表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジョアンナ・ヴァン・ヘルシング ――The Vampire Queen  作者: 青い水


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/30

オランダ脱出、資金調達

このままオランダにいるとあいつがやってくる。いつかは勝負を付けてやるが、ここはいったん戦略的撤退だ。ロンドンへ行くぞ~!

「ねえ、2人はこの時代の人だったの?」サロメは2人に尋ねる。

「少し昔かな。60年ぐらい前。」カロリーヌが無邪気に答える。

「言われてみると私たち結構お婆さんね。」珍しくエイダが笑う。

「2人がお婆さんなら、私なんて魔女、いえ魔物よ。」サロメがケタケタ笑う。

「みんな魔物であるのは確かだけどね。」エイダが冷静に戻った。


「あ、あの人!」サロメが目ざとく1人の男を見つけた。少し酔っているらしく、千鳥足で横町に入った。娼婦館にでも行くのだろうか。サロメはまるで見えない風のように駆け寄って,音も立てずに男の首に牙を突き立てた。


「手が早いわね、あの子。」エイダは吸血の瞬間を観察して呟いた。そして隣のカロリーヌに目を向けると、彼女は消えていた。気配を感じて上を見ると、屋根の上に獲物を狙う野獣のようなカロリーヌの姿があった。エイダは苦笑いをして先へ進み、自分の獲物を物色し始めた。


「あの子にしましょう。リスクが少ないのが一番よ。」エイダが選んだのは街娼だった。通り過ぎる女など空気のようにしか思わないので一切の警戒がない。エイダは易々と娼婦の背後に回り血を吸った。


「あの子にしよう!」カロリーヌが狙ったのは靴磨きの少年だった。「私、15歳で転生したから、おじさんやおばさんには抵抗があるわ。いずれ克服するつもりだけど。」少年は無邪気な少女の糧となって果てた。




 ジョアンナは察知した。30年間幽閉されていた結界の牢獄にあの男が再び訪れたことを。このままではこの館もいずれ気づかれる。今の段階で直接対峙するのは避けたほうが良さそうだ。あの男はおそらく警察の依頼で動いているのだろう。だとすれば、数多くの警察官の監視の目を掻い潜って活動しなければならなくなる。


「この館を放棄します。必要なものだけを持ってオランダを出ます。そうですね、もっと大きな町のほうが良いでしょう。ロンドンへ向かいます。しかしその前に軍資金を用意しなければなりません。これまではばれないように小刻みに資金を集めてきましたが、もう出国するので事件が大きく報道されてもかまいません。銀行から金塊を持ち出します。皆さん、もう基本的な変身や飛行、霧やエーテルへの実体変化は身に付けましたね?」一同は頷いた。


「目標はオランダ銀行連合です。では各人の役割を発表します。エイダ、あなたは先行して銀行を調べてください。エーテル体になって建物内を隈なく調べ,地図を作って持って帰ってください。カロリーヌ、あなたはエイダに付いていって警備態勢を調べてください。どこが厳重か、どこが手薄か。サロメ、あなたは私と一緒に行動するのよ。荒事になったら頼りにするわ。フランツ、ジョージ、オスカー、男3人は金塊を運び出す役よ。できるだけたくさん運び出したいの。金は重いのよ。延べ棒1本が400トロイオンス、これは12.4キログラムに相当するわ。1人4本は持って欲しい。それでは、エイダとカロリーヌが情報を得て帰るまで、ここで待機しましょう。」


 エイダとカロリーヌはコウモリに姿を変え館から飛び出した。しばしの静寂が館を包んだ。それぞれの役割を理解し、一同はエイダとカロリーヌの帰還を待った。男たちは金塊の重さの話で盛り上がり、お互いに非力だろうと冗談で詰りあっていた。人間だったときは、バイロンを除く2人はたしかに金塊を持ち上げられなかったかもしれない。しかしヴァンパイア化すると力が人間の何倍にも増加するので、金塊4本程度は余裕なのである。サロメは指でダンスの動きをなぞらえながら、にこやかに「荒事になったら私に任せてね、クイーン。」と語りかけた。空気は微かに緊張感を帯びていたが、誰もがやり遂げられる自信をみなぎらせていた。


 やがて、気配もなくエイダとカロリーヌが戻ってきた。エイダは数枚の精密な図面をジョアンナに手渡した。それはオランダ銀行連合本店の内部構造を詳細に描き出したものだった。そこには、廊下と階段、施錠箇所、壁の厚さ、通風口の位置、地下金庫の鍵の保管場所まで、克明に記されていた。カロリーヌのノートには、警備員の巡回ルート、地下金庫の警備態勢、全警備員の人数が詳細に記されていた。ジョアンナはそれらの資料を見ながら数分間考えをめぐらせた。


「作戦開始は夜間零時。安全に離脱するために、まず銀行から警察への連絡手段を遮断します。電話線を切断するだけの簡単な仕事はカロリーヌにやってもらいましょう。エイダには、その他の緊急警報を無効化してもらいます。エイダなら電気の配線からすぐわかると思います。私とサロメは、まず巡回中の警備員を無力化します。まあ殺してしまうのだけど。ただし、吸血はしません。怪しまれるといろいろ面倒です。地下金庫前の警備員だけになったら、運搬役の男3人と協力して全員を倒します。できるだけ音は立てたくないので、殺害方法は絞殺、あるいは頸椎を折るなど、迅速かつ静かな手段を選びます。地下金庫の扉が開いたら、手分けして金塊を運び出します。運び込むのは、ロッテルダム駅近くの借家です。ここに数日保管して、少しずつロンドンへ鉄道貨物として送り出します。すべて送り出したら、速やかにロッテルダムを離れます。国境を超えるまでは、くれぐれも慎重に行動してください。何か質問はありますか?」


一同は顔を見合わせ、静かに首を横に振った。それぞれの瞳には、決行の時を待つ鋭い光が宿っていた。


 夜の帳が下り、ロッテルダムの街は静寂に包まれた。午前零時。カロリーヌは目にも留まらぬ速さで銀行の外周を移動し、電話線と警報装置の配線を寸断した。エイダはエーテル体となり、建物内部の電気系統に侵入、サイレンやその他の緊急警報を巧妙に無効化していく。


 ジョアンナとサロメは、漆黒の影のように銀行の裏口に忍び寄った。巡回中の警備員二人が近づくのを待ち構え、一瞬の隙をついて背後から襲いかかった。二人の警備員は抵抗する間もなく意識を失い、地面に崩れ落ちた。


 地下金庫への扉の前には、屈強な警備員が5人立っていた。ジョアンナの合図で物陰に潜んでいたフランツ、ジョージ、オスカーが3人の警備員に飛びかかり、ジョアンナとサロメは残りの2名を相手にした。襲撃に気づいたとき、警備員たちはほぼ同時に絶命した。


 ジョアンナは素早く金庫の扉を開け、輝く金塊が積み上げられた場所に入った。男たちは4本ずつ用意した鞄に詰め込み、闇に紛れてロッテルダム駅近くの借家へ急いだ。馬車を使わず3人がバラバラに行動したので、誰も目にとめる者はいなかった。こうして金塊140kgは、まんまとヴァンパイアたちの手に渡ったのだった。


ヴァンパイアが派手な銀行強盗って、なんかジャンルが違うんだけど、お金がないとロンドンで何もできないから仕方がないの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