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ハッピぃエンドは好きじゃない-幸子の冒険-

作者: pappajime

一 シンデレラ


高校2年生の佐藤幸子は、自分の名前とは裏腹に、不幸な人生を送っていると固く信じていた。彼女の日課は、周りの幸せそうな人々を観察し、どうすれば彼らを不幸にできるかを考えることだった。しかし、それとは裏腹に、放課後はいつも図書館に足を運び、ハッピーエンドの物語を読むのが密かな楽しみだった。


ある日、いつものように図書館で本を読んでいた幸子の耳に、不思議な音楽が聞こえてきた。それは遠くから聞こえてくるような、かすかな旋律だった。突然、目の前が暗くなり、意識が遠のいていく。


「ここは...どこ?」


目を覚ました幸子は、見知らぬ場所にいた。周りを見回すと、古い家の中にいることに気づく。手には雑巾が握られており、床を掃除している自分がいた。


「まさか...シンデレラ?」


幸子は状況を理解し始めた。彼女はシンデレラの物語の中に入り込んでしまったのだ。しかし、幸子にとって、この状況は我慢ならなかった。


「ハッピーエンドなんて、許さない」


幸子は心の中で誓った。彼女は物語の展開を知っているからこそ、それを阻止する方法を考え始めた。


まず、幸子は意図的に掃除を手抜きし始めた。継母や義姉たちの機嫌を損ね、舞踏会の招待状を受け取れないようにしようと考えたのだ。しかし、彼女の計画は思わぬ方向に転がっていく。


継母は幸子の不完全な掃除に激怒し、さらに厳しい仕事を課した。幸子は家中を隅々まで掃除することになり、結果として家全体が輝くほどきれいになってしまった。そのため、王宮からの使者が訪れた際、この家の清潔さに感銘を受け、招待状を直接幸子に手渡すことになったのだ。


「くっ...こんなはずじゃ...」


幸子は歯噛みしたが、まだ諦めてはいなかった。次は、ドレスを台無しにしようと企んだ。こっそりドレスに醤油をこぼし、染みをつけたのだ。ところが、その染みが偶然にも美しい模様となり、周囲の注目を集めるユニークなドレスが出来上がってしまった。


舞踏会の夜、幸子は仕方なく会場に向かった。彼女は王子との出会いを阻止しようと、意図的にぎこちない態度を取り、踊りも下手に演じた。しかし、その不器用な姿が王子の目には一生懸命で誠実に映り、逆に心を惹かれてしまう。


「なぜ...なぜうまくいかないの?」


幸子は焦りを感じていた。最後の手段として、彼女は12時の鐘が鳴る前に、自らガラスの靴を割ってしまおうと決意する。しかし、靴を割ろうとした瞬間、彼女は悪い貴族たちの陰謀を耳にしてしまう。王子を騙し、王国を乗っ取ろうとしていたのだ。


幸子は迷った。しかし、結局は正義感が勝り、王子に真実を告げることにした。その結果、陰謀は阻止され、王子は幸子の勇気と正直さに深く感銘を受けた。


物語は急展開し、幸子が望まなかったハッピーエンドへと突き進んでいく。しかし、その瞬間、幸子の意識は再び遠のいていった。


目を覚ますと、幸子は図書館にいた。手には「シンデレラ」の本が握られていた。最後のページを開くと、そこには彼女が体験した冒険が詳細に書かれていた。


幸子は呆然としながらも、なぜか心の中に小さな温かさを感じていた。「幸せって...そう悪くないのかも」そんな考えが、彼女の心に芽生え始めていた。



二 白雪姫


シンデレラの冒険から数日後、佐藤幸子は再び図書館を訪れていた。前回の経験は彼女の心に小さな変化をもたらしたものの、根本的な考え方はまだ変わっていなかった。


「今度こそ、ハッピーエンドを阻止してみせる」


そう心に誓いながら、幸子は「白雪姫」の本を手に取った。本を開いた瞬間、再び奇妙な音楽が耳に入り、意識が遠のいていく。


目を覚ますと、幸子は豪華な宮殿の中にいた。鏡に映る自分の姿を見て、彼女は状況を理解した。彼女は白雪姫の継母である女王の役になっていたのだ。


「これは面白い」幸子は微笑んだ。「白雪姫を排除すれば、ハッピーエンドは避けられるはず」


まず、幸子は白雪姫を森に追放することにした。しかし、彼女の計画は思わぬ方向に転がっていく。森で一人になった白雪姫は、自然と触れ合うことで内なる美しさと強さを発見。その姿が森の動物たちを魅了し、彼らが白雪姫を守るようになったのだ。


「くっ...こんなはずじゃ...」


幸子は歯噛みしたが、まだ諦めてはいなかった。次に彼女は、毒リンゴの計画を実行しようとした。しかし、毒を作る際に間違えて美容液を混ぜてしまう。そのリンゴを食べた白雪姫は、一時的に眠りについたものの、目覚めると驚くほど美しくなっていた。


