第5話 「廃路の交差点」
東へ――わたしたち、サフィア、シキ、ジャズの三人は、極夜に包まれた世界を踏み締めて進んでいる。先ほど闇市で得た情報によって、GWNコンプレックスという通信インフラ拠点の地下シェルターを目指すことになった。そこには古いサーバーや端末が残されているかもしれない。Voidfallの真相、天界への糸口、それらが眠っている可能性がある。
しかし、その道程は容易ではない。この世界には地図もなく、壊れた建物と瓦礫が無数に散らばり、道を阻む。遠回りや引き返しが当たり前、殺気立った生存者たちが徘徊し、いつ牙を剥くかも分からない。何度も進路を変えなければならないだろう。
足元を照らすランプの光は淡く、廃墟の影が不規則に揺れる。わたしたちは過去に見た同じような廃ビル群を、微妙に違う角度で越えていく。金属片を蹴れば反響音が闇へと吸い込まれ、風は冷たく皮膚を刺す。短い休息を挟みながら、無言で歩み続けるうち、ある交差点跡へ出た。
そこは巨大なコンクリ片と倒れた信号機が散乱するエリアで、かつて複数の道路が交わっていたらしい。いくつかの看板が半壊し、錆びた鉄骨が橋の基礎らしき形を残している。空は見えず、黒い雲に閉ざされた極夜が続く。
「ここ……見覚えあるような気がする。」ジャズが小声で言う。
シキは首をかしげる。「確かに、似たような場所を通ったかもしれないわね。でも、同じ場所ではないと思う。」
わたしは黙って周囲を見渡す。以前見た地点より、倒壊物の配置が微妙に違う。おそらく別の交差点だ。
「東へ向かうには、どの道を行く?」ジャズが不安げに問う。
シキは天井を仰ぐように頭上を見ても、星も方向標もない。ただ、手元のランプと、かすかな地形の起伏を頼りに方角を推測するしかない。
「北東や南東へ逸れてしまうと、目的地を外れるかもしれない。できるだけ真東を意識しよう。」わたしはそう言って、足元の地面の傾斜や構造物の配置から方角を推測する。建物の倒れ方や、かつて高速道路が通っていた向きから、なんとなく東はあちら、と指差す。
「分かった。そっちへ行こう。」シキは納得して、二人が後に続く。
しかし、わずかに進んだ先で、不意にシキが足を止める。「待って、足跡がある。」
彼女は四季色の髪を揺らしながら地面を指差す。粉々になったコンクリ片の上に、人が通ったらしい擦れ跡が残っている。最近のものかもしれない。
「誰かがここを通った……」ジャズが息を呑む。「闇市の連中? それとも無法者?」
わたしは屈んで跡を観察する。明確な靴跡ではないが、均整が乱れた瓦礫の間に妙に踏み固められた部分がある。少なくとも一人以上が頻繁に往来しているような気配だ。となれば、前方に何か拠点があるかもしれない。
「用心して進む。」わたしは短く命じる。
数十メートル進むと、再び鉄骨の残骸が行く手を阻む。高さ2メートルほどの曲がった梁が斜めに刺さっており、その向こう側は狭い通路状になっている。くぐり抜ければ先へ行けそうだが、そこは罠を仕掛けるのに絶好のポイントでもある。
「慎重に。」シキが刀の柄を握る。ジャズはライフルを腹側に抱える形で、即応できるように構える。わたしはセツナの鞘に触れ、右手の指を軽く動かして緊張をほぐす。
梁をくぐる直前、不意にかすかな音が耳に届いた。「カチリ」と何かが噛み合うような音。罠か?
