ヴァンパイア・デビュー
眷属が眷属を作りました。孫眷属は子眷属より弱いのか?一見そう感じられるけど、このメンバーを見てるとそうでもないような気がする。
「ねえ、オスカー、あなたは人間なの?」サロメはまじまじとワイルドを見つめた
「いいえ、厳密にはかつて人間だった者です。」
「じゃあもう痛みも悲しみもないの?」
「まさか。痛みも感情もありますよ。」ワイルドは固い微笑みで答えた。
「私に口づけできる?」サロメは挑むようにワイルドを見上げた。
「いえ、それはちょっと。」ワイルドはたじろいだ。
「私は抵抗できないようにして唇を奪うこともできるよ。」サロメの目は笑っていなかった。
「それはどうでしょうね。」ワイルドは身構えた。
「でも奪うより奪われたいかな。」サロメは細長い四肢を蛇のようにワイルドに絡めてきた。
ヴァンパイアの目の魅了とは違う舞姫の四肢の魅了が発動した。蛇の誘惑...ワイルドの脳裏にラミアの姿が浮かんだ。
「私は淫らな女なのかも。」サロメの瞳が怪しく輝く。
「いけません...ダメだっ!」ワイルドは突き放そうとした...が、ベッドに押し倒されてしまった。
「我慢しないで思いのままにすれば、時空の彼方に飛んで行けるかもしれないわ。」囁きとともにサロメの熱い吐息が耳に這う。男の、というよりヴァンパイアの本能がこの状況を耐えがたいものにした。
「後戻りできないことになるぞ。」ワイルドは瞳を紅くたぎらせて最後の抵抗を示した。
「かまわないわ。連れて行って!」
オスカー・ワイルドはサロメの唇を奪い、そして白い牙を彼女の項に突き立てた。そのとき部屋に一陣の霧が舞い、その中からジョアンナが現れた。
「あらあら、らしくないわね、オスカー。」ジョアンナは笑いながらワイルドを睨んだ。「でも良いわ、良い子が手に入ったから。」
サロメはぐったりしてワイルドの腕の中に収まっている。そしてやがて転生の兆しが彼女の身体に表れた。小刻みに震え、髪の毛の輝きが増し、瞳と唇が紅く輝いた。
「こっちへ来なさい。」ジョアンナが手招きすると、サロメは踊るような足取りで彼女の前へ進み、「クイーン!ジョアンナ様とは呼ばないわ。だって私は王女サロメだもの。」と挑発的に視線を向けた。
「かまわないわよ,サロメ、あなたの舞を堪能させてもらうわ。一緒に行きましょう、時空の彼方へ。」
クイーンの館、時空器の間。アストラル体のクイーン、ワイルド、そしてサロメが現れ、すぐに物理的身体をまとった。
「これで近衛眷属もそれぞれの通過儀礼を果たしたわ。これからたくさん楽しいことをしましょう。そうね、まずは女の子たちに新しい経験をしてもらわないと。」
ジョアンナはカロリーヌ、エイダ、サロメに向かって言った。「3人で出かけて、おいしそうな人間がいたら血を吸ってきなさい。眷属にする必要はないわ。殺しちゃってかまわない。ヴァンパイアになったのですから血の味に慣れてもらわないと。生命力、とは言わないわね、アンデッドなんだから、不死の力がみなぎるわよ。」
3人は連れだってロッテルダムの街へ繰り出した。
「ねえ、2人はこの時代の人だったの?」サロメは2人に尋ねる。
「少し昔かな。60年ぐらい前。」カロリーヌが無邪気に答える。
「言われてみると私たち結構お婆さんね。」珍しくエイダが笑う。
「2人がお婆さんなら、私なんて魔女、いえ魔物よ。」サロメがケタケタ笑う。
「みんな魔物であるのは確かだけどね。」エイダが冷静に戻った。
「あ、あの人!」サロメが目ざとく1人の男を見つけた。少し酔っているらしく、千鳥足で横町に入った。娼婦館にでも行くのだろうか。サロメはまるで見えない風のように駆け寄って,音も立てずに男の首に牙を突き立てた。
「手が早いわね、あの子。」エイダは吸血の瞬間を観察して呟いた。そして隣のカロリーヌに目を向けると、彼女は消えていた。気配を感じて上を見ると、屋根の上に獲物を狙う野獣のようなカロリーヌの姿があった。エイダは苦笑いをして先へ進み、自分の獲物を物色し始めた。
「あの子にしましょう。リスクが少ないのが一番よ。」エイダが選んだのは街娼だった。通り過ぎる女など空気のようにしか思わないので一切の警戒がない。エイダは易々と娼婦の背後に回り血を吸った。
「あの子にしよう!」カロリーヌが狙ったのは靴磨きの少年だった。「私、15歳で転生したから、おじさんやおばさんには抵抗があるわ。いずれ克服するつもりだけど。」少年は無邪気な少女の糧となって果てた。
デビューって、まあいろいろな局面で使われる言葉だけど、一番はやはり少女が初めて舞踏会に出ることですかね。