「もう!なんで上手くいかないの?」


幸子はイライラしながらも、最後の手段として、自ら七人の小人たちの家に向かった。白雪姫を直接排除しようと考えたのだ。しかし、そこで彼女は思わぬ事実を知ることになる。


小人たちの家に到着した幸子は、白雪姫が小人たちや森の動物たちと協力して、王国の貧しい人々を助ける活動をしていることを知った。白雪姫の優しさと献身的な姿勢に、幸子は複雑な感情を抱き始める。


そんな中、王国を脅かす悪い魔術師の存在が明らかになる。魔術師は白雪姫の純粋な心を利用して、王国を乗っ取ろうとしていたのだ。


幸子は葛藤した。白雪姫を排除したいという気持ちと、王国の危機を救いたいという正義感が心の中で戦った。しかし最終的に、幸子は正しい選択をする。


彼女は自らの魔力(女王としての力)を使って、白雪姫と小人たちを守り、魔術師と対決する。激しい戦いの末、幸子は魔術師を倒すことに成功する。


この行動が、意図せずして物語をハッピーエンドへと導いていく。白雪姫は幸子(女王)の勇気と献身に感銘を受け、二人は和解する。そして、白雪姫と王子の結婚式で、幸子は晴れて祝福の言葉を述べるまでに至る。


しかし、その瞬間、幸子の意識は再び現実世界へと引き戻される。


目を覚ますと、幸子は図書館にいた。手には「白雪姫」の本が握られていた。最後のページを開くと、そこには彼女が体験した冒険が詳細に書かれていた。


幸子は複雑な表情を浮かべながら、本を元の場所に戻した。彼女の心の中で、これまでの考え方に疑問が生まれ始めていた。


「幸せって...作り出すものなのかも」


そんな新しい考えが、少しずつ幸子の心に芽生え始めていた。しかし、まだ完全に納得したわけではない。彼女の心の中で、古い考えと新しい気づきが葛藤を続けていた。


図書館を出る際、幸子は無意識のうちに、次は何の物語の世界に入ることになるのだろうかと、少し期待を込めて考えていた。



三 眠れる森の美女


白雪姫の冒険から数日後、佐藤幸子は再び図書館を訪れていた。これまでの経験は彼女の心に小さな変化をもたらしていたが、まだ完全に自分の考えを改められずにいた。


「今度こそ...」と幸子は呟いたが、その声には以前ほどの確信がなかった。


彼女は「眠れる森の美女」の本を手に取った。本を開いた瞬間、奇妙な音楽が耳に入り、意識が遠のいていく。


目を覚ますと、幸子は豪華な宮殿の中にいた。周りを見回すと、彼女は魔女マレフィセントの姿になっていることに気がついた。


「また悪役か...」幸子は少し複雑な表情を浮かべた。しかし、すぐに気を取り直す。「これなら簡単にハッピーエンドを阻止できるはず」


幸子は早速、オーロラ姫に呪いをかける計画を立てた。しかし、彼女の呪文は少し違った効果を生み出してしまう。オーロラ姫は百年の眠りにつくのではなく、百日間毎晩異なる夢を見る呪いにかかってしまったのだ。


この予想外の展開に、幸子は戸惑いを隠せなかった。しかし、彼女の行動は思わぬ結果をもたらす。オーロラ姫は毎晩の夢で様々な経験を積み、知恵と勇気を身につけていったのだ。


幸子は焦りを感じ始めた。次に彼女は、王子がオーロラ姫に近づけないよう、城の周りにトゲのある植物の壁を作ろうとした。しかし、彼女の魔法は再び予想外の効果を生む。トゲのある植物の代わりに、美しい花々が咲き誇る庭園が出現したのだ。


「なぜ...なぜ上手くいかないの?」幸子は混乱していた。


しかし、この庭園は思わぬ効果をもたらす。美しい花々に惹かれて訪れた人々が、眠りについたオーロラ姫の噂を聞きつけ、彼女を目覚めさせようと集まってきたのだ。


幸子は最後の手段として、自ら王子に変装してオーロラ姫のもとに向かうことにした。「私が偽物の王子としてキスをすれば、物語は台無しになるはず」と考えたのだ。


しかし、オーロラ姫のもとに到着した幸子は、思わぬ事実を知ることになる。オーロラ姫の百日間の夢の中で、彼女は王国の未来に関する重要な予言を受け取っていたのだ。その予言には、迫り来る危機と、それを救う方法が記されていた。


幸子は葛藤した。オーロラ姫を目覚めさせないことで物語を台無しにしたいという気持ちと、王国の危機を救いたいという正義感が心の中で戦った。しかし最終的に、幸子は正しい選択をする。