わたしは即座に手を挙げ、二人に停止を示す。ランプの明かりを弱め、耳をすます。闇の向こうで、金属が擦れるような微音が続いた。
「誰かいる。」ジャズが唇を引き結ぶ。
シキは呼吸を整える。「どうする? 引き返す?」
引き返せば、また回り道になる。だが、正面突破で殺し合いになるなら無理は禁物だ。けれど何度も遠回りしていてはいつまでもGWNコンプレックスにたどり着けない。わたしは状況を読み、決断する。
「奇襲されるより、こちらから声をかけてみよう。」
意外な提案にシキが目を見開く。「危険じゃない?」
「罠があるなら、こちらが先に存在を示せば、相手は躊躇するかもしれない。」わたしは冷静に答える。「とにかく、相手の出方を見よう。」
わたしは梁の手前、少し広い足場で声を出す。「そこにいるのは分かってる。わたしたちは通りがかりの旅人で、戦う意思はない。もし情報交換や取引ができるなら、構わない。どうする?」
沈黙。数秒間、空気が張り詰める。
「……出てこい。」低く押し殺した声が返ってくる。男か女か判別しにくいが、中性的な響き。
わたしは視線で二人に「用心せよ」と合図し、ゆっくりと梁の横へ移動する。姿を完全に晒さないまま、上半身だけを少し覗かせる。
そこには、やせ細った人影がいた。ボロ布をまとい、片手に金属製の鋏のような奇妙な道具を握っている。髪は短く、顔には泥と血がこびりつき、正気かどうか怪しい目でこちらを見ている。
「戦う気はない?」人影は囁くように言う。「嘘だ。みんな嘘つきばかりだ。」
狂気を孕んだ調子だが、抑制しているようにも見える。危ない相手だ。
「わたしたちは情報を求めているだけ。」わたしは静かに言う。「GWNコンプレックスを目指している。」
その名を出した瞬間、人影は反応した。「コンプレックス……あれか。はは、あそこは死地だ。行くのか、死にたいのか?」
ジャズが後方で身構え、シキは二刀を引き出しかけている。わたしは手で制してから言う。「死にたくないが、行くしかない。」
人影は笑い始める。乾いた笑いが金属片に反響する。「いいね、面白い。行くか、じゃあ教えてやろう。そっちへ行くなら、この狭い通路を抜けた先で左だ。道は狭くなるが、そのまま行けば徐々に開けた場所へ出る。そこがコンプレックスへの遠回りルートだ。」
「遠回りルート?」シキが疑念を浮かべる。「どうして教えるの?」
人影は頭を左右に振る。「どうせ死ぬんだから、教えても減らないさ。俺はここで餓え死ぬか、狂った獣になるかだ。お前たちが生き延びるかどうかなんて興味はない。」
ジャズは息を呑む。「ひどい……」
わたしは感情を殺す。「参考にはするが、なぜ信用できる?」
人影は再び笑う。「信用? 何それ。信用なんかこの世界にはない。俺は単に、お前たちが罠に引っかかるより、進んで死んでくれたほうが面白いと思っただけだ。情報があれば、警戒して進むだろう? その先で待つ奴らとの殺し合いが見ものだ。」
狂気を帯びた論理だ。この人物は、わたしたちが先へ行くことで、そこに潜む脅威との血塗れの宴を期待しているのかもしれない。狂人の考えだが、むしろ逆に正直に見える。嘘で誘い込むよりは、こうして混乱を生じさせることを楽しんでいる様子だ。
「分かった。あんたからは何も奪わない。ここを通っていいか?」わたしは短く尋ねる。
人影は肩をすくめる。「好きにしろ。俺がここで仕掛けていたのは警報罠だけだ。もう仕掛け直す気力もない。」
警報罠……それを気づく前に引っかかっていたら、面倒なことになったかもしれない。
「行こう。」わたしはジャズとシキに合図する。二人は警戒を解かないまま、梁の下をくぐり抜ける。人影は鋏の道具を投げ捨て、膝を抱えて座り込んだ。関わらないほうがいい。
梁を過ぎると、確かに通路は狭くなり、左右は半壊のビル壁面がせり出している。足場は瓦礫や泥で滑りやすく、進むたびに足元が不安定になる。
「本当にこの先で道が開ける?」ジャズが不安げに言う。
「分からない。でも、あの狂人がわざわざ嘘をつくメリットも少なそう。」シキが答える。「注意して進もう。」
わたしは同意する。狂人は楽しみたがっていた。ならば、嘘でわたしたちを死なせても面白くないはずだ。多少遠回りでも前へ進むしかない。
やがて、狭い通路を抜けると、ブロック塀が倒れた広めの空間へ出た。瓦礫の丘のような地形で、上に上がれば見晴らしが良さそうだ。
わたしたちは丘を登り、上から周囲を見渡す。黒い廃墟の海。その中に、少し先で高い建造物が傾いているシルエットが見える。あれは……タワー状の施設か、大規模なビル群か。
「もしかして、あれがGWNコンプレックス関連の建物?」ジャズが目を凝らす。「巨大なネットワーク拠点なら、高い鉄塔やアンテナがあってもおかしくないわ。」
「可能性はある。」シキが目を細める。「ただ、かなり崩れてるように見える。」
わたしは舌先で唇を湿らせる。「崩れていても、地下にシェルターがあるなら潜り込めばいい。問題はそこに何が潜んでいるか……。」
噂によれば、GWNコンプレックス周辺は多くの生存者が挑んで散っていった場所。殺し屋や罠がある。さっきの狂人も、その闇市の店主も同じことを言っていた。
「危険は避けられない。」シキが意を決した声で言う。「私たちが求める答えがそこにあるなら、行くしかないわ。」
ジャズは拳を握りしめる。「わたし、コールドスリープから覚めて以来、ずっと手探りだった。このまま何も知らずに生き続けるのは嫌。危険でも進みたい。」
わたしは二人を見渡し、わずかに頷く。「分かった。わたしも同じ意見だ。行こう。」
姉を失い、虚無を抱えるわたしにとって、ここで立ち止まることは何の意味もない。動かなければ何も得られない。危険でも前へ進む。
瓦礫の丘を下りる途中、何か金属片に足を取られ、ジャズが小さく悲鳴を上げる。「きゃっ!」
振り向くと、ジャズが転び、ライフルを落とした。幸い怪我はなさそうだが、銃声などは響かないので助かった。
「大丈夫?」シキが駆け寄る。
「う、うん、ごめん。気をつけるわ。」ジャズはライフルを拾い上げ、埃を払う。
わたしは周囲を警戒しつつ、「足元に注意して。」とだけ言う。
その時、遠くで弱い爆音が響いた。ゴンッ、という低い衝撃音が闇に溶ける。何だ? 別の生存者たちが争っているのか、老朽化した建物が崩落したのか。
「音が増えてきたわね。」シキが眉を寄せる。「もしかして、GWNコンプレックス周辺には、他にも狙っている連中が集まっているのかも。」
ジャズは青ざめる。「一気に修羅場になってる可能性がある……」
わたしは歯を食いしばる。闇市で得た情報は、ほかの旅人にも渡っているかもしれない。GWNコンプレックスの存在は周知の事実なのだろう。何度も生存者が挑んで失敗していると聞いたが、それでも挑戦する者は絶えないのか。
「用心して接近しよう。」わたしは声を潜める。「迂闊に突っ込めば戦いに巻き込まれるかもしれない。少し円周を描いて外縁を探り、裏口や地下への入り口を探そう。」
シキが頷く。「賛成。正面突破は愚策。」
ジャズはライフルを抱え直し、「二人がいるなら大丈夫。わたしも頑張る。」と弱く微笑む。
周囲の地形を確認すると、左手側にやや緩やかな斜面があり、そこから回り込めば巨大構造物の根元に近づけそうだ。あれがコンプレックス関連の施設なら、地下へのアクセスは建物内部か、外部シャフトから可能かもしれない。
瓦礫をよじ登り、転ばないように慎重に進む。時間がかかるが、焦る理由はない。
