョアンナはワインを一口飲んで舌なめずりをした。「そうね、パリには2つの山があるのだわ、美しい女の乳房のように。モンマルトル(殉教者(マルテュール)の山)とモンパルナス(パルナソスの山)。あの忌々しいヤハウェに連なる名前がついた山よりは、ミューズの加護が期待できる山へ行ってみましょう。」


 モンパルナスのカフェ「ラ・ロトンド」。数多くの文学者、特に国際的な文学者や芸術家が集うが場所。ジョアンナは室内の目立たない隅の席に近い場所を指定して案内させた。どう見ても人気のなさそうな席を指定してくれる客を店のスタッフは歓迎した。席に案内されるとすぐに、ジョアンナはギャルソンに5サンティームを渡し、「どうぞ(ジュヴザンプリ)」と言って微笑み、赤ワインを注文した。彼女の右側の、店の隅になっている席にくたびれた様子の中年の男が座っていた。グラスは空になり、目を閉じて腕を組んでいる。テーブルに手帳が開かれており、何かを書こうとしていた様子だが、わずかに書き殴られた文字が数行、そしてそれは英語だった。


挿絵(By みてみん)


 ジョアンナは魅了のスキルを少しだけ発動した。彼が物憂げにこちらに視線を送った。アイタッチに応じて、彼女はシガレットを取り出しながら、「申し訳ないけれど、火を貸してくれないかしら?」と彼に声をかけた。「もちろんです(ビャン・セゥール)、マダム!」と彼は答え、こちらの席に移動した。


「あなた、イギリスの方?」

「はい、アイルランド出身です。」

「パリは長いの?」

「パリは2度目ですが、どうやらもうイギリスへ帰れそうもなく、ここが死に場所になるでしょう。」

「あら、そんなに簡単に死について語らないほうがよろしくてよ。いろいろな死に方があるし、死んだ後のほうが生きていたときよりいきいきとしている場合もあるのですから。」

「生前の栄光というやつですか?私の生前は恥辱と嘲笑に溢れていますから、とてもいきいきなんてしているはずはありません。」

「そんなものは捨て置きなさい。崩れましたでしょ、あなたの肖像?永遠を約束していたはずのあなたの肖像は、あなたの業と欲を飲み込んでその毒にあたって腐り、崩れ落ちました。あなたの代わりを押しつけた報いです。あなたは」、とここでジョアンナはオスカーの手を取った。


「あなたはあなたのままで業と欲を引き受ければ良いのです。いくら飲み込んでも腐らないどころか力が増す身体で。」

「そんなことができるのですか?」

「命を捨てる覚悟があれば。」

「命を捨てたらもはや業と欲を引き受けることはできないのでは?」

「あら、捨ててみないとわからないかもしれないわ。」

「ならば捨てて見せましょう。どうせこのままではゴミのように朽ち果てるだけだ。」

「そんなやけにならなくても良いのよ。私と一緒に来てくれるかしら?」

「はい、お供します。」

「なら、この手を取って。」

2人の姿は霧になって消え去り、テーブルには1フランの銀貨が残されていた。


 ムルダー警部はアムステルダムで1人の屈強な男と対峙していた。年齢は50代、中肉中背だが肩幅が広く圧倒感がある。髪の毛は濃いブラウンでやや乱れている。瞳は深緑色で、理知的と言うより深遠な叡智をを感じさせた。


「はじめまして、ヴァン・ヘルシング博士、ロッテルダム市警のムルダーです。ロンドンのホームズ氏からの紹介で参りました。」

「ようこそおいでなすった、ムルダー警部、首に噛み跡のある死体でも出ましたかな?」

「はい、ロッテルダム周辺で3名の殺人事件がありまして、死因は刃物による頸部切創と考えられていたのですが、火葬に付された1名を除く2名の遺体を再確認したところ、頸部の切創は偽装で、その下に牙のようなものに抉られた傷が見つかったのです。」

「なるほど、そしてその結果の失血死だと。」

「はい、犯行現場はいずれも公園の茂みで近くに池や川もあったので、どれだけの流血が周囲に染みこんだのか確認できず、捜査は行き詰まっています。」

「牙のようなものに抉られた死体は、まだ調査できるのかね?」

「はい、とりあえずホルマリン処理を施しましたので。」

「なんだと、ホルマリン処理だと?それはいかん。痕跡をたどれない。」

「痕跡でございますか?」

「ああ、悪魔の痕跡だ。生物的痕跡の化学構造が書き換えられる。」

「これからどうなさるので?」

「少し時間をくれ。調べてみたい場所がある。」


ミスター・ホームズがヘルシング教授と知り合いなんてね。前々から気になっていたのだけれど、ホームズって探偵を生業にしているんだよね?ちゃんと料金を取っているのか?「では初期手付金として110ポンド、あとは成功報酬ということで」なんて聞きたくないのだけれど。

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