彼女はオーロラ姫に優しくキスをし、彼女を目覚めさせた。目覚めたオーロラ姫は、幸子の勇気ある行動に感謝し、二人で力を合わせて王国の危機を回避する計画を立てる。


幸子の変装は解け、彼女は本来のマレフィセントの姿に戻った。しかし、今や彼女は敵ではなく、オーロラ姫の良き相談相手となっていた。二人の協力により、王国は迫り来る危機から救われ、人々は平和と幸福を取り戻した。


物語は、オーロラ姫と本物の王子の結婚式で幕を閉じようとしていた。幸子はその式を見守りながら、不思議な満足感を覚えていた。しかし、その瞬間、彼女の意識は再び現実世界へと引き戻される。


目を覚ますと、幸子は図書館にいた。手には「眠れる森の美女」の本が握られていた。最後のページを開くと、そこには彼女が体験した冒険が詳細に書かれていた。


幸子は深い思索に浸りながら、本を元の場所に戻した。彼女の心の中で、これまでの考え方が大きく揺らいでいた。


「幸せって...作り出すだけじゃなく、共有するものなのかも」


そんな新しい気づきが、幸子の心の中でより大きな位置を占めるようになっていた。彼女の表情には、以前には見られなかった柔らかさが浮かんでいた。


図書館を出る際、幸子は次の冒険に向けて、少し期待に胸を膨らませていた。彼女の中で、物語の世界に入ることへの恐れや抵抗は、いつの間にか楽しみへと変わっていたのだった。



第四 リトル・マーメイド


幸子は目を開けると、自分が海の中にいることに気がついた。周りを見回すと、美しい珊瑚礁や色とりどりの魚たちが泳いでいる。そして、自分の下半身が人魚の尾になっていることに驚いた。


「ああ、今度はリトル・マーメイドの世界か」と幸子はため息をついた。「またしてもハッピーエンドを阻止しなきゃいけないのね」


幸子は物語の展開を思い出そうとした。人魚姫が人間の王子に恋をし、魔女と取引して人間の姿になる。しかし、声を失う代わりに。そして最後には王子と結ばれるはず...。


「よし、まずは人魚姫が王子に会えないようにしなきゃ」と幸子は決意した。


幸子は人魚姫を見つけ出し、王子の乗る船が通る予定の場所に向かうのを阻止しようとした。しかし、彼女の行動が逆効果を生んでしまう。


「ねえ、あなた」幸子は人魚姫に声をかけた。「今日は嵐が来るって噂よ。海面に上がるのは危険だわ」


人魚姫は幸子の警告を聞いて心配そうな表情を浮かべた。「でも、私は人間の世界が見たいの。特に今日は」


幸子の言葉がかえって人魚姫の好奇心を刺激してしまい、彼女はより強く海面に向かおうとした。結果、人魚姫は予定よりも早く海面に到達し、嵐に巻き込まれた王子を救出することになった。


「まさか...」幸子は唖然とした。


次に、幸子は魔女の住処に向かった。魔女と人魚姫の契約を妨害しようと考えたのだ。


「魔女さん」幸子は魔女に近づいた。「人魚姫の声は素晴らしいものよ。その声を奪うのはもったいないわ。代わりに...彼女の美しさを奪ってはどう?」


魔女は幸子の提案に興味を示した。「面白い案だね。確かに、美しさを奪えば人間の王子は彼女に見向きもしないだろう」


しかし、この提案もまた思わぬ結果を招いた。魔女は人魚姫の美しさを奪う代わりに、彼女の純粋な心と優しさを強調するマジックをかけた。そのため、王子は人魚姫の内面の美しさに惹かれていったのだ。


幸子は焦りを感じ始めた。最後の手段として、彼女は王子の婚約者になりすまして人魚姫を遠ざけようとした。


「王子様」幸子は王子に近づいた。「私はあなたの婚約者です。どうか、あの奇妙な少女には近づかないでください」


しかし、幸子のこの行動が、逆に王子の心に疑問を抱かせることになった。王子は自分の心の声に耳を傾け、本当の愛を探そうと決意。そして、人魚姫の純粋な愛に気づくきっかけとなったのだ。


物語が結末に向かうにつれ、幸子はついに自分の行動の意味を悟り始めた。彼女のあらゆる妨害が、むしろ二人の愛を強め、ハッピーエンドへと導いていたのだ。


「私の不幸にしようとする行動が、逆に幸せを生み出している...」幸子は呟いた。「もしかして、幸せになろうとすることこそが、本当の幸せを見つける方法なのかもしれない」


その瞬間、幸子の周りの世界が揺らぎ始め、彼女は再び図書館の中にいた。本を閉じると、不思議な充実感が彼女の心を満たした。


幸子は静かに微笑んだ。「これまで私は、他人の幸せを壊そうとしてきた。でも、それが逆に幸せを作り出していたなんて...。私も、自分の幸せを探してみようかな」


彼女は立ち上がり、図書館を後にした。外の世界は、彼女が思っていたよりもずっと明るく、温かいものに感じられた。幸子は初めて、自分の名前が持つ本当の意味を理解し始めたのだった。




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