途中、装甲板のような金属板が地面に突き刺さっている場所があり、そこに血痕が残っている。比較的新しい傷跡だ。最近ここで誰かが戦ったのだろうか。
「嫌な雰囲気。」ジャズが震え声で言う。
シキは目を鋭くして周囲を警戒する。「誰か近くに潜んでるかもしれない。」
わたしはセツナの柄に指をかけ、視線を走らせる。だが、物音はしない。闇が不気味に静まり返っている。先ほどの爆音も、今は聞こえない。
「行こう。」と促し、さらに進む。
しばらくして、建物らしき構造物の輪郭がはっきりしてきた。巨大な鉄骨フレームに外装が剥がれ落ちた塔状の建物が傾き、周囲に低層階の廃屋が散らばっている。その中心部に空洞のような広場があり、そこで人為的な障害物が見える。どうやら塹壕のようなものを掘り、陣地を形成している者がいるのかもしれない。
「気をつけて!」ジャズが小声で警告する。
シキも低く呻く。「誰かが防衛線を張っている感じね。簡単には近づけない。」
わたしたちは建物群の外縁を回り込み、別ルートを探す。地下への入り口が地表から露出している場合がある。例えばマンホールや非常用ハッチ、換気口など。
金属板やコンクリ片をどかしつつ、注意深く捜索していると、シキが足元で何かを発見した。「これ、マンホールみたい。」
その円形の鋳鉄製フタは半ば泥に埋まっているが、力を込めれば開けるかもしれない。
「下へ降りる通路があるかもしれない。」わたしはセツナの柄から手を離し、短いバールを取り出す。ジャズが周囲を警戒し、シキとわたしでマンホールに力を加える。ミシリと嫌な音がして、数分の格闘の末、フタがわずかに浮き上がった。
腐敗した空気が立ち上り、鼻を突く。下に階段らしき影が見える。これは普通の下水管ではなく、非常用避難路の可能性がある。下水ならもっと狭いはずだが、ここは人が歩けそうな広さだ。
「行く?」ジャズが戸惑う。
「地上に敵がいるなら、地下から回り込むのも手だ。」シキが決断する。「危険だけど、地上より隠密で近づけるかもしれない。」
わたしはランプを近づけて下を照らす。階段が続き、その先は闇。水滴が落ちる音が微かに響いている。
「行こう。気を引き締めて。」
こうして、わたしたちはマンホールを通じて地下へ潜る。GWNコンプレックスのシェルターへの経路かどうかは分からないが、少なくとも地上の争いを避ける手がかりになるかもしれない。
下は狭い通路になっていた。コンクリ壁にパイプが張り巡らされ、ところどころでケーブルの残骸がぶら下がっている。かつてはメンテナンスタンネルや非常用避難路だったのかもしれない。
わたしはランプを片手に先頭を行き、シキが中間、ジャズが最後尾を守る。
シキが唾を飲み込む音が聞こえる。「静かね。」
ジャズは後ろを振り返りながら、「地上の音も聞こえないわ。すごく深いのかな。」
やがて、通路の先に鉄扉が見える。大きなスライド扉で、錆びているが完全には閉まっていない。隙間から冷たい風が流れてきた。
「この扉の向こうに何がある?」わたしは低く自問する。
道中で出会った狂人や闇市の店主、技術屋の男が放った言葉が脳裏に浮かぶ。ここには危険がある。殺し屋が潜んでいるかもしれない。だが、それを恐れては何も得られない。
わたしはセツナに手をかける。「シキ、ジャズ、用心して。何があっても即応できるように。」
シキは刀の柄を握り、「了解。」ジャズはライフルを構え直し、怯えながらも頷く。
力を込め、扉の隙間にバールを差し込む。ギギッと鉄が軋む音が地下通路に反響する。静かに、ゆっくりと引き開けていくと、その先は薄暗い空間。コンクリ壁に配置されたラックや機械の残骸、半崩れた床。まるで防護区画だったのだろうか。
中へ一歩踏み込むと、足元でガラス片が砕ける音がした。そのとき、不意に頭上から何かが降りてきた。
「伏せろ!」シキが叫び、わたしは反射的に身を沈める。ジャズが悲鳴を上げる。
頭上を何か鋭い刃物が通過し、コンクリ壁に突き刺さる。罠か? 天井から吊り下げられたブレードが振り子のように揺れている。
「危なかった……」ジャズが青ざめる。
わたしはブレードの設置を確認する。手製の罠で、扉を開けると引き金が作動する仕組みだろう。間一髪で避けられたが、これが殺し屋の仕掛けた罠の一端なのかもしれない。
「注意しろ。この先も罠がある。」わたしは声を潜める。
シキとジャズは固く頷く。
「ここは既にコンプレックスの一部かもしれない。天井や壁を注意深く見ながら進もう。」シキが提案する。
3人は慎重に足を進める。機械が積まれたラックや、配電盤らしき箱が倒れている。どれも電力はないが、古いケーブルが絡まり、地雷のような仕掛けが潜んでいてもおかしくない。
数メートル進んだところで、わたしは床に不自然な陥没を発見する。小さな穴があり、その中に鋭い釘が植え付けられている。足を踏み入れれば足裏を貫通する危険なトラップだ。周囲の瓦礫を踏めば避けられるが、暗闇では見逃しやすい。
「やはり罠が満載ね。」ジャズが苦い顔をする。「ここ、私たちを入れたくないみたい。」
「それでも行く。」わたしは即答する。止まる理由はない。
慎重に穴を避け、ブレード罠や釘穴を一つ一つ回避しながら、狭い区画を抜けていく。時間はかかるが、怪我せずに進むためには仕方ない。
やがて、狭い通路の先に別の扉が見えた。今回は大きなシャッター式で、下半分が土砂で埋まっている。くぐり抜ければ、さらに先へ行けそうだ。
「ここを抜ければ、もっと広い空間に出るかも。」シキが低く言う。
「頼むから、罠が減ってて欲しい……」ジャズは半ば泣きそうだ。
わたしはシャッター下部の隙間を覗く。向こう側は少し広い空間があるようだ。足元の土砂を掘り、体を這わせて通り抜ける必要がある。
「先にわたしが行く。二人はカバーして。」
「気をつけて。」シキが後ろで待機する。
わたしはセツナを握り、慎重に土砂と瓦礫を少し掻き出す。隙間を広げ、ランプを口元で固定しながら、這いつくばって潜り込む。冷たく湿った土の匂いが鼻につく。先へ顔を出すと、確かに少し広い部屋に出た。
頭を入れ、肩を回し、最後に腰を通すと、何とか空間へ出ることができた。ランプを掲げると、そこには半ば崩れたコンクリ室があり、中央に大きな円形シャフトがある。シャフトには梯子がかかり、地下へ続いているようだ。
「こっちへ来て!」わたしは小声で呼ぶ。ジャズとシキが同じように這いつくばって入ってくる。
3人が揃った時、わたしは梯子を指差す。「あれ、下へ降りる道よ。」
シキが目を細める。「さらに深く……GWNコンプレックスの中心部は地下深くにあるのかもしれないわ。」
ジャズは震える声で言う。「下へ行けば、罠や殺し屋がもっといるかも。」
わたしは硬い声で応じる。「引き返す? ここまで来て諦めるの?」
ジャズは唇を噛み、首を振る。「ううん、行くわ。覚悟してる。」
シキも微かな笑みを浮かべる。「同じく。」
よし、とわたしは梯子に手をかける。底が見えない闇へ、一歩ずつ降りていく。上方でシキとジャズが続く足音が響く。極夜の世界で、地上より深い闇の底へ潜る。何が待つか分からないが、もう迷わない。
姉を失った空虚な心は、いまだ無感情の殻に包まれている。だが、その殻を破るには、真実に触れるしかない。
わたしは青い刃セツナを右手で握り直し、梯子を下り続ける。下で何が待っているか、死か生か。
答えはこの闇の底に眠っている。
こうして、わたしたちは朽ちた標の向こう、さらに深い闇へと足を踏み入れた。GWNコンプレックスの地下シェルター――そこには、失われた時代の残響が眠っているに違いない